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【続】あなたは指定席派? それとも自由席派?  鉄道会社側から見た指定席の利点、欠点

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
えちごトキめき鉄道でイベント運行する昭和の急行列車で再現する指定席  筆者撮影

前回は指定席と自由席について、お客様の側から見たそれぞれの特徴について書きましたが、今回は鉄道会社の側から見た指定席、自由席の利点、欠点(問題点)について書いてみます。

まず利点ですが、鉄道会社は指定席の販売状況を見てどのぐらいの需要があるかを事前に知ることができます。もちろんその列車だけでなく、その日、その時期、その路線などの全体像もわかります。そして、事前にお客様の数に応じた対策や混雑予測、あるいは臨時列車を設定する等、追加の対応が必要かどうかを判断する材料となります。

例えば、指定席の販売状況が満席であれば車内販売で搭載する物品もたくさん必要になりますし、空席が多い列車であればそれなりとなります。駅弁事業者が事前に情報をもらえば用意する駅弁の数を調整することも可能でしょう。

新幹線は固定編成といって16両や12両と決まった長さで走りますが、在来線であれば混雑が予想される場合は増結用の編成を連結して対応するとか、あるいは臨時列車を走らせて混雑対応する等の対応策を事前に知ることができます。

もっとも、JRは過去の情報の蓄積がありますから、実際には1か月を切った段階で指定席の発売状況を見て臨時列車を運転するなどということはまずありませんが、逆に言うとコロナ禍などで指定席の発売状況が悪いときには、一度設定した臨時列車を運休させて、乗務員の欠員に対応する等の対応を取ることもできました。

実際の現場サイドとしては、指定席であればお客様は自分の席に座りますから、車内で乗車券や特急券の検札業務は不要になります。この検札業務は実は大変なマンパワーを伴いますから、省略できることは大きなメリットですが、逆に言うと自由席のお客様は割引客なのに手間がかかると考えることもできます。

運用上の指定席の問題点

次に欠点(問題点)ですが、指定席の運用上で大きな問題となるのは、例えば筆者が日常利用する北陸新幹線「はくたか」の場合ですが、東京から軽井沢間の利用者が多くみられます。

東京から軽井沢へ行く乗客が指定席を確保してしまうと、それ以遠への乗客に対して指定席を販売することができなくなります。つまり、東京から金沢へ行く「はくたか」にもかかわらず軽井沢以遠の長野や富山、金沢方面への乗客を乗せることができなくなります。

例えば100席の列車で、50人が軽井沢、30人が長野、30人が富山、30人が金沢までの乗車を希望していたとします。鉄道会社としては当然ですが遠くへ行くお客様から座席を埋めていきたいというのが営業上重要になります。つまり、金沢、富山、長野と順番に埋めてきて軽井沢へ行かれる方は10名だけ乗せられれば最大のㇾベニューを得られることができます。軽井沢までのお客様は前後の長野行「あさま」にご乗車いただければよいわけですから。

ところが、こういうㇾベニューマネジメントが現在のマルスというシステムでは難しいですから、長距離列車の座席を近距離旅客に取られてしまうことで、本来の目的地へ行きたい乗客を乗せることができないという問題が現行システムにはあるのです。

そういうときのために自由席車両を連結しておくということはある意味で重要なことで、たとえば金沢まで指定席をとれなかったお客様が混雑する自由席に乗車して、着席できなければ軽井沢を出たら空席となった指定席に車内で座席変更することもなど可能になります。

こういう近距離客を長距離列車に乗せないために、鉄道会社としては国鉄時代から続く一つの方法として、停車駅を変えるということがあります。

私鉄の場合、特急、急行、快速などで停車駅が違いますが、たいていの場合は列車種別ごとに同じ停車駅に停まります。ところがJRの長距離特急列車では短距離客の利用を制限するために同じ特急であっても列車によって、あるいは時間帯によって停車駅を変えています。

筆者が利用する北陸新幹線の「はくたか」も列車によって高崎や軽井沢を通過する列車があるのはこのためです。

筆者所蔵の1978年9月号の時刻表より
筆者所蔵の1978年9月号の時刻表より

写真は1978年(昭和53年)の東北本線の時刻表です。まだ東北新幹線が開業する前は東北本線が特急街道だったことがわかりますが、例えば16時発の青森行「はつかり5号」をご覧ください。この列車は青森から青函連絡船に接続し北海道方面への連絡をする列車ですから、一目散に青森を目指して走る全車指定の韋駄天列車でした。上野を出ると大宮にも停まらずに次の停車駅は宇都宮、そして福島、仙台です。

