Yahoo!ニュース

先々代のトンガ国王は昭和天皇を敬慕…皇室とトンガ王室、知られざる友情の歴史は

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

 年明けの1月15日、驚愕のニュースが報じられた。トンガ王国の首都から約65キロメートルのところにある、フンガ・トンガフンガ・ハアパイ海底火山が大噴火したのだ。その様子は日本の気象衛星ひまわり8号の連続画像によって、巨大な爆発であったことが知られた。

 しかも、この天災は海底ケーブルも寸断し、電話回線はもとよりネット回線も不通となり、しばらくの間、現地の詳細な状況が伝わってこなかった。次第に状況が少しずつ判明するに従い、近隣のニュージーランドやオーストラリア、そして日本などが緊急支援に動きだした。

 実は、トンガは世界でも指折りの親日国と言われ、長年にわたって友好の歴史を築いてきた。その始まりは、昭和天皇と2代前の国王・ツポウ4世の温かな厚誼によって培われてきたものだという。

■昭和天皇を敬慕した、トンガ国王ツポウ4世

 そもそもトンガ王国は、長くイギリスの保護領であり、外交と軍事に関して権限を持っていなかった。

 戦後、立憲君主制をとるトンガ王国が手本としたのは、同じ太平洋に面する国家の日本。1967年に国王となった、トンガ中興の祖と呼ばれるタウファアハウ・ツポウ4世は、王太子時代から幾度も日本を訪れ、昭和天皇との面会も果たしていた。

 巨体として有名だったツポウ4世は、昭和天皇をとても敬愛し、ともに大好きだったという相撲の話題に花を咲かせたこともあったとか。

 ツポウ4世が幾度も日本を訪れたのにはわけがあった。それは日本の戦後の驚異的な復興と経済成長の秘密を、その目で見て、知りたいと考えていたというのだ。 

 それがわかれば、トンガを豊かな王国にできると確信していたのだろう。

 その結果、ツポウ4世が発見した日本の繁栄の秘密は「算盤」であった。日本人の計算の巧みさは「算盤」のおかげと悟り、早速、トンガの教育に「算盤」を導入。今も「算盤」は子どもたちの間で続けられている。

 昭和天皇への敬慕の念は、1989年2月24日に執り行われた「大喪の礼」にも表れている。新宿御苑内に設けられた葬場殿の前には、弔問に訪れた各国の元首クラスの要人用テントが設置され、冷たい雨がそぼふる中、ツポウ4世はあの巨体を幾重にも折り、しょんぼりと小さくなって、誰よりも早くその席に座っていたのである。

 御霊への拝礼は、昭和天皇との生前の交流の深さを慮り、5番目という参列した国王の中でも上位に位置する順番であった。それだけ日本とトンガは、強い絆で結ばれた関係だったのである。

お辞儀をしているのがツポウ4世(アフロ)
お辞儀をしているのがツポウ4世(アフロ)

■天皇皇后両陛下が受けたトンガの歓待

 天皇陛下と皇后雅子さまも、長い友好の歴史を育んできたトンガ王国を、大切な友人であるという思いを抱かれているようだ。上皇さまや秋篠宮さまもトンガ王国との関わりは深いが、天皇陛下はこれまでに3度訪問され、王室とは今も親しい間柄だ。

 陛下が初めてトンガを訪問されたのは、皇太子時代の2006年。ツポウ4世が88歳の長寿をまっとうし亡くなったことを受け、葬儀に出席された。

 その後、ツポウ5世が国王(4世の長男)として即位し、2008年の戴冠式にも出席された。

 ツポウ5世の御代は短く、続いてツポウ6世国王(5世の弟)が2015年に即位に伴う戴冠式を執り行った。この時は陛下とともに雅子さまが同行され、トンガ国民はお二人を熱烈に大歓迎した。その際、用意された席は、式典の最上席。並々ならぬ歓待ぶりであったという。

■トンガ国民に心を寄せる両陛下

 2015年の戴冠式への参列を終えた両陛下は、帰国後にこのような感想を出されている。

「戴冠式は、多くの参列者や国民が見守る中で厳粛に執り行われ、荘厳な中にも心温まる式典に深く感銘を受けました。天皇皇后両陛下(現上皇ご夫妻)には、歴代の国王王妃両陛下と親しくご交流になられてこられています。このように我が国皇室とトンガ王室との間で親密な交流が積み重ねられている中で、この度、トゥポウ6世国王陛下よりお招きをいただき、戴冠式に参列し、心よりのご祝意をお伝えできたことを大変ありがたく思っております。

(中略) 両国国民間の温かい交流が積み重ねられてきています。これからも我が国とトンガ国との関係が深まり、両国国民の友情と交流の絆が更に強まればと願っています」

 と、トンガへのゆるぎない友情に言及されている。

 トンガの海底火山が噴火して以来、両陛下は現地の人びとの安否を心配され、国王ツポウ6世に対し、お見舞いの電報を打ってお気持ちを伝えられた。

 東日本大震災の時には、子どもたちが少ないお小遣いを出し合い、日本へ寄付金を贈ってくれたトンガ。その心づくしの思いやりに、今こそお返しをする時なのではないか。

 日本の皇室とトンガの王室によって築かれた、同じ太平洋の島国同士。8,000キロの距離を隔ててはいるものの、友情の海によって2つの国はつながっているのだ。

「愛子さまが陛下に託したご質問、羽生結弦選手の回答は? 皇室が冬スポーツに励む理由」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220203-00279804

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

つげのり子の最近の記事