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メンバー全員50代。TERUとJIROが語るGLAYの“限界突破”と未来像

内田正樹ライター 編集者 ディレクター
(GLAY。写真提供:(C)loversoul)

■61枚目のシングルは“新機軸”と“王道”

発売中のGLAYの最新シングル『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』は、現在開催中の全国ライブツアー『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-』(※6月11日東京公演まで)に先駆けてリリースされた通算61枚目の両A面4曲入りシングルである。

収録曲の「THE GHOST」は TAKURO(Gt)が 作詞、JIRO(Ba)が作曲を手掛けた。ミドルテンポのアレンジのなか、JIROが弾くディスコ/ソウルミュージックのテイストによるベースラインが特徴的な、これまでのGLAYには無かった新機軸のナンバーだ。一方、「限界突破」TERU(Vo) が作詞・作曲を担当。GLAYの王道とも言える壮大なスケール感のロックナンバーに仕上がっている。

今作が3月8日付けオリコンチャートでシングル売上3位をマークしたことによって、GLAYはオリコン週間シングルランキングTOP10入り連続年数記録で歴代1位となった。来年はデビュー30周年。長年に渡って国民的な知名度と多くのファンの支持を得ている彼らを駆り立てるものとは? TERUは51歳。JIROは50歳。コロナ禍を経た現在地点とその先に見据える未来を二人に訊いた。

(『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』ジャケット。写真提供:(C)loversoul)
(『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』ジャケット。写真提供:(C)loversoul)

■デビュー以来、今、一番ベースを楽しんでいる(JIRO)

――今回の「THE GHOST」のディスコミュージック的とも言えるダンサブルなベースラインはGLAYにとって新機軸ですね。

JIRO:ここまではっきりとベースで引っ張っていく曲はこれまでのGLAYに無かったと思います。コロナ禍に入ってから、ベーシストの多田尚人さんのYouTubeにハマって、そこから対談の機会が生まれ、交流が始まって、これまでほとんど聴いてこなかったディスコやソウル、R&B系の音楽に目覚めた。そのうちGLAYの中でも「じゃあそういう曲、作ってきてよ」という話になって。バスドラムのキックによる4つ打ちにBPM120というダンサブルなリズムを決めて、そこから今の自分が弾いて気持ちの良いベースラインを考えて、後からメロディーが付いてきたという感じで。僕自身としても初めての作り方でしたね。

(JIRO。写真提供:(C)loversoul)
(JIRO。写真提供:(C)loversoul)

――TERUさんはこの曲を初めて聴いた時、どう感じられましたか?

TERU:最初はちょっとアプローチに悩みましたね。でも、まずはJIROのベースラインを大事にしたくて、歌のキーも自分から曲に合わせて。結果、そんなに声を張らないアプローチでJIROに返したら「めちゃくちゃ良いじゃん」と言ってもらえたので、その流れを活かしてレコーディングに入りました。完成までの間、JIROがこだわったベースとキックの音がどんどん進化していったので、それを聴くのがすごく楽しかった。

(TERU。写真提供:(C)loversoul)
(TERU。写真提供:(C)loversoul)

――とは言うものの、ディスコ系のマナーを活かしつつGLAYの歌としても成立させるのは、なかなかハードルの高いミッションだったのでは?

TERU:そうですね(笑)。GLAYでは比較的にHISASHI(Gt)の書く曲は低い音程でAメロに入ることが多くて、そこでの僕の声質が好きだと言ってくれるファンが多いんです。今回はJIROの曲ですが、敢えてHISASHIの曲の出だしに近い、艶やかな低音を狙ってみました。リリース後、ファンからも「まさに」という反応をもらえたのでホッとしました(笑)。自分でもこういう低音をもっと使っていけたらと思うし、TAKUROもJIROに「こういうテイストの曲、もっと書いてよ」と言っていたので今後が楽しみですね。

(「THE GHOST」。オフィシャルYouTubeより)

――それにしてもJIROさんが「全く」と言うほどディスコやソウル系を聴いてこなかったというのはちょっと意外でした。ベーシストって、多かれ少なかれ一度は通過する人が多い気がするのですが。

JIRO:本当に全く聴いてこなかったし、むしろ昔は超嫌いだったんですよ(笑)。ディスコ系に限らず、80年代の音楽特有のちょっとパーティー臭がする賑やかな感じの洋楽がずっと苦手でしたね。あくまで個人的なイメージだけど、80年代は日本のロックの方が尖っていてカッコいいとさえ思ってきましたから。時々、モータウン系のベースを研究しようと思った時期もあったけど、やっぱりGLAYのツアーが始まれば自然とロックに戻るし。