では途中駅へのお客様はどうするかというと、4分後に仙台行の特急「ひばり10号」が設定されていて、「はつかり5号」が通過する大宮、黒磯、郡山と停車します。

さらに、その6分後の16:10に急行列車「まつしま5号・ばんだい4号」があり、こちらは赤羽、大宮、小山、宇都宮、西那須野、黒磯、白河、須賀川と停車します。

このように長距離用の列車に短距離のお客様を乗せないように前後の列車の停車駅で調整する仕組みが半世紀前から一般的に行われてきたのですが、インターネットで検索すると最短時間で目的地へ行かれる列車が出てきて、いつでもどこからでも指定席を予約できる時代には、本来遠くまで行きたい方が切符を入手できないということが往々にして発生します。

酷い例としては「中抜き」といって、イベント等の特別列車や記念列車などの全車指定の列車で走行区間の一部だけ指定席を取られる事象が発生します。

簡単に言うと金沢行の新幹線「はくたか」の座席の佐久平—上田1駅間の指定席を取られてしまうようなことですが、このように一部区間だけの指定席を取られてしまうと、実質的にもうその列車の座席を販売することができなくなります。こういうことはたいていは指定券収集マニアの仕業ですが、大人気の特別列車などで「本日は満席」と言いながら空席が目立つ場合などがよく見られたのはこのためです。

インターネットでいつでもどこからでも好きな区間の指定席が買える時代になりましたが、現状のマルスというシステムではすでに対応できなくなってきているのでしょう。

1か月前にならなければ座席を確保できないという仕組みも、ホテルやイベント切符の手配を考えると遅すぎますね。

JR各社は現在マルスに代わる新しいシステムの開発中だと聞きますが、自社管内で完結する特急列車であれば、自社のオリジナルシステムを導入することが早いような気もしますし、最低でも3か月前には指定席を確保できるシステムにしないと、インバウンド対応も合わせて、JRは移動の選択肢から離れていくと思われます。

なぜ自由席を連結するのか

このように指定席、自由席とも鉄道会社にもそれぞれに利点や問題点があることがお分かりいただけたと思いますが、では、なぜ自由席車両を連結するのかという点について最後にお話しします。

航空機はもちろんですが、高速バスも基本的には指定席です。

JRも全車指定席でよいのではないかと思いますが、にもかかわらずJRの特急列車は自由席を連結している。その理由は「国民の移動の自由を担保する」という使命があるからだと筆者は考えます。

以前は切符さえ買えば予約が無くても乗れる急行列車や普通列車が全国ネットで走っていましたが、今は特急列車が中心のダイヤになってきています。その時に、駅へ行って切符を入手できないということのないように自由席車両を連結しているのです。

航空機や高速バスなら「本日は満席です。」と断られることも往々にしてありますが、鉄道の場合は列車を選ばなければ「本日は満席ですから乗れません。」ということはありません。

このように鉄道は国民の移動の自由を担保するということを行っていると考えます。その証拠に、全車指定席の秋田新幹線「こまち」でも、盛岡―秋田間では自由席特急券に代わるものとして特定特急券を発売し、指定券を持たなくても乗車できる設定をしていますし、特急列車だけが走り普通列車の設定がない北海道の石勝線(新夕張―新得間)では普通乗車券だけで特急列車に乗車できる配慮をしています。

このように考えると、JR各社は国民の移動の自由を担保するという大きな使命感を持って列車を走らせていると考えることができますし、それが航空機や高速バスにはない懐の広さではないでしょうか。

最近のJRの時刻表にも赤枠で囲ったように乗車の便宜を図る区間があちらこちらに見られます。(筆者所蔵)
最近のJRの時刻表にも赤枠で囲ったように乗車の便宜を図る区間があちらこちらに見られます。(筆者所蔵)

以上、指定席、自由席それぞれの特性について皆様方にわかりやすいように解説させていただきました。

これからコロナが明けていよいよ春の観光シーズンを迎えます。

各地への旅を計画されていらっしゃる方も多いことでしょう。

指定席、自由席それぞれの利点を活かして、皆様方が列車で快適な旅ができるようにお祈りいたしております。

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えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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