娘よりも可愛いのは息子。でも、いずれは他の女に渡さなければなりません(「スナック大宮」問答集20)

6年間でのべ1800人と飲み交わしてきたスナック大宮のこぼれニュースコラムです

スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京・西荻窪、愛知・蒲郡、大阪・天満のいずれかで毎月開催している。2011年の初秋から始めて、すでに90回を超えた。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。本連載「中年の星屑たち」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接に聞けておしゃべりできるのが嬉しい。

 初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。

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「可愛がりたい。そして、可愛がられたい」と思える大人同士の関係を見つけたい

「夫との間に娘と息子がいます。娘は結婚しても母親である私のそばを離れないでしょう。娘は私のものなんです。一番可愛いのはやっぱり息子ですが、いずれは他の女に渡さなければなりません。仕方ないけれど寂しいです」(47歳の既婚女性)

 スナック大宮の主催者である筆者は現在41歳。40代に突入した途端に、お客さんの平均年齢が上がった気がする。40代後半や50代の人も気軽に来てくれるようになった。すると、「オレも40代なんだな。完全に大人だ」という自覚が生まれ、30代のお客さんはすごく若く見えたりする。彼らの見本になれるようにもう少ししっかりしなくちゃ、と気を引き締めることもある。

 冒頭の話を聞かせてくれた女性は、若いときに結婚をして、そろそろ子育てを終えようとしている。夫の浮気をきっかけにして、自分も家庭の外に出かけることが増えているという。一方で、2人の子どもには強い思いを持ち続けている。

 この話で筆者が思い出すのは、田辺聖子氏の短編『それだけのこと』に出てくる一文だ。主人公の香織は30歳の既婚者。子どもはいない。「仕事人間」の夫とは不仲ではないが、愛情と共感で結びついている関係とは言えない。デザイナーである香織は仕事のつながりで6歳下の男性、堀を知る。堀は平凡な容姿の独身者だが、香織の仕事を繊細な表現で誉めて認めてくれる。2人は夜店で買った指人形の「チキ」を使ってコミュニケーションを続ける。照れくさい告白や大胆な質問もチキに言わせることで、2人は親密になっていく。

<子供だましの簡単な指人形なのですが、このチキの顔がとても可愛いんです。真っ赤な鼻がつき出ていて、目が頓狂に丸く見ひらかれています。(中略)ひょっとしたら、それが恋におちるきっかけだったのかもしれませんけれど、私はそれまで、自分が何かを可愛がるより、夫に可愛がられるだけで、充分だ、と思いこんでいました。

 女は人に可愛がられるのが幸福なのだ、という神話を、女の子をもつ親は信じていますが、でも女の両手はいつも可愛がるものを求めて宙にさし出されているのではないでしょうか。>(短編集『ジョゼと虎と魚たち』角川文庫より抜粋)

 香織はチキを可愛がることで「愛のある生活とは何か」を改めて知る。そして、一緒にチキを可愛がることができる堀にも可愛げを見出す。2人のその後については小説の中では語られていないが、香織はいずれ堀と結ばれるのではないかと読者に予感させる。

 冒頭の話を聞かせてくれた女性は香織とは状況が違う。愛情を注いで育ててきた子どもが2人もいるからだ。ただし、本人も自覚しているように、息子はいずれ他の女性のものになる。「娘はずっと一緒にいてくれる」とは言いつつ、親子関係が濃密過ぎると娘がいつまでも大人になれないこともわかっているのだろう。

 すぐに離婚をする必要はない。でも、将来的には「可愛がりたい。そして、自分も彼から可愛がられたい」と心底から思える相手を見つけてほしいと思う。それが大人同士の愛のある生活であり、いずれ誰かと結婚する子どもたちのロールモデルともなれる気がする。