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プレミアムフライデーの流行語大賞受賞は褒め殺し 受賞式にやってきた経団連副会長はあっぱれだ

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
地味だと言われる今年の流行語大賞ですが、とはいえ大賞が2つでましたね

 2017年最後の金曜日である。ということは、プレミアムフライデーだ。しかし、既に仕事納めという企業もある。仕事を早めに終えてひと足お先に週末を楽しむという趣旨からはやや外れる金曜日である。いずれにせよ、すでにどうでもよくなっている人も多いのではないか。

 その「プレミアムフライデー」だが、『現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞2017』のベストテンにランクインした。「流行っていないのに、なぜ」と思った人も多いことだろう。この取り組みを評価する者は「ほら、認められたじゃないか」と言う者もいるかもしれない。

 ここで、その授賞式の現場にいた者として、また長年この所謂「流行語大賞」をウォッチしている者として、さらには「プレミアムフライデー」ウォッチャーとして、事実の交通整理をしておきたい。

 結論から言うと、「プレミアムフライデー」は評価されたわけでも、普及が認められたわけでもない。それどころか今回の受賞は、褒め殺し、吊し上げのようなものだった。そうだと分かっていて、授賞式にやってきた経団連副会長で三越伊勢丹ホールディングス特別顧問の石塚邦雄氏はあっぱれだ。もっとも、彼のこの場でのコメントで、プレミアムフライデーのブレイクはますます厳しいと私は確信した。

 

 まず、「流行語大賞」こと『現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞』の性質について理解しておきたい。ここでのノミネート語、ベストテン、大賞は原則としてその年の『現代用語の基礎知識』(自由国民社)に掲載された語の中から、選考委員により選ばれる。売上、検索回数、SNSでの拡散など数値的データに基づいて決まるわけではない。選考委員の意志が反映されており、客観的なものではない。「編集」されたものという言い方もできる。

 時代を象徴する言葉が選ばれるがゆえに、受賞理由はポジティブなものになるとは限らない。中には問題提起型、褒め殺し型でノミネートし、ベストテン、大賞に選ばれるものもある。次のリンクにある受賞語と、受賞コメントを読むと理解して頂けることだろう。

第34回 2017年 受賞語

http://singo.jiyu.co.jp/award/award2017.html#prize01

 

 ゆえに、受賞者が授賞式に現れないこともよくある。さらには、受賞者が辞退してしまったがゆえに、「わかるけど、他にもいるのでは?」という人が受賞することもある。あるいは、今回まさにノミネートされていた元自民党議員の言葉で言うと「ちーがーうーだーろー」ということになるか。

 今年の大賞は「忖度」「インスタ映え」だった。受賞者は、「忖度」は忖度まんじゅうを作っていた企業、株式会社ヘソプロダクションの代表取締役稲本ミノルさん、「インスタ映え」は雑誌『CanCam』のモデルCanCam it girl。ともに功績は認められる。それぞれの賞の受賞において私は異論はない。ただ、特に前者においては、受賞するべき人は他にも浮かぶはずだ。

 

 このあたりの「流行語大賞」の舞台裏については、選考委員でもある自由国民社の清水均氏に2014年にインタビューを行っている。こちらの記事もご参照頂きたい。

<a href="http://toyokeizai.net/articles/-/56483" target="_blank" title="">流行語大賞の「メディア陰謀説」は本当か 「集団的自衛権」「ダメダメ」W受賞はなぜ? | 「若き老害」常見陽平が行く サラリーマン今さら解体新書- 東洋経済オンライン </a>

http://toyokeizai.net/articles/-/56483

 肝心の「プレミアムフライデー」について、その授賞式の模様を文字起こしでお伝えしよう。当日、現場でのログを元にお届けする。

司会(女性):「ワンオペ育児」の悲鳴が聞こえ、世界の日産自動車は無資格検査問題で揺れ、日本の基幹産業を担う神戸製鋼所はデータ改ざんでものづくり日本を失墜させ、「明日をつくる技術」の東芝は経済(※1)再建でテレビ事業を売却。およそ半世紀続いた『サザエさん』のスポンサーを降りた。

こんな空気の今年、「毎月最終金曜日は、プレミアム!」のキャンペーンは定着したとは言い難い。「働き方改革」への意識が広まりつつあることは間違いないし、景気面では東京株式市場ではバブル崩壊後の高値を26年ぶりに更新。景気回復期間はいざなぎ景気を超えたとも言われるほどの好調ぶり。

バブル時代を振り返ると1998年(※2)、新語・流行語大賞銀賞を受賞した言葉は「ハナモク」。木曜日から週末モードの浮かれ気分をあらわした言葉で、受賞者は百貨店の松屋だった。今回の景気回復からはこんなウキウキの言葉が生まれて来ない。これが生活実感の薄さを如実にあらわしている。

