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「3年で3割が辞める会社」は大量退職を見込んだ人数を新卒採用している件について

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:焦る内定、潜むブラック企業(朝日新聞)

3年働けば仕事がわかる、10年働けばその仕事でプロになれる、といった言説をよく聞く。3や10という数字に根拠はないと思うけれど、多くの人が腑に落ちて使っているのだから、経験則としては正しいのだろう。

僕も出版業界に入って数年間は無駄と恥が満載の失敗ばかりをしていた気がする。「どのように行動するとどんな結果が出るのか」という経験が圧倒的に不足しているのだから当たり前だ。編集者への企画の売り込みや打ち合わせ、取材先の確保、執筆……。どの局面を取ってもヘマをしてしまう。いちいち落ち込んだりしてさらに時間を浪費していた。

しかし、わずかでも適性がある仕事ならば少しずつは慣れていく。部分的に「できる」ことが積み上がっていく。3年後だったかはわからないが、あるときにそれらが組み合わさって仕事全体を円滑に進められるようになった。

精神的にも時間的にも余裕が生まれると、新しいことも考えられるようになる。見通しがきくので大きめの仕事でも楽しめる。周囲にも優しくなれる。よい循環だ。フリーライターになって10年以上が経ち、会社勤めのように管理職に昇格したりはしないけれど、「若手」のライターや編集者の面倒をたまには見られるようになった。

たいていの仕事では、このような状況に落ち着くまで10年近くの歳月が必要だ。その間に「適性がまったくない」人が辞めていくのはしかたない。業界や企業にとっても本人にとっても早めの離職判断はいいことだと思う。

ただし、まともな採用活動をしている会社であれば、そのような「勘違い人材」が入り込む割合は1割未満だろう。大量に採用した新卒社員の3割が3年も経たずに辞めてしまう状況が続いている企業は、明らかに異常なのだ。仕事で一人前になるには長い時間が要るという現実を踏まえず、「即戦力」「完全実力主義」「グローバル」「夢」などという聞こえの良い言葉で若い労働力を集めて使い捨てにしている。毎月、いや毎日のように新人たちが辞めていくことがわかっているので、採用数を必要数より増やすしかない。

水増しした人数を常に確保できていれば、新人が次々に辞めてしまっても企業側に問題は生じない。一方で、わずかな適性はあるのに短期間で使い捨てられた個々の新人のほうは、体調を崩したり自信を喪失したりといった深刻な問題に直面する。その人数が増えるほど社会的な損失も大きくなる。

今朝の朝日新聞によると、学生を送り出す側の大学が企業をチェックする取り組みが広がっている。淑徳大学は、求人を出してきた企業に「新卒の3年以内離職率」などを質問しているという。学生は大いに活用するべきだ。

失敗には、「ためになる失敗」と「人生を棄損しかねない失敗」の2種類がある。ケガに例えると、「料理のときに包丁で指先を切ってしまった。包丁の使い方が間違っていたのに気がついた」は前者で、「酔って道を歩いていたら車にはねられて重い後遺症が残った」が後者だ。内定に焦って、人間に対して酷薄な企業に就職するのは後者に当たる。

就職はリセットできるゲームではない。取り返しのつかない失敗もすぐそこに潜んでいる。車道を横切るときのように、慎重かつ冷静に就職先を見極めてほしい。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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