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空港で盆踊り? 飛行機に乗るだけが空港じゃない。空港が丸ごとテーマパークというセントレアの秘密。

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
B787がシンボルのFlight of Dreamsはまるでテーマパーク

今日からゴールデンウィーク。

皆さんいろいろなところへお出かけになられると思います。

一方お出かけする方ばかりでなく「どこにも行く予定がない。」という方々も多いのではないでしょうか。

実は筆者もその一人。

30年以上にわたって航空会社や鉄道会社などの交通機関に勤務してきた筆者は、ゴールデンウィークやお盆、お正月といった時期は書き入れ時ですから、基本的には出勤でしたので、こういう時期に遊びに行くという感覚がありません。

この期間はいちばん旅費も高い時期ですから、お金もかかりますしね。

でも、そういう人でも家族からは「どこかへ連れて行け」と言われるかもしれませんし、なんとなくお出かけしたいという人もいらっしゃるでしょう。

今日はそんな皆様にうってつけの、お金を使わなくても遊べる、とっておきのスポットをご紹介します。

飛行機に乗らなくても楽しめるセントレア

セントレアの愛称で親しまれている愛知県の中部国際空港は、飛行機に乗らなくても楽しめるテーマパークのような所です。

空港というと皆さん飛行機で旅行する人たちが行くところいうイメージがあると思いますが、セントレアももちろん飛行機に乗るお客様が利用するところです。

では実際にどれだけのお客様がセントレアを利用しているのかというと、年間1235万人。

これは先日発表された昨年度(2018年4月~2019年3月)の利用者数(国際線610万人、国内線625万人)です。

この年間利用者数1235万人という数字は、セントレアとしては2005年の開港以来最高記録とニュースで報じられていましたが、この数字は全国の空港を比較してみると決して大きな数字ではありません。

羽田空港 8690万人

成田空港 4260万人

関西空港 2893万人

福岡空港 2463万人

新千歳空港 2331万人

那覇空港 2138万人

大阪空港 1618万人

(2018年1月~12月 国内線、国際線合計)

セントレアは大阪(伊丹)空港に次いで、全国8番目の利用者数なのです。

その理由は、愛知県の位置にあります。

日本の中で一番人が集まる東京、2番目に集まると言われている大阪のどちらにも新幹線で行かれる位置にあるのが愛知県の特徴です。

羽田空港も大阪空港も上記の利用者数を稼いでいるのは国内線ですから、その点では東京へも大阪へも新幹線が便利な愛知県にあるセントレアは不利な位置関係にあるのです。

【国際線利用者数 2018年1月~12月】

成田空港 3535万人

関西空港 2243万人

羽田空港 1813万人

福岡空港 682万人

中部空港 591万人

国際線利用者数を見てみるとセントレアは第5位。

福岡空港が多いのは中国、台湾、韓国、東南アジアに近いという点で近距離国際線が数多く発着しているためですが、それを除くと東京、大阪、名古屋という都市の規模に比例した数字になっていますので、決して低いわけではありません。

でも、国際線のお客様が多いということは、考えてみると空港が身近な存在じゃないということも言えるかもしれません。

何しろ中京地区のお客様は東京へも大阪へも新幹線というのが基本でしょうから、もしかしたら飛行機は敷居が高い乗り物かもしれませんし、そうなると空港そのものも身近ではなくなってしまうかもしれません。

セントレアには忍者がいる。

でも、セントレアに実際に行ってみると、空港全体が一つのテーマパークのようになっていて、飛行機に乗らなくても十分に楽しめる場所だということが分かります。

空港が飛行機利用者以外の人たちをも顧客ターゲットに据えて、楽しんでいただける仕組みづくりに努力しているのです。

まずは忍者さがし。

外国人にとってみれば日本と言えば忍者ですから、もともと忍者の土地と言われる滋賀県の甲賀や三重県の伊賀に近いセントレアは忍者を積極的に取り入れています。

まずは忍者がお出迎え
まずは忍者がお出迎え

セントレアに到着すると忍者がお出迎えです。

そして、空港の中、各所に忍者が潜んでいます。

忍者が何人いるか、探してみたら小さな子供ばかりでなく大人でも楽しめますね。

チェックインカウンターの天井に忍者が
チェックインカウンターの天井に忍者が
柱の上にも忍者が
柱の上にも忍者が
そして、こんなところにも。
そして、こんなところにも。
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これは楽しいですよ。

忍者が大好きで、日本に来ると忍者に会えると信じている外国人は多いですが、日本人だって楽しめますよね。

飛行機に乗らなくても飛行機に乗れる?

