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「新基準のバット」で高校野球はどう変わる?都立の雄が感じている攻・守での影響

上原伸一ノンフィクションライター
秋の大会後から「新基準」対策に取り組んでいる都城東(写真提供 都立城東野球部)

芯が小さく、ごまかしがきかない

高校野球では来春のセンバツ大会、各都道府県大会から、バットが新基準へと完全移行となる。高校の金属製バットは、1999年に基準が改定されたが(移行期間を経て、2001年の秋季大会より900グラム以下は使用禁止に)、それ以来の変更となった。

変更点は大きく2つ。まず、打球部の太さが、直径67ミリ未満から64ミリ未満に。つまり、バットが細くなった。そして、打球部の金属自体の厚みが、約3ミリから約4ミリになり、約1ミリ増した。

こうしたことによって、反発力が下がり、新基準のバットは、従来よりも飛ばなくなった。

筋力トレーニングや打撃練習用マシンの導入が進み、高校生の打球速度や飛距離は向上している。だが、それゆえに、打者から一番近い投手に危険が及び、「打高投低」の傾向も見られる。バットの基準を変更した背景にはこうした事情があったようだ。

では、現場では来春の完全移行に向けて、どんな取り組みをしているのか?都立城東高校(以下、城東)は、秋の大会は従来のバットで臨んだが、敗れるとすぐに練習試合で新基準のバットを使い始めたという。

城東は、1999年と2001年の2度、夏の甲子園に出場している。都立高校で2度甲子園に出たのは城東だけである。近年も21年夏の東東京大会で4強になるなど、コンスタントに好成績を残している。

新基準のバットに慣れるには、なかなか時間がかかるようだ。城東の主将で、四番打者の滝浪央翔(ひろと、2年)はこう話す。

「練習試合を20試合くらい消化して、僕自身はようやく慣れてきました。ただ、チームのなかには、まだ対応できていない選手もいます。練習試合の相手も含めて、振りが大きい選手や、上半身のパワーに頼った打ち方をしている選手ほど、戸惑っている印象があります」

なぜ、対応が難しいのか? 滝浪はバットの「芯」が小さくなった影響を感じている。

「感覚的には半分になりました。芯でとらえれば飛んでいくのですが、外すと、明らかに打球が詰まりますし、手がしびれます。従来のバットなら、こすったような打球でも長打になるケースがありましたが、それもなくなり、自分の長打も減りました。ごまかしがきかないバットだと思います」

滝浪によると、バントも難しくなったようだ。これまでと同じようにバントをすると、ファールになるなど、想定外のことが起きるという。「どこに当てればいいか、バントにも慣れる必要があります」。

従来のバットと新基準のバットを手に話をしてくれた都立城東高の滝浪主将。中学では中学硬式の強豪として知られる世田谷西シニアでプレーしていた(筆者撮影)
従来のバットと新基準のバットを手に話をしてくれた都立城東高の滝浪主将。中学では中学硬式の強豪として知られる世田谷西シニアでプレーしていた(筆者撮影)

チームでの決め事は「低い打球を打つ」

17年秋から城東を率いている内田稔監督は、初めて新基準のバット試打をした際、木製バットに近い感じを受けたという。内田監督は城東OB。高校3年夏(01年)に四番・サードで甲子園に出場し、明治大学でもプレーした。

そこで手始めに、新基準の感覚をつかませようと、(含竹の)木製バットでフリー打撃を行った。ところが、バットを折る選手が続出。「5、6本は折ってしまいました。これでは木製バットが何本あっても…と、1回限りでやめました」。

ちなみに内田監督は高校時代、3年夏まで900グラム以下の扱いやすい金属製バットを使えた(前回の完全移行は、内田監督が高校3年の秋から)。高反発で軽いバットに慣れていたのもあり、大学では木製バットの扱いに苦労したという。

ただ、もともと行っていた、木製バットを使ってのティ打撃やハーフ打撃は継続している。「新基準を意識しながら、という要素が加わりました」(内田監督)

現在、チームにある新基準のバットは4本(うち2本は都高野連(東京都高等学校野球連盟)から支給された)。本数に限りがあるので、練習ではマシン打撃の際などに交代で使っている。来春に向けては増やしていく予定だが、今秋は全員が使える練習試合を通して、新基準に対応する感覚や技術を磨いていった。

練習試合で全員が共有していた決め事は、「低い打球を打つ」。内田監督は「ウチの選手が新基準で打ち上げてしまうと、外野まで飛んだとしても、ほとんど失速してしまうので」と話す。

都立城東高の内田稔監督。高校時代は軽量で反発性の高い金属製バットを使っていたのもあり、大学では木製バットに馴染むまで時間がかかったという(筆者撮影)
都立城東高の内田稔監督。高校時代は軽量で反発性の高い金属製バットを使っていたのもあり、大学では木製バットに馴染むまで時間がかかったという(筆者撮影)

学校の下校時間が決まっている関係で、平日の練習時間は2時間程度。選手たちは帰宅後の自主練習で技術を高めている。新基準に対応するための取り組みは自主練習でも行っており、滝浪は、木製の重たいバットでスイングをしているという。

「先端部に重心があるトップバランスの、1200グラムのバットを振っています。新基準のバットを使いこなすには、小さい芯でとらえるミート力に加え、スイングスピードとパワーが必要になってくるからです」

新基準のバットでマシン打撃をする都立城東の選手。練習では4本ある「新基準」を交代で使っている(筆者撮影)
新基準のバットでマシン打撃をする都立城東の選手。練習では4本ある「新基準」を交代で使っている(筆者撮影)

打球の変化による守備への影響も

野球は攻撃もあれば、守りもある。バットが新基準になった影響は、必然的に守備にも及んでいるようだ。

「僕は一塁手ですが、守りにくさはあります。打球音も違いますし…これまでは必ず、カキーンという打球音がしてたんですが、芯に当たらないとそういう音がせず、ボコッという音なんです。従来の打球音で守備のリズムができていたので、ボコッだと反応が遅れてしまうのです。それと、芯を外したゴロはこれまで以上に勢いがないので、足を運んで前で捕らないと間に合わないこともあります」(滝浪)

内田監督は「新基準への対応は、詰まるところ、個人で技術を高めるしかないが、守備においては、チームとしていろいろな可能性を頭に入れておく必要がある」と考えている。

「練習試合ではポテンヒットが多く見られました。内野をゴロで抜けていく打球も少ないので、走者が得点圏にいるときのポジショニングをどうするか…得点が入りにくくなれば、これまで以上に足をからめてくるチームが増えるので、その備えもしなければいけないでしょう。守りの中心となる投手については、オーバーフェンスが減りそうな分、そこを気にせずに投げられそうです。球種ではカットボールやツーシームといった、芯を外すボールがより有効になるかもしれません」

ところで、城東には従来のバットが20本ある。まだ練習では使っているが、来春になれば「旧基準」になってしまう。

「バットの基準が変わるのは、指導者になってから初めてなので…どうするか、それも考えなければならないですね」

従来のバットをどうするかも、新基準導入における1つの課題のようだ。

新基準に完全移行になるまで、あと約4か月-。果たして高校野球はどう変わるのだろうか。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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