――ここに来て大きな変化でしたね。

JIRO:やっぱりコロナの影響でスケジュールに長い余暇が生まれたことが大きかった。時間が出来たことで、知らなかった音楽の良さに気付けて、根深く探ることが出来ました。僕、この2年ぐらい、「こんなに練習するのなんてデビュー以降初めてなんじゃない?」というぐらい、改めてベースにハマってるんですよ。ある程度は方程式が分かっているロックと違って、ディスコやソウル系は今まさに掘り下げている最中なので面白い。グラミー賞も長年全く興味なかったけど、今年は最近の自分が好きな曲ばかりだったし。今回の「THE GHOST」のベースラインも、クラシックというよりもそうした最近の音楽の感じに近いと思います。

■“限界突破”という言葉に惹かれて(TERU)

――一方、TERUさんの「限界突破」スノーボードの世界で“カービングの神様”とリスペクトされているラマさんとの出会いから生まれたそうですが。

TERU:例年、僕もJIROもスノボが好きで毎年のように滑りに出掛けていたんですけど、コロナ禍でなかなか行けずにフラストレーションが溜まっていた時、YouTubeでラマさんを見つけて。彼は「何でこんなことが出来るんだ?」という角度でターンを決めるんですよ。すごく感動して、僕のほうからInstagramをフォローしたら返信を頂いて、そこからやり取りが始まって。行動規制解除後に会いに行って、初めてスノーボードのレッスンを受けて一緒に滑らせてもらったんですけど、それまでの自分の基礎が根底から覆されて(笑)。

――そんなに違うものですか?

TERU:もう全く違う(笑)。体が地面にくっ付くぐらいでターンするんですよ。そうした時間のなかで、ラマさんから「プロを辞めて人に教える立場になった時、自分の限界を突破しないと出来ない事だらけだった」というお話があって、“限界突破”って良い言葉だなあと思って。GLAYもいろいろな限界を超えてきたという自負があったし。

(「限界突破」。オフィシャルMV)

――JIROさんと多田さんのケースといい、TERUさんとラマさんのケースといい、いずれもお二人のフットワークの良さとご縁に恵まれた出会いを感じますね。

TERU僕とHISASHIはSNSを介して仕事を依頼することが意外と多い。DMで思いを伝えて、返信が返ってきて、みたいな。自分たちだけでアレンジするとGLAYになり過ぎちゃう展開を一旦解体してほしいという時に、GLAYらしさじゃない引き出しを客観的に引き出してほしくて。

JIRO:僕はSNSをやっていないので多田さんについては周囲から「会ってみれば?」と背中を押された感じでしたけど。ただ、いつも思うんですけど、その道で“限界突破”をされている方って、こっちが勝手に「怖そう?」とか「気難しいのかな?」と思いがちなだけで、実際に会ってお話ししてみると大抵の皆さんは常識人というか。普段の人となりから素晴らしい方々ばかりなんですよね。

――今回、「THE GHOST」のアレンジでは近年ご一緒されている亀田誠治(ベーシスト/アレンジャー/プロデューサー)さんが、「限界突破」のアレンジではGARIのボーカリストのYOW-ROWさんがそれぞれ参加されています。

JIROGLAYは何か違った魅力を引き出してもらいたい時、いろんな人に手を貸してもらう。亀田さんについても「もっとバキバキにロックしたいね」という時期にオファーして、それ以来ご一緒させてもらっています。

――かつてGLAYのプロデュースを手掛けていた佐久間正英さん(※2014年逝去)もベーシストでしたね。

JIRO:お二人ともデモの時点で仮のベースラインを弾いてくれたりするんですが、佐久間さんは曲を支えるベースで、亀田さんはグイグイと攻める感じのベース。全くスタイルが違うんですよね。そうした意味では、亀田さんとの出会いも改めてベースの楽しさを再発見させてもらえた機会でした。それもあって、当初は亀田さんの作ってくれた仮のベースラインをそのまま採用させてもらっていた曲もあったんですが、いざツアーで弾いてみるとフレーズが面倒臭過ぎて(笑)。お客さんとコンタクトをとる余裕が全く無かった(笑)。

■一人が「やりたい」と言ったことを全員で面白がれるのがGLAY(TERU)

――それにしてもGLAYの風通しの良さって、ベテランのロックバンドのなかでも極めてめずらしいと思うのですが。

TERU:僕としては今そう言われてみて、初めて「あ、俺達ってそんなに風通しがいいんだ?」と思うくらい(笑)。とにかく一人でも何かを「やりたい」と言う声が挙がったらやってみるのがGLAYのルール。誰かが先頭に立って「やりたい」と言うことを全員で自然と面白がれるのがGLAYのスタイル。そこは強みかもしれませんね。

――昨年、TAKUROさんにインタビューした際、「僕にはGLAYがどんなトライをしても『TERUが歌えばGLAYになる』という自信がある」と語っていました。その言葉にTAKUROさんがTERUさんに寄せる絶対的な信頼を感じましたが、フロントマンとしてのプレッシャーは感じますか?