次に驚いたのが飛行機に乗らなくても本物の飛行機に触れられること。

セントレアの敷地内に本物のボーイング787(B787)が保存展示されていて、実際に触れたり乗ったりすることができる場所があるのです。

FLIGHT OF DREAMS

▲それがこのFLIGHT OF DREAMSです。

今、世界中で活躍する最新鋭機B787の1号機がアメリカのシアトルから里帰りして、セントレアに展示されているのです。

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ターミナルビルを出て長い通路を歩いていくと見えてきたのはこの建物。

これがFLIGHT OF DREAMSで、中にB787の1号機が保存されています。

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なぜアメリカ製のB787がセントレアに里帰りなのか?

不思議に思われる方もいらっしゃると思いますが、実はボーイングの飛行機は主翼や胴体などたくさんの部品が日本製で、それも中京地区の工場が製造を担当しているのです。

何しろ部品と言っても飛行機の主翼や胴体という大型のものですから、組み上がった状態のものを工場から海上輸送でセントレアに運んできて、そのまま飛行機に積み込んでシアトルに運んでいるのです。

これは伊勢湾という比較的穏やかな海に面したセントレアの得意技で、船で運んできた大きなパーツをそのまま飛行機に搭載してシアトルへ運ぶ拠点になっているのです。

超大型貨物機ドリームリフター。世界にたった4機しかない飛行機が3機揃った姿も見られるかもしれません。(セントレアのFacebookページより)
超大型貨物機ドリームリフター。世界にたった4機しかない飛行機が3機揃った姿も見られるかもしれません。(セントレアのFacebookページより)

その主翼などのパーツを運んでいる飛行機がドリームリフターと呼ばれる、世界でたった4機しかないジャンボ貨物機。この貴重な貨物機が、ほぼ毎日セントレアからシアトルへ飛んでいるという、オンリーワンの世界が見られるというのもセントレアの特徴です。

B787を見ながらシアトルを楽しもう

そのB787の工場があるシアトルの雰囲気をお手軽に楽しめるのもセントレアの魅力。

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これが噂の巨大ハンバーガー?
これが噂の巨大ハンバーガー?

名物のクラムチャウダーをはじめ、フィッシュアンドチップスやハンバーガー、チョコレートはもちろん、シアトルで実際に営業しているお寿司屋さんが出店しているなど、保存されているB787のすぐ隣、翼の下でシアトルを味わえる実に楽しいお手軽スポットです。

B787の横でシアトルを味わっていると、「まさしくここはアメリカだ。」という雰囲気を感じるから不思議です。

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当然といえば当然ですが、ボーイングのオフィシャルショップがあるのも飛行機ファンにはうれしいところ。なかなか手に入らないグッズもたくさんありますから、ついつい財布のひもが緩んでしまいそうです。

また、シアトルと言えばマリナーズ。長年大活躍したイチロー選手は地元愛知県のご出身ですから、本当に御縁を感じますね。

滑走路をバスに乗って見学できます。

さて、空港ビルに戻ってみると何やら人だかりが。

この人だかりは何かというと、実は空港内見学のバスツアー乗り場。

ターミナルの片隅からバスツアーが出発しています。

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このバスツアー、完全予約制ですが、ターミナルから専用のバスに乗って滑走路をぐるりと回るコースで、ターミナルビルの反対側の滑走路脇に設けられた専用スポットで、バスから降りて離着陸する飛行機を目の前で見られるという貴重な体験ができるツアーです。

空港の制限区域と呼ばれるエリアに立ち入るのですから、バスに乗る前に手荷物検査、金属探知機による身体検査など、飛行機に乗るのと同じ「儀式」が必要なのも面白いですね。

筆者は今回はそのバスには乗らず、次に向かったのがターミナルビル屋上にある展望デッキ。

この展望デッキは成田や羽田から比べるとはるかに大きいスペースで、それも、滑走路と平行ではなく、滑走路に向かってまっすぐに伸びていますので、滑走路がとても近く感じます。

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デッキの先端まで行ってみると、先ほど出発した空港内見学のバスが滑走路の反対側に到着し、そのすぐ横を日本航空の飛行機が離陸して行く所でした。

