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ITベンチャー出身の若い男性がなぜアプリではなく結婚相談所を開業したの?~結婚相談所の現実(7)~

大宮冬洋フリーライター
アプリと人間では「できること」が違います。イラスト:つぼいひろき

 マッチングアプリが全盛の時代だ。一方で、昔ながらの「お見合いおばさん(おじさん)」が経営する結婚相談所もしぶとく生き残っている。会員一人ひとりの性格や事情を把握して、お見合いを組み、相談に乗り、結婚というゴールを一緒に目指していく。地道な仕事だ。彼らは具体的に何をしてくれるのか。料金は妥当なのか。そのやり方で本当に結婚できるのか。いろんな疑問がわいてくる。

 筆者は全国の結婚相談所を訪ね歩く連載を続けている。顔を合わせて話してみると、意外な現実を知ることが多い。こちらが率直な質問をすると、期待以上に赤裸々な回答が返ってきたりする。本連載ではその一部を読者と共有したいと思う。

 第7回は、ITベンチャーおよび新卒採用コンサルティング会社を経て、今年4月に結婚相談所を開設したばかりの高橋充さん(32歳)に登場してもらおう。スマートな雰囲気と経歴の高橋さんが、なぜアナログな業態である結婚相談所を開いたのか。アプリについてはどのように感じているのだろうか。

――結婚相談所を開設した経緯から教えてください。

 大学では総合情報学部に在籍していて、卒業後はITベンチャーで働いていました。ゴリゴリのIT系な経歴ですね。その後、人材業界に転じて、新卒の採用や研修に関わるコンサルタントをしていました。一方で、友人や知人の恋活・婚活のお手伝いをしてやりがいを覚えた思い出があります。

 デジタルの世界やBtoBのビジネスにも楽しさを感じていたのですが、アナログに個人と向き合いたいという気持ちを抑えられなかったのです。自分でやってみたくて、社会貢献もできるビジネスを考えたときに、たまたまマッチしたのが結婚相談所でした。

――失礼ですけど、結婚相談所では大儲けはできませんよね。それでもいいのですか。一般的には、子育てを終えた主婦の女性がやりがい重視で始める仕事というイメージがあります。

 確かに、相談所ビジネスで爆発的な利益を上げるのは難しいでしょう。知名度があり、集客に困らない大手とは違いますから。利益ありきならば、知り合いのシステムエンジニアなどと組んで、ITや人材系で別のビジネスをしていたはずです。

 キレイごとに聞こえるかもしれませんが、「自分でやってみたいと思えて、社会貢献もできるビジネス」であることが私には重要です。アーリーリタイアをして社会貢献をする人もいますが、私が若いうちに大儲けできる保証はないでしょう(笑)。人生はいつ終わるのかもわかりません。ならば、今のうちにやりたいこと、やるべきことをやろうと思いました。

 結婚相談所は、他の仕事も並行してやることができるビジネスモデルです。軌道に乗ったら次の事業を考えたいと思っています。

――結婚相談所という業態自体がもう古い、とは思いませんか。

 結婚したい人たちの集合を山に例えると、結婚相談所に入会する人たちはモチベーションに関しては頂上付近に位置します。真剣に結婚したい人だけが集まる場なのです。お金もかかりますし、各種の証明書も必要で、私のような専属のカウンセラーが付いてお世話をします。その下に、結婚情報サービス会社や婚活サイト、婚活パーティーなどを利用する人がいるイメージです。

 こうしたサービスは使わないけれど出会いは欲しいという人は昔からたくさんいました。広大な裾野ですね。以前ならば友人知人から紹介してもらうか合コンするしかなかったのですが、今はマッチングアプリという低コストの気軽なツールができました。この層がアプリを利用していると私は感じています。

 アプリは気軽なだけにリスクもあります。うちの会員さんの一人は、かつてアプリで出会って付き合った人が実は既婚者だったそうです。その女性はうちに入会して1カ月後には交際を始め、翌月に成婚退会をしました。

――結婚相談所には真剣に結婚したい独身者しかいないのは確かですが、1つの結婚相談所内で男女をマッチングすることは少ないですよね。高橋さんのところを含め、ほとんどが「連盟」と呼ばれる会員情報共有システムに参加していて、別の相談所に入っている会員とのお見合いをしています。双方の担当カウンセラーが綿密なコミュニケーションをしないと、結婚情報サービス会社や婚活サイトと違いが出ないと感じてしまいます。高橋さんの相談所はどのように差別化していますか。

 不特定多数の男女をマッチングさせることに関しては、人間よりもAIのほうが得意でしょう。膨大なデータを収集・分析し、納得感のあるマッチングを行うことができるからです。そのため、人間ならではのバリューを出していかないと私たちのような仲人型の結婚相談所は淘汰されると思います。

 重要なのは、マッチング前後のサポートです。仲人型の結婚相談所の場合は、お見合い前からプロポーズに至るまで、すべての局面でマンツーマンのフォローが入ります。そのサポートの手厚さをうちは売りにしています。感情のないAIにはできない部分です。

 プロフィール作成のお手伝いもしますし、写真を撮る際には「この会員さんはどういう人とマッチングしたいのか」をフォトスタジオに伝えます。また、人材業界で培った研修ノウハウを生かして、お見合いやデートのロールプレイングも行っています。単に練習するだけではなく、フィードバックシートを使って良かった点と改善点をきちんと伝えることが大切です。

 このようなサポートをオプションで用意している結婚相談所は少なくありません。うちはすべて費用内で提供するのが特徴です。

――デート講習、面白そうです。近くの席で高橋さんがチェックしているのが気になりそうですけど(笑)。

 男性には特に好評ですよ。女性は会話上手であることが多いので、「男性との関係がうまくいくためのコミュニケーション」に重点を置いて教えるようにしています。

 以上が高橋さんへのインタビュー内容だ。「マッチングだけならAIのほうが得意で、人間がやるべきはマッチング前後のサポート」と言い切るところが興味深かった。確かに、「いい人との出会いがない」とぼやいている人に限って、足りないのは出会いではなく、自分にふさわしい人と関係性を深めるスキルだったりする。こればかりは座学では習得できない。生身の人間を相手に、ときには傷ついたり恥をかいたりしながら少しずつ身につけていくしかないのだ。昔ながらの結婚相談所にできるのは、この道程に辛抱強く寄り添うことなのかもしれない。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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