TERU:もちろん感じますけど、僕にとっては「TERUが歌えばGLAYになる」という信頼感は楽しさの方が遥かに大きい。JIROからも「これ、(別プロジェクトの)THE PREDATORS用の曲だったんだけど、ちょっとGLAYでやってみない?」とか、TAKUROからも他のアーティストへの提供曲用に書いた曲を「歌ってもらっていい?」と言ってもらえる。それもボーカリストとしての“限界突破”だし。たまにファンからも言われるんですが、僕は自分から一番高いキー設定で歌おうとする癖があって。もちろん喉はキツいんだけど、やっぱりそこに気持ち良さがあるから、つい限界を攻めてしまいますね。

(「HIGHCOMMUNICATIONS」 (HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2003から。オフィシャルYouTubeより)

――JIROさんはコロナ禍に新たなジャンルに目覚めましたが、TERUさんはどうでしたか?

TERU:コロナ禍になってまず始めたのが公式アプリを通してのアコースティックライブでした。GLAYの楽曲を毎回10曲ずつぐらいアコースティック調にリアレンジしたものをプレイしたんですが、それがすごく楽しかった。喉を休ませず、ずっと使い続けると同時にスキルアップにも繋がりましたね。だからコロナ禍の3年間、ずっと練習していたような気分でした。JIROと同じく、僕もこの3年が人生の中で一番歌っていた期間なんじゃないかと思います。だから今回のツアーもリハから全力で歌っているけど全くキツくないんですよ。

■全員50代。TERUとJIROが見据えるGLAYの未来とは?

――ちなみに体調管理についてのルーティンなメニューなどはありますか?

TERU:コロナ禍に入って、リモートで週3回の全身トレーニングを始めました。僕はボイストレーニングはほとんどやったことがないんですが、全身を鍛えることで、喉も鍛えられてきたという感じはありますね。

JIRO:僕は昔からオフの期間もツアーの期間も常に週2回のトレーニングを。

――GLAYは全員50代前半来年はデビュー30周年イヤーに突入します。俗に“人生100年時代”なんて言われる昨今ですが、お二人は現時点でどんなGLAYの未来像を描いていますか?

TERU僕は常に先の事を考えるタイプで(笑)。GLAYが60代、70代を迎えた時、もしかしたら現在とはまた違った活動環境になっているかもしれない。もしそうなった時、自分たちで自由に使える大きなスタジオがあったらいいなと思って、2018年、函館にスタジオを作りました。もう僕の頭の中には70代か80代になった4人が一緒にレコーディングしている姿が出来上がっている(笑)。そんな未来を実現させるためにも、今は健康に気をつけて、努力を怠らず、真剣に音楽と向き合っていけたらと思っています。

(現在展開中の最新ツアーより。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)
(現在展開中の最新ツアーより。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)

JIRO:僕はTERUとは正反対で、そこまで先の事は考えられない性格です(笑)。ただ、今、ベース弾くのがこれまでで一番楽しい。そう思えている現状はすごく重要で。この気持ちでツアーを回ればきっと新たな学びもある。今はそれがすごく楽しみですね――GLAYをどのぐらい続けられるのか、僕にはちょっと想像がつかない。でも、「やった、チケット取れた!」と熱心に応援してくださるファンが一人でもいる限りはやりきらなければという使命感は自分なりにあって。そこは20代の頃とは比べ物にならないくらい強く感じています。

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ライター 編集者 ディレクター

雑誌SWITCH編集長を経てフリーランス。音楽を中心に、映画、演劇、ファッションなど様々なジャンルのインタビューやコラムを手掛けている。各種パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/ディレクション/コピーライティングも担当。不定期でメディアへの出演やイベントのMCも務める。近年の執筆媒体はYahoo!ニュース特集、音楽ナタリー、リアルサウンド、SPICE、共同通信社(文化欄)、SWITCH、文春オンラインほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』などがある。

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