赤い矢印のところに停まっているのが空港内見学バス。すぐ横をJAL機が離陸していきます。
赤い矢印のところに停まっているのが空港内見学バス。すぐ横をJAL機が離陸していきます。

この展望デッキは夏になると盆踊り会場になることもあるようで、  「えっ? 空港で盆踊り?」  と思われるでしょうが、10年ほど前から開催されているおそらく世界でここだけの盆踊りスポット。これもオンリーワンですね。

空港の展望デッキで盆踊り。(セントレアのFacebookページより)

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空港ビルの中に温泉があって誰でも入浴できたり、いつも何かイベントをやっているような会場があったり、ふるさと特産品コーナーがあったり。

極めつけはSEGWAYに乗って空港内を見学するツアーなんていうのもあるんですよ。

愛知県の人って本当に発想が豊かだと思います。

空港そのものが本当にテーマパークになっているんですからね。

地域連携の拠点としてのセントレア

さて、空港内の施設はいろいろ楽しいものがあることはご理解いただけたと思いますが、筆者が特筆するのは地元のショッピングモールと連携してターミナルビル前から無料のシャトルバスを運行していることです。

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こうすれば空港⇔ショッピングモール間の往来が活発になりますので、何らかの形で地域経済に貢献できることになります。

空港というのは地域の皆様にとっては、どちらかというと騒音をまき散らす迷惑な施設という考え方があります。でも、こうして地域連携することで、地域に必要な存在になることができる、地域から歓迎される施設になるように空港会社が努力している姿を感じることができました。

空港内の観光案内所に併設されている常滑ボート(競艇場)の発券場にも驚かされました。
空港内の観光案内所に併設されている常滑ボート(競艇場)の発券場にも驚かされました。

この他、愛知県では空港内に大規模な国際展示場をこの夏にオープンさせる予定です。

来年は東京オリンピックの開催で都内の大規模施設が使えなくなる時期が生じます。そういう時こそチャンスがあるという考えだと思いますが、空港直結の国際展示場は将来的に見て面白いアイデアだと考えます。

セントレアという空港は鉄道で到着するとほぼ平面移動だけで飛行機に乗ることができますし、ホテルも直結しているという実に高機能にデザインされた空港です。

そのホテルも空港島内だけでセントレアホテル(381室)、フォーポイントバイシェラトン名古屋(319室)、コンフォートホテル(346室)、東横イン第1(1001室)、東横イン第2(1287室)と5つのホテル、合計3300室以上の収容能力があります。

これはおそらくこの夏の国際展示場のオープンを見越してのことだと思いますが、これだけの客室数のホテルがあるということは、多くの雇用を創出していることになりますから、地元に対する空港の貢献度は計り知れないものがあると、空港開業前の知多半島、常滑を知る筆者としてはそう感じています。

このようにセントレアは空港そのものの新しい形を地域とともに作り上げている次世代型空港の一つの事例として、日本の航空史上おそらく初めての空港づくりと言えますが、現在進行している北海道7空港民営化事業など、今後の空港と地域の在り方の大きな指標となるモデルケースなのではないかと筆者は考えます。

空港は飛行機に乗るお客様がいかに快適でスムーズに移動できるかということはもちろんですが、これからの時代はその本来の目的はもちろん、それにプラスしてどうやって地域と係わっていくか、地域の皆様方に身近に感じていただけるようにするかが大きなテーマになると筆者は考えます。

この秋には第2ターミナルビルも完成するセントレア。

中京地区の皆様はもちろんですが、全国の皆様も、そんなセントレアにふらりと遊びにいらしてみてはいかがでしょうか。

ご旅行を計画されていらっしゃる方は、飛行機の出発時刻の2~3時間前、あるいは半日前にいらしても空港そのものを十分にお楽しみいただけると思います。

飛行機に乗るだけではもったいない。

そんなセントレアのご紹介でした。

※注

FLIGHT OF DREAMSの1階部分、「フライトパーク」は別途入場料が必要ですが、レストランエリア、ショッピングエリア、ボーイング公式ショップのエリアは入場無料です。

ゴールデンウィーク中は混雑が予想されます。駐車場などの施設は飛行機利用者優先となることが考えられますので、あらかじめご了承ください。

掲載写真はおことわりがあるものを除き、すべて筆者撮影です。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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