仕事も家庭も忙しく、「他愛もないおしゃべり」を楽しむ機会がありません(「スナック大宮」問答集その9)

5年間でのべ1400人と飲み交わしてきたスナック大宮のこぼれニュースコラムです

「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京・西荻窪、愛知・蒲郡、大阪・天満のいずれかで毎月開催している。2011年の初秋から始めて、すでに70回を超えた。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。この「ポスト中年の主張」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接に聞けておしゃべりできるのが嬉しい。

初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。

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「ここ数年、周りの人間や自分自身も結婚し、子どもができたり仕事が忙しかったりで、いわゆる『他愛もないおしゃべり』をする機会がめっきり減った気がします。スナック大宮では、久しぶりに他人の話に笑わせてもらい、また自分の話に相づちを打ってもらって『おしゃべり』を楽しむことができました」(40代前半の既婚男性)

元気に働き、愛する家族もいて、衣・食・住はそこそこ満たされている。でも、何かが足りない。心の渇きのようなものを感じる――。こんな小さな悩みを抱える既婚者はむしろ健全だと筆者は思う。

人間は社会的な動物だからだ。家族以外の人ともコミュニケーションをすることで、純粋に楽しんだり、より安全でより充実した生活を目指したり、人生の真実を探求したりする。だから、何らかの理由でコミュニケーションが断絶されたとき、まともな人であればあるほどダメージを受けてしまう。

対話の本質とは「再現不可能な言葉」を交わすこと

一方的に情報を受け取るのでもなく、自分の感情や主張を乱暴に吐き出すのでもない。話す相手の表情をしっかりと観察しながら、落ち着いて話して、相手の話も最後までちゃんと聞く。これが本当の意味でのコミュニケーションであり、対話なのだ。

対話というキャッチボールを繰り返していると、予定調和ではない言葉や心地良い間(ま)が生まれ、お互いをかけがえのない存在だと感じる。今日あなたと会えたからこそ生み出せた2人だけのもの。この「2人だけの再現不可能な言葉や間」こそが対話の果実であり、心の渇きを癒す唯一のものだと筆者は思う。

職場も家庭も本来は良質なコミュニケーションが期待できる場だ。しかし、忙しすぎたり信頼関係が欠如していたりすると、事務連絡や叱責の言葉だけが飛び交いがちになる。それではどんどん殺伐としてくる。放っておくと、他者と対話する際のルールや気遣いすら忘れてしまう。

冒頭の男性のように「他愛もないおしゃべり」を楽しむ場を確保するためにはどうすればいいのだろうか。キーワードは2つあると筆者は思う。1つは、「マナーは必要だけど責任は重くない」場を探すことだ。

会社や家庭では、大人としての役割と責任がある。言ってはいけないことも多く、つい口が重くなってしまう。おしゃべりの相手は、学生時代の友だちのように忌憚なく話せる「無責任な」間柄が望ましい。

身近に旧友がいない場合は、飲食店の店員さんに相手をしてもらってもいいだろう。接客業の人は基本的にコミュニケーションが得意なのでその仕事を選んでいる。お金のためだけに特技を生かしているわけではない。ある程度、本音で語り合うこともできるのだ。だからこそ、相手の気持ちを傷つけるような言葉は慎重に避けなければならない。酔客でも許されないことはある。

趣味はカッコ悪いほど本物。同好の士と語り合おう

もう1つのキーワードは、行き先が「素直に好きだと思える」場であること。スポーツ好きでない人がスポーツバーに行ってもうるさく感じるだけで、周囲の人にも「興ざめなヤツだ」と迷惑に思われてしまうだろう。

好きな感情には、虚栄心や羨望などが混じり込んでしまうこともある。ちょっと恥ずかしい例だが、筆者は20代の後半まで「クラブで遊ぶようなオシャレな音楽好き」に憧れていた。自分も「パーティーピーポー」になって派手にモテたいと思っていた。週末ごとに都内のクラブに通っていた時期もある。しかし、実を言えばそれほど音楽好きではない。クラブで意気投合する仲間ができるわけがなかった。

趣味というのはちょっとカッコ悪いものが本物だと思う。他人からどう見られるのかではなく、自分の興味をさらけ出して愛情を注ぐものだからだ。筆者は以前にミネラルウォーターマニアの男性に取材したことがある。彼は、各種のミネラルウォーターに興味があり過ぎて、旅先で自動販売機やコンビニを見つけるたびに車を止めて「ご当地ミネラルウォーター」を探してしまうらしい。徒歩の場合、リュックサックに何十本ものペットボトルを入れて持ち帰るので、荷が重くて駅の階段を上がれないこともあるという。滑稽なほど純粋だ。同好の士を見つけたときは大いに親しくなれるだろう。

彼ほどマニアックな趣味でなくてもいい。例えば、有名店でなくても不思議と居心地のいい飲食店を見つけたら、季節に1回でもいいので通ってみる。その情熱は店主にきっと伝わるし、あなたと同じような常連客も見つかるはずだ。大人としてのマナーを忘れずに、少しずつ言葉を交わせば、「今夜はすごく楽しい会話ができた。なんだか元気になれた」と喜べるときがやがて訪れる。

素直に好きだと思える場で、礼儀正しくかつ朗らかに振る舞おう。きっと口が軽やかになり、ほどよい関係性の仲間ができて、気持ちも軽くなるだろう。「他愛もないおしゃべり」は生活の基盤ではない。しかし、何物にも代えがたい潤いなのだ。

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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