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この冬の大雪の合間にJR北海道の島田社長が訪ねた道東の小さな町。

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
SLが故障してDLで運転された釧網本線のSL冬の湿原号   撮影:半野久光氏

桜の開花のニュースが聞こえてくる季節となりましたが、振り返ってみるとこの冬は寒い冬でした。

筆者が住む新潟県上越地域でも何度も大雪に見舞われ、一時は妙高高原駅の積雪が4mを超えるほどになりましたが、北海道でも近年まれに見ると言われる寒波が何度もやってきて、札幌地区を中心に大雪に見舞われ、JRの列車が数日間にわたって多数運休する事態が何度も発生しました。

鉄道だけでなく、新千歳空港を発着する航空便や、高速道路なども閉鎖され、人流、物流共に大きな影響が出たのはニュース等でご記憶の方も多いと思います。

そんな中、JR北海道の島田社長さんが道東の標茶(しべちゃ)町という人口7000人ほどの町を訪れたというニュースが、2月21日の北海道新聞の釧路地方版に小さく載っていました。

釧網本線が走る町 標茶

標茶町は釧路と網走を結ぶ釧網(せんもう)本線が走る酪農や農業の町。

釧網本線はJR北海道が単独では維持することが困難だと表明している路線の一つですが、釧路湿原などの風光明媚な路線のため、JRは各種観光列車を走らせていて、20年以上前から冬の間、1月~3月に「SL冬の湿原号」を運転しているところです。

標茶町では、以前から、この「SL冬の湿原号」を盛り上げようと町民の皆様がお客様のおもてなし活動をされていまして、島田社長さんはその皆様方に長年の応援活動に対して感謝の気持ちを伝えようと、大雪が一段落した2月19日に道東の標茶町を訪ねたのです。

標茶駅で活動するNPOグリーンツーリズム標茶を訪問した島田社長(右)と標茶町の佐藤町長(左)そしてグリーンツーリズム標茶の中心メンバーの昭和の美女軍団の皆様です。(写真提供:グリーンツーリズム標茶 上下とも)

記念撮影のため一瞬マスクを外されてパチリ。

皆様の笑顔が素敵です。

島田社長さんが標茶の皆様方にプレゼントとしてお渡しされたSL冬の湿原号の絵画です。

JR北海道の車内誌の表紙を書かれているイラストレーターの方の作品だそうで、北海道新聞の記事では

「島田社長は『修理が長引きSLを楽しみにしていた乗客の皆様方には申し訳ない』としながらも『タンチョウや釧路湿原の雄大な景色など、十分楽しんでもらえるのでは』と話した。」

とあります。

「修理が長引き」というのは、実は今年は使用するC11型SLが本運転に先駆けた試運転の時点で故障してしまい、結局修理が間に合わずに、最終的には最後までDL(ディーゼル機関車)で運転したのです。

ディーゼル機関車に引かれて雪原を走る「SL冬の釧路湿原号」   撮影:半野久光氏 
ディーゼル機関車に引かれて雪原を走る「SL冬の釧路湿原号」   撮影:半野久光氏 

求められるのは鉄道会社と地域とのコミュニケーション

車両が故障したら通常であれば運転を取りやめることも考えられる観光用の臨時列車ですが、JR北海道は先日の春分の日の3連休までディーゼル機関車で運転を続け、今年の運転期間を終えました。

使用する客車も今年から一部車両をリニューアルしています。

経営再建で大変な鉄道会社が、単独では維持困難とされている大赤字の路線をどう考えて、どのように扱うか。

通常であれば減便してコストを削減し、観光列車の運転などやめてしまうかもしれませんが、JR北海道は車両をリニューアルして、機関車故障でも代替機で最後まで運転を続ける。

そして、社長さん自ら、地元の人たちに感謝の気持ちを伝えに札幌から片道400km、往復で800kmの道のりをやってきているのです。

ちなみに島田社長さんが訪れた2月19日は穏やかなお天気でしたが、翌20日からは悪天候で再び大規模な運休が発生する寒波に見舞われています。

その直前にも大規模な運休で混乱したとマスコミからバッシングを受けていたJR北海道ですが、天候が回復したわずか数日の合間を縫うように、社長さん自らこうやって地域を回る姿勢は、地域鉄道を預かる筆者も見習わなければいけないと思い筆を執りました。

「SL冬の湿原号」に乗車するために、島田社長さんは前日釧路入りして駅前のビジネスホテルに泊まられていたと筆者の友人からの目撃情報があります。札幌から釧路まで特急列車で4時間以上かかりますから、天候を考えると前日入りするのが現実的というのが気象条件が厳しい北海道ならではですが、1泊5000円台のビジネスホテルに大会社の社長さんが泊まられて、観光列車に乗車して鉄道を応援してくれている皆様方を訪問するという姿勢は、島田社長さんのお人柄が見えた気がします。

広い北海道の中では「鉄道なんか要らない。バスで十分だ。」という考えの自治体もたくさんあるようですが、少子高齢化の時代にすべての路線が存続できるわけではありません。釧網本線の「SL冬の湿原号」を見てわかるのは、存続できるかどうかは地元がどう考えてどう行動するかというところが、今後の大きなカギとなることは間違いなさそうだということでしょうか。

標茶町では、佐藤町長さんが自ら出演してこの「SL冬の湿原号」を盛り立てる動画配信をしています。

佐藤町長さんは鉄道マニアではないようですが、自治体のトップ自らがこういう活動をしている地域は、都会の人から見ると遠くから応援したくなる地域なのではないでしょうか。

【標茶町】 町長と行く! SL冬の湿原号! 【北海道】

▲標茶町の動画はこちらをクリックしてご覧ください。(約8分)

※本文中に使用した写真は半野久光氏撮影、および、グリーンツーリズム標茶さんからご提供いただきましたものです。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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