1日たった20分しか営業しない幻の駅弁を求めて。まもなく廃止される夕張線の旅

今月末で廃止される夕張線

JR北海道の夕張線(石勝線夕張支線:以下夕張線)は今月末に廃止が決定しています。

残すところあとわずか2週間ですが、その夕張線の終点夕張駅はかつては炭鉱の町として栄え、日本の近代化に大きく貢献したところですが、近年では人口減少、高齢化が急速に進み、地元夕張市は2007年に財政再生団体に指定されたことで、再び全国に名を知られるようになったところです。

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筆者が乗車した列車は千歳から新千歳空港への分岐駅である南千歳を経由する夕張行。(3月16日のダイヤ改正で直通列車が無くなり、すべての列車が新夕張乗換になっています。)

国鉄時代から活躍するキハ40形ディーゼルカーの2両編成です。

南千歳から直通で行かれるということは、夕張というところは新千歳空港に降り立った人たちでも気楽に訪れることができるところだと思います。

ただ、行ってみたいという動機になるようなコンテンツがないだけで、なければ今の時代ですから作ればよいと筆者などは考えるようにしています。

時間的にも普通列車でのんびり走っても1時間半ちょっとのところですから、観光列車を走らせるには最適な場所ですね。

都会人の憧れの的、いや、世界中の人たちの憧れの場所の北海道で、新千歳空港から2時間程度で直行できる観光列車が走れば、もっと賑わうというのに、なんだかもったいないなあ。

でも、財政再生団体に指定されるというのは、「観光で稼ぎましょう。」などという甘いものではないのかもしれません。

そんなことを考えているうちに、あっという間に(筆者の個人的感想です)終着駅の夕張に到着しました。

列車到着前の夕張駅(別の日に撮影)
列車到着前の夕張駅(別の日に撮影)
列車が到着した夕張駅
列車が到着した夕張駅

列車が到着するまではシーンとしていた駅ですが、列車が到着すると一気に賑わいを見せます。

そこで見つけたのがこの表示です。

1日に20分間、お弁当を販売しますという表示
1日に20分間、お弁当を販売しますという表示

「ありがとう夕張駅弁当」 販売時間12:20~12:40 売切れ次第終了。

1日にたった20分間しか売らず、売切れ次第終了ってどういうことでしょうか?

数量限定ってのは聞いたことがありますが、販売時間20分限定の駅弁なんて聞いたことありません。

まして20分しか売らないのに売切れ次第終了なんてのは、ふつうならあり得ませんよね。

いったいいくつ作って販売しているのでしょうか?

実に不思議な商売です。

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この方がその超限定弁当を販売する「ツルちゃん」こと橋場英和さんです。

橋場さんは夕張駅横の屋台村の隣にあるビストロ張元の店長さんです。

筆者が「いったい1日何個の駅弁が売れるんですか?」と尋ねると、

「だいたい20個ぐらいですね。3月に入って廃止日が近づいてきて平日でも売切れるようになりました。」

とのお返事。

「えっ? たった20分間で駅弁が20個、この山の中の終着駅で売れるんですか?」

筆者は不思議になって聞き返しました。

すると、橋場さんはニコニコ笑いながら

「隣にあるお店を合わせると40個は行きますよ。月末の廃止前にはもっと作ろうと思います。」

ということでした。

いやいや恐るべし夕張駅弁。

そこでもう一つの疑問。

なぜ販売時間が1日20分だけなのか?

そのからくりは列車の停車時間にありました。

3月15日までの夕張線のダイヤでは、朝の列車の次が夕張12:20到着の列車。

その列車が折り返し12:38発となって出発します。

折り返しの停車時間はわずか18分間。

その次の列車は夕方ですから、駅弁の販売はこの18分間が勝負ということで、20分間のみの販売ということなのです。

では、さっそく筆者も折り返しの列車の中で幻の駅弁をいただいてみました。

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こちらがそのお弁当。

記念カードセットがおまけについています。

掛け紙も凝ってますねえ。

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中身はこんな感じ。

最近流行りの牛肉弁当やカニ飯など、特殊弁当と呼ばれる種類のものではなく、いわゆるオーソドックスな幕の内弁当。

工業製品のような弁当が多い今の世の中、ツルちゃんのお弁当は素朴な手作り感があって、なぜはホッとするお味でおいしくいただきました。

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そうそう、こんな昔ながらのお茶もセットで付いてきてお値段は1000円ちょうどです。

このお弁当を作っているツルちゃんこと橋場さんは、昨日のニュース

「ナポリタン80円!」多分日本一安いナポリタンを出す巷で噂の食堂に行ってみた。

でご紹介した永山茂さん(北海道鉄道観光資源研究会代表)から、いすみ鉄道国吉駅で地元の旅館のご主人が応援団長として駅弁を作って販売して観光客の皆様方に喜ばれているという話を聞いて、「よし、それじゃあ自分もやってみるか。」と駅弁の販売をスタートしたとのこと。

「せっかく夕張まで来ていただいても、次の汽車まで4時間もあるから、皆さん乗ってきた汽車でまた帰って行かれちゃいますから、それではあまりにも寂しいので、いらしていただいた記念になるように駅弁を始めたんです。」

いやはや、恐るべしいすみ鉄道応援団。

北海道の山の中の終着駅にまで、その影響が及んでいるようです。

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そんなツルちゃんのまごころこもった駅弁をほおばりながら、ふと見上げると目に入った車内の中吊り広告。

「3月16日ダイヤ改正 新函館北斗-東京 3時間58分で結びます。」

何だか頓馬な広告だなあ。と筆者の個人的感想。

論点はそこじゃないんですけどね。

詳細は

新幹線の壁 本当に越えなければならないのは「4時間の壁」ではなくて「1万円の壁」という現実。

こちらをご一読ください。

そして、杉山淳一さんにこの記事でフォローしていただきました。

新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」

この夕張線は廃止対象となる新夕張ー夕張間がすべて夕張市内です。

たいていローカル線というのは、複数の市町村をまたいで走りますから、廃止議論というのも複数の市町村に渡り、なかなか意思統一ができない現状があります。

ところが夕張線は夕張市内だけですから、若手の市長が周囲の自治体に相談することもなく一人で廃止をJRとネゴしてしまった感があります。うがった見方をすれば道内ローカル線の廃止を加速させるために一本釣りされたようにも考えられます。

夕張線廃止という地元住民にとってみれば行政は大きく方向転換する舵を切ったわけですが、その張本人が自分が大きく舵を切っては見たものの、その後の舵取りをすることなく、鉄道の廃止とほぼ時を同じくして今度は北海道全体の舵取りをしようとしているわけですから、なんだかなあと思うのは筆者だけではないと思います。

そんな人間を担ぎ出さなければならないなんて、北海道って本当に人材不足なんですね。

ニュースによれば、今度の統一地方選では北海道全自治体の約7割の市長、町長選挙が無投票で行われるらしい。

こういうところに北海道の地盤沈下が如実に現われているのではないでしょうか。

ツルちゃんの駅弁を食べながら、最後の汽車に揺られて、そんなことを考えさせられた夕張線の旅でした。

ツルちゃん、ラストスパート頑張ってください。

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※3月16日のダイヤ改正後、お弁当の販売時間帯も変更になっていますので、ご訪問の際は予めご確認ください。

※石勝線夕張支線を国鉄時代からの名称「夕張線」として表現してみました。

※文中の写真はすべて筆者撮影です。