銀座に気鋭のフレンチがオープン! 「3つの顔」を意味する店名の真意や3つのこだわりとは?
銀座に注目フレンチがオープン
銀座は世界的な美食都市である東京の中でも、他とは違うスポットです。
特にフランス料理では、綺羅星の如くレストランが集まっています。戦後初のフランス料理店ともいわれる「エスコフィエ」から、名料理人を生み出してきた1974年創業「銀座レカン」、ミシュランガイド三つ星「ロオジエ」、二つ星の「ベージュ アラン・デュカス 東京」や「エスキス」、最近では2020年にオープンした一つ星「ラルジャン」など、名店の枚挙に暇がありません。
そして、この銀座という地に注目のフランス料理店が2022年4月21日にオープンしました。そのフランス料理店とは「トワヴィサージュ(TROIS VISAGES)」。店名はフランス語で「3つの顔」を意味しており、「ゲスト、スタッフ、生産者」を表しています。
料理長は國長亮平氏
料理長を務めるのは1988年生まれの國長亮平氏。約9年間にわたり、一つ星の「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフである谷昇氏のもとで薫陶を受けました。
30歳までにフランスで修行するという思いを叶え、フランスのパリやブルゴーニュで修行した後に帰国。そして、今回の「トワヴィサージュ」のシェフに抜擢され、今に至ります。かつての同僚であり、将来共にレストランをつくりたいと夢を語り合った高木皓平氏がマネージャーを務めるなど、チームワークは抜群です。
この「トワヴィサージュ」で体験したいのが、12皿のディナーコース(14,300円、税込・サ別)。メニュー全てを詳しく紹介しましょう。
タルト パンペルデュ チップス
店名の「トワ」=「3」にかけて、最初に3つのアミューズが提供されます。
北海道の白ニンジン、パースニップにバニラの香りをまとわせたタルトは、上品で口当たりもいいので最初に食べるのがよいです。エビのすり身にエビの殻をまぶしたスパイシーな一品はサクサクっとした食感。メリハリある味わいでシャンパーニュにもピッタリです。ハッサク、アマナツがのせられたパンペルデュは、柑橘類の皮のコンフィがよいアクセント。笠間焼の落ち着いた風合いも、緊張感を解きほぐしてくれます。
函館産サーモンのモザイク ジュニパーベリーの香り
脂がのったサツキマスのテリーヌは美しいセルクル型に。ジュニパーベリーのハーバルな香りが合わさって、上品な味わいとなっています。レフォールのほのかな香りと辛味が心地よい抑揚です。
サザエバターのフリット 熟成メークインのムース
二年熟成の十勝産メークインは、一時間オーブンで焼いた後に燻製し、まろやかなムースに。その中には、サザエとパセリとニンニクの利いたエスカルゴバターを包み込んだフリット。サザエが携える磯の風味と、エスカルゴバターのしっかりとした香味がよく合います。上にのせられたイタリアのピリ辛なクレソンがまた印象的。
極エノキのソーセージ
これまで主役にならなかったエノキを、あえて主役に据えたという意欲的な一品。
高知県にある横田きのこの「極みえのき」200グラムと少量の豚ひき肉に、二日間かけてつくった野菜のブイヨンスープを合わせて、ソーセージをつくりました。エノキだけでは旨味が強すぎるということで、豚肉を加えて調和のとれた食味に。食べている途中で、添えられた半熟卵を崩して和えると、よりマイルドな味わいに変わります。
鶉のルーロー カルダモンチャツネ添え
フランス産のウズラを骨付きのまま提供。中にはクルミと熟成したリンゴが包まれていて、ウズラの旨味を引き出しています。香り高いカルダモンのチャツネに濃厚な赤ワインソースを添え、トップには土の香りがするオーストラリア原産のソルトブッシュ。
函館産平目のポワレ フェタチーズと獺祭のソース
熟成させたヒラメをポワレしてから皮目を香ばしく焼きました。獺祭を香り付けに加えたフェタチーズのソースは、魚料理とよく合わせられる白ワインとバターのブールブランソースよりも、味わいに丸みとふくらみが感じられます。タスマニア産のマスタードの粒を加えると、メリハリある変化に。
ホワイトアスパラガスのサラダ
メインディッシュの前には、ホワイトアスパラガスのサラダ風グラニテが供されました。サラダをイメージしたソルベとは面白い試みです。ナスタチウムの葉が映す緑が、鮮やかな彩り。
寝かせ黒豚の炭火焼き 蕗の薹のソースペリグー
鹿児島県の黒豚を一週間熟成させてから炭火焼きにし、フキノトウの苦味を加えたペリグーソースを合わせました。熟成された黒豚の脂は穏やかになっていて、フキノトウの苦味が味わいに奥行きを与えます。ガルニチュールは、オーブンで焼いて香ばしくした北海道の越冬レタス。
川俣軍鶏のコンソメ
食事の〆は、福島県の川俣シャモのコンソメ。2時間前につくり始めたできたてスープです。野菜はサヤエンドウ、シャモの肉と軟骨を入れたペコロス。脂は一切除かれておらず、さらに香りをたたせるためにあえてシャモの鶏脂を少しふり、シャモの力強い味わいを純粋に堪能できます。
ブラッディメアリー
愛媛県宇和島のブラッドオレンジの果肉に、トマトのコンソメジュレにカンパリという構成。散らされた桜の花びらが季節を表していて美しいです。
抹茶のブリュレ
静岡県の抹茶を用いたブリュレ。抹茶はソースにもクランブルにも利用され、まさに抹茶づくし。レモンソルベの酸味によって、さっぱりとした後口に。
茶菓子
最後の茶菓子は3種あり、アーモンドショコラ、あけびの花がのせられたフィナンシェ、バニラ風味のウイロウ。和菓子からインスパイアされた小菓子がさりげなく添えられているところは、他のフレンチと違うところです。
最初の演出
珠玉のメニューを紹介し終えたところで、「トワヴィサージュ」の魅力について改めて触れていきましょう。
まず挙げたいのは、入店時の演出です。
入店すると、温もりのある木製カウンターと、その上にのせられた滴型ランチョンマットに、心が落ち着きます。通常のレストランであれば、クロスやランチョンマットの上に置かれているのはショープレート。
しかし、マットな質感がありながらやわらかな色合いを放つ蓋付きのボウルが置かれているので、いつもと違うことがわかります。このボウルは國長氏がフランス時代に使用した時から、日本で使える時が訪れたら使いたいと思っていたというドグレーヌ パリの器です。
上蓋を開けてみると、そこにはコースで使われる季節の野菜とハーブに、単語帳をイメージしたメニューが登場。優しい手触りの天然石のスタンドが用意されているので、自分で一品ずつめくってメニューを送るという仕掛けになっています。
ショープレートと思わせておいて、その中にコースで使用する食材を暗示したり、メニューを潜ませたりしているのは、新しい演出です。
オープンキッチンの迫力
わずか10席だけというゆとりのあるカウンターが設けられています。店舗面積62平方メートルのうち、客席が30平方メートル、個室が10平方メートル、バックキッチンが10平方メートル、オープンキッチンが12平方メートル。
バックキッチンと個室を除いたメインエリアでは、4分の1以上がオープンキッチンになっているので、臨場感が体験できます。カウンターは前店舗の時よりも3センチ高くなっているので、料理人たちの手捌きもよく見えるように。
個室も非常に素晴らしい空間。栃木県宇都宮市の大谷町付近で採掘されている大谷石が壁に使用されていたり、スタッフたちが左官で仕上げていたりと、品よく落ち着いた空間となっています。
フランスのワインが中心
ワインはフランスが中心となっています。ハウスシャンパーニュはピノ・ノワールを主体とした「アンリ・ジロー エスプリ・ナチュール」で、エレガントで華やかな味わい。店内のやわらかい雰囲気にもぴったりです。
他には、フランス・ブルゴーニュ地方やロワール地方のワイン、食後酒にシャンパーニュ地方の甘口の酒精強化ワインであるラタフィアなどを用意。千葉県にある「Mitosaya 薬草園蒸留所」の蒸留酒も常備されており、こちらも食後酒によいです。
ソムリエでもあるマネージャーの高木氏に、好みの地域や品種、飲みたい分量や予算を伝えれば、最適なペアリングを組み立ててもらえるので、任せるとよいでしょう。今後はコースに合わせて何杯かのワインを提案するペアリングメニューも検討するということです。
テーブルウェア
料理やデザートを彩るテーブルウェアにもこだわっています。
プレートはフランスのドグレーヌ パリ、森山硝子店の有田焼や菅原工芸硝子のガラス器、そして國長氏が茨城まで訪れたというKeicondo(ケイコンドウ)氏と船串篤司氏の笠間焼。カトラリーはこだわりのブロンズカラーが映えるポルトガルのクチポール、肉料理のナイフはフランス・ティエールにあるペルスヴァルの9.47と、自宅では揃えられない食器で食事を楽しめます。
どれもこだわりのテーブルウェアばかりで、料理やデザートとの親和性も高いです。
3つのこだわり
國長氏は「主役」「伝播」「意図」と、3つのこだわりがあるといいます。
「要素を入れすぎてしまうと、何を食べているのかわからなくなってしまいます。主役を大切にして、何の料理かわかるようにしたいので、色々な要素を盛り込み過ぎないようにしています」
確かに、モダンフレンチやイノベーティブでは、あまりにも色々なものが融合してしまい、結局何を食べたのかよくわからないこともあります。
「私は山口県出身ですが、地元を離れるまでは、その土地の素晴らしさに気が付きませんでした。それぞれの地域には、特筆するべき食材や郷土料理があります。フレンチの技法を通して、日本各地の食文化を伝えていきたいですね」
各地の食文化を伝えることを「伝播」と表現しています。最後の「意図」は、どのようなこだわりでしょうか。
「意味のあるものを使うということです。ただきれいだからというだけで、皿にのせることはしません。それぞれの要素には、必ず意義があり、役割があります。全てがひとつになってこそ、一皿が完成される料理を考えています」
いずれは料理教室も
「トワヴィサージュ」は土曜日限定のランチとディナーの営業に加えて、平日ランチタイムのテイクアウトにも力を入れています。茨城県産のかすみ鴨を用いたデニッシュサンドや大納言を加えたコーンブレッドなど、どれも好評です。
今後やりたいことについて尋ねました。
「自家製焙煎のコーヒーをご提供して、販売もしたいですね。千葉の自社農園でトマトなどの野菜、ベルベーヌ、ミントなどのハーブを栽培していて、月に一度は訪れて様子を見に行っています。こういった野菜やハーブをもっと使っていきたいです。いずれは料理教室を開いて、食材や料理の魅力を伝えていけたら嬉しいですね」
ゲスト、スタッフ、生産者に想いを馳せた「トワヴィサージュ」。カウンターガストロノミーの全盛期に、これまでとは少し違う、素晴しいコンセプトのレストランが誕生しました。