「プレミアムフライデー」はなんとか一般社会に余裕と潤いを戻してもらいたいという、経済産業省の切なる願いが生んだ言葉なのだ。

司会(男性):「プレミアムフライデー」受賞者はプレミアムフライデー推進協議会の皆様です。本日は日本経済団体連合会副会長石塚邦雄さんにお越し頂きました。石塚さん、どうぞ。

(拍手、まばら)

司会(女性):表彰の盾を俵(万智)選考委員よりお贈りいたします。

(拍手、まばら)

司会(男性):俵選考委員より贈られました。それでは石塚邦雄さん、受賞のご挨拶をお願いします。

石塚邦雄氏(以下、石塚):えぇ、ありがとうございます。あの、「プレミアムフライデー」に対しては結構、きついお言葉でですね、受賞理由等をお話しになりました。また、やく(みつる)さんからもですね、さきほどは「批判的に選んだんだ」というようなお話がありました。

「プレミアムフライデー」この2月から官民のプロジェクトとして、まあ、個人消費をなんとか盛り上げたいということで、キャンペーンが始まったわけでございます。で、そのひとつのなかの意義としてですね、小売サービス事業者側がお客様のニーズに合うような商品、プレミアムな商品をもっともっと開発しなければいけない、提供しなければいけない、サービス、イベント、ライフスタイルをもっともっと考えて提供していかなければいけないというところにこの意義があったわけでございますけれど、まあ、そういう努力がたんなかった(※3)がゆえに、まだまだ定着していない、浮いていると、いうような受賞理由であったかという風に思います。

ただ、こういう風に、こう新語として、あるいは流行語として、まああの、今日こう受賞させて頂きましたので、この受賞をバネにですね、さらに我々が努力をしてこの「プレミアムフライデー」を定着させていくということをぜひ、あの、頑張って行きたいというふうに思います。ありがとうございました。

司会(男):ありがとうございます(拍手)。石塚さん、この「プレミアムフライデー」ますます定着させるために、色々と努力なさるのでしょうけれども、この具体的な活動はどうなさいますか。

石塚:あの、具体的な活動としてはですね、やっぱり新しいライフスタイルの提案を毎月毎月プレミアムフライデーにやっていくということだと思いますが、もっともっとやらなければいけないのは、小売サービス事業者側が本当にお客様のニーズに合うような商品を開発・提案・提供していく、というようなことではないかなと思います。

司会(男):一体となっていく、と。ありがとうございました。日本経済団体連合会副会長石塚邦雄様でした。

※1 「経済」と言っていたが、「経営」が正しいと思われる

※2 1988年の誤りだと思われる

※3 足りなかったをカジュアルに話したのだと思われる

 この吊し上げのような場にやってきた石塚氏は男闘呼だ。批判の声を真摯に受け止め、敬虔な反省をしているように聞こえる。経団連には批判的な論調をとることが多い私だが、人間として好きになった。

 ただ、この受賞コメント自体に「プレミアムフライデー」、もっというならば、彼の言うところの小売サービス事業者の限界を感じてしまった。揚げ足をとるわけはないが、これは小売サービス事業者がニーズを捉えきれていないことを言っているようなものではないか。さらに言うならば、今どき、ニーズに応えるのは当たり前で、それを超えた感動がなければ売れないのだ。Googleの理念風に言うならば「素晴らしいでは、足りない」のだ。

 

 「プレミアムフライデー」にしろ、さらに言うならば「働き方改革」にしろ、根本的・普遍的矛盾を抱えている。仕事の絶対量、任せ方などの問題だ。この件については、私は日刊工業新聞でのインタビューでコメントしているので、こちらをご覧頂きたい。ヤフトピにも載った。

プレミアムフライデーは失敗?「格差の実情があぶり出されただけ」(ニュースイッチ) - Yahoo!ニュース

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171220-00010007-newswitch-bus_all

 

 さらには、この受賞コメントから、小売サービス事業者と生活者のズレも可視化された。つい先日、経団連会長からも経産相からも、実施日の見直しの声が出ていたが、これだけでは不十分だ。まさに消費喚起施策として言うならば、まさに小売サービス事業者において、息切れ感があること自体が問題ではないか。 

 さて、来年以降、どのような展開があるのか。激しく傍観することにしよう。

 最後に、経団連副会長石塚氏を、三越伊勢丹ホールディングスの宣伝部に伝わる言葉で激励したい。

「人生、山あり、谷あり、モハメド・アリ!」

わざわざ、三越伊勢丹ホールディングスが運営する青山サロンに入るためにエムアイカードを作ったら閉店、仕事の帰りによく行く伊勢丹松戸店の閉店など、同店はまさに谷あり、モハメド・アリだが、きっとこれから山がくると信じている。奮起を期待したい。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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