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「内定取り消しが後をたたない」報道が相次いでいる件 毎日・日経・時事・沖タイの見出しは東スポ以下だ

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
(写真:アフロ)

「内定取り消し報道」が相次いでいる。ただ、気をつけたいのは「内定取り消し」が相次いでいるわけでは必ずしもないことである。そして、中には論拠が不明確なもの、見出しと中身が異なるものも多々ある。

内定取り消しについては泣き寝入りせずに対処したい。今野晴貴さん、佐々木亮さんのエントリーが内定取り消しがなぜ悪か、どう対応すればよいのか、大変によくまとまっているのでご覧いただきたい。

コロナで高まる「内定取り消し」のリスク  相談事例から対処法を解説する(今野晴貴) - Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200313-00167626/

新型コロナによる<景気悪化>で内定取り消しされた場合の留意点(佐々木亮) - Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakiryo/20200313-00167539/

一方、「内定取り消し報道」についても、問題点を指摘したい。これらの報道が、求職者の不安を煽っていたり、さらには内定取り消しをしようかどうか迷っている企業の背中を押してしまっていないか。

心配になったので、勤務先の千葉商科大学のキャリアセンターに問い合わせてみた。1学年約1,600人、偏差値50の大学なのだが、3月16日時点で内定取り消しはゼロだった。あくまで本学のデータではある。ただ、地元の中小企業に就職する学生も多い本学の実態と、報道との乖離が気になった。

各紙が内定取り消し関連でどのような報道をしたか、追ってみた。経団連の呼びかけ、加藤厚労相のコメントなどが中心ではあった。踏み込んで報じていたのは、特に次の4つの報道である。

ヤフートピックスにも掲載されていたこの時事通信の記事などは罪深い。これがヤフートピックスになってしまうこと自体、ヤフーニュースの信頼に関わる問題だと思うのだが・・・。

内定取り消し、相次ぐ悲鳴 救済に乗り出す企業も―新型コロナ:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020031600115&g=soc

→「相次ぐ悲鳴」と言いつつ、その明確な人数が書かれていない。具体例はたしかに書かれているが、新卒、中途など様々な採用対象をまとめて論じるパッチワーク的なものになっている。

新型コロナで内定取り消し 学生救済に企業名のり:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56877850X10C20A3TJ1000/

→タイトルと中身が大きく異なる。「事業の悪化や不透明な先行きなどを懸念して中小企業などで2020年4月に入社する予定の学生の内定を取り消す動きがでていることが明らかになった。」とあるが、その根拠が明記されていない。内定取り消しの数は、厚生労働省が発表した1社についてふれるのみ。

新型コロナで業績悪化→内定取り消し 厚労省「ハローワークに相談を」実態把握へ:毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200313/k00/00m/040/278000c

→この記事はまだ具体例を示してはいる点では良い。ただ、「厚労省は、全国のハローワークを通じて内定取り消し数を把握している。その結果、製造業の企業に入社予定だった今春卒業の高校生が内定を取り消されたほか、入社時期を遅らされたという相談が複数確認され、経済団体や大学などを通じて情報収集することにした。」とあるように、明確なのは1件のみ。

「解雇と言われた」「内定取り消しの手続きは」 沖縄労働局の新型コロナ相談 1カ月で875件:沖縄タイムス+プラス ニュース

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/548355

→県内企業や労働者の苦しい状況が記されている。ただ、見出しにおどる内定取り消し話は最後の方にあるのみ。「(今春入社予定の)内定取り消しを検討しているが、法的な手続きはどうなるのか」という企業からの相談が、9日から13日にかけて2件あったことが記されている。内定取り消しはあってはならないが、見出しとはやや乖離し、「相談」が「2件」というのが事実である。

もちろん、内定取り消しについては発生ベースと、ハローワークで把握するベースは違う。若者が路頭に迷うようなことは回避しなくてはならない。問題提起も、警鐘を鳴らすことも大切である。

しかし、正確な情報に触れないまま、見出しで不安を煽り、「他もやっている」と企業の背中を押すおそれもあるような報じ方はいかがなものか。「内定取り消しがあいついでいる」という報道により、内定取り消しが後をたたない状況が進んでしまわないか。私なりに、警鐘を乱打することにする。

紙の新聞は信頼できると言うが、まるでネットニュースのような煽る見出しは頂けない。東スポなみと言いたくなったが、いまやこちらの方が誠実であり、正確ではないか。3月16日の見出しは「ライガー WWE殿堂入り」であり、揺るぎない事実だった。感染症の専門家は指摘しないが、コロナウイルスは感染しなくても、メディアの劣化を可視化するという症状をもたらすようだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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