Yahoo!ニュース

入国者数を1日5万人に拡大も、外国人の全員ビザ取得は変わらず。インバウンド復活に程遠い状況がまだ続く

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
8月2日の羽田空港第3ターミナル。日本人の海外旅行客で賑わっていた(筆者撮影)

 岸田文雄首相は8月31日、9月7日から1日あたりの入国者数を現在の2万人から5万人に引き上げることを発表すると共に、これまで添乗員付きのパッケージツアーに限って観光目的での入国を認めていたが、添乗員なしのパッケージツアーでの入国も認めることを明らかにした。

日本人の海外渡航は行きやすく、日本帰国時の入国手続きも緩和へ

 1日あたり5万人への引き上げ及び8月25日に発表された日本入国前に現地出発72時間前以内で必要だったPCR検査が9月7日午前0時以降に入国について新型コロナウイルスのワクチン3回接種以上で不要となることで、確実に言えることは日本人の海外旅行・海外出張へのハードルが低くなる。入国制限が続いている中国・香港・台湾など一部の国を除いては、ほとんどの国への海外渡航が容易になり、帰国前のPCR検査がなくなることで、現地で動ける時間も実質増えることになる。

 そして岸田首相の会見の中で、日本の空港到着時に必要な「My SOS」の改善により空港での入国手続きの緩和も実施することを明らかにした。現在でも羽田空港や成田空港到着時に、入国までの時間は到着空港での抗原検査がなくなったこともあって短くなったが、ターミナル内での移動距離が長く、長い距離を歩かされるという声も多いが、そのあたりの改善を9月7日以降、期待したいところだ。

羽田空港到着後、「My SOS」の確認を含めた書類チェックがあることから、長い距離を歩かされるが、今後の改善が期待される(2021年、筆者撮影)
羽田空港到着後、「My SOS」の確認を含めた書類チェックがあることから、長い距離を歩かされるが、今後の改善が期待される(2021年、筆者撮影)

外国人の全員ビザ取得は変わらず。韓国旅行はビザの一時緩和で日本人旅行者が急増した

 ただし今回、外国人が日本に入国する為のビザ緩和は盛り込まれておらず、入国者数が緩和されても、ビザが緩和されない限りはインバウンド(訪日外国人観光客)の復活には時間がかかりそうだ。海外からのビジネス目的での入国を含め、全ての外国人においてビザ取得が必須である点は継続されることになった。

 8月28日(日)の夕方、関西国際空港の第2ターミナルでは、格安航空会社(LCC)のピーチが約2年半振りに関西~ソウル(仁川)線を再開させた。再開初便のチェックインカウンターや搭乗ゲート前を取材したが、搭乗率は約7割の137名のうち、日本人の利用者が7割以上を占めていた。ピーチの森健明社長に話を聞くと、「期間限定(8月末まで)で日本人の韓国旅行におけるビザが不要の報道がされた瞬間に予約が一気に入った。ビザ緩和の効果は大きい」と話すなど、ビザを緩和することでの効果は非常に大きいことは明らかであり、航空会社にとってもビザ緩和を求めている。現在の円安も追い風となり、緩和されれば、一気に日本に外国人観光客が押し寄せる可能性も高い。

ピーチは8月28日に関西~ソウル線の運航を再開し、利用者に挨拶するピーチの森健明社長。現在の予約は日本人の方が多いとのこと(関西国際空港にて筆者撮影)
ピーチは8月28日に関西~ソウル線の運航を再開し、利用者に挨拶するピーチの森健明社長。現在の予約は日本人の方が多いとのこと(関西国際空港にて筆者撮影)

韓国への旅行者だけでなく、留学で韓国へ向かう若い人の姿も見られた(8月28日、関西国際空港第2ターミナルチェックインカウンター)
韓国への旅行者だけでなく、留学で韓国へ向かう若い人の姿も見られた(8月28日、関西国際空港第2ターミナルチェックインカウンター)

ハードルが高い日本旅行を避ける「ジャパン・パッシング」は、しばらくは続くことに

 しかしながら、今回も日本を訪れるインバウンドについては、添乗員付きの必要はなくなったが、パッケージツアーでの参加がビザ取得の必須条件であることは、G7の国だけでなく、東南アジアでもそのようなケースはなく、今回条件が変更されても、日本には行きたいけど日本以外の国へ旅行する「ジャパン・パッシング」は引き続き、続くことになるだろう。コロナ禍の旅行は個人旅行で飛行機とホテルを別々に手配するスタイルが主流であり、時代に逆行していることは否めない。

 本格的なインバウンドの回復には、コロナ前にビザ不要で入国できた国においてはビザ不要での入国再開、ビザが必要な国においてもコロナ前同様の取得条件にならないと厳しいが、今後の見通しについて岸田首相は会見の中で、「G7並みの円滑な入国が可能になるよう、内外の感染状況、ニーズ、また世界各国の水際対策などを勘案しながら更なる緩和をしていきたい」と述べ、具体的な時期の明示はなかった。

羽田空港に外国人観光客で混雑する様子がいつになるのだろうか(2022年8月、筆者撮影)
羽田空港に外国人観光客で混雑する様子がいつになるのだろうか(2022年8月、筆者撮影)

外国人の入国が増えた場合の「日本のマスクルール」をどう徹底させるのかを具体的に考える時期に

 ただ外国人の入国緩和が徐々に進んできていることは明らかであり、今後インバウンドの受入が多少拡大することになるが、更なる緩和と同時並行で「日本のマスクルール」をどのように外国人の入国者に徹底されるのかを考える時期に来ている。第7波の影響もあり、日本国内においては屋内はもちろんであるが、屋外でも人の往来がある場所ではほとんどの人がマスクをしている状況にある。

 東京都内でも多少、外国人の姿が見られるようになったが、その一部が地下鉄など公共交通機関でマスクを外してる姿を筆者自身も何度も見ている。ただ乗客が注意をするのはトラブルになるリスクもあり、注意をするのは難しい。注意できるのは車掌や駅員などに限られてしまうが、注意をしている姿はほとんど見られない。

日本に住んでいる日本人が不安にならないような対策が必要

 外国人においては、日本のマスクルールを知らずに着用しないケースと法律での規制がないことで自分の意思で外しているケースがある。公共交通機関ではマスク着用を要請しているなかで、今後懸念されることとして、外国人の入国者が増えることで、マスク非着用者が今よりも増える可能性が高いということだ。マスク着用の必要性の議論ではなく、少なくても「日本に住んでいる日本人が、外国人の入国増加によって、公共交通機関などでマスクを着用しない人が増えることで不安が増え、日常生活に影響が出る」を避けなければならない。

 航空会社については、マスクを着用していない人に対して客室乗務員などが声がけする光景が見られるが、それ以外の鉄道やバスなどでは声がけする光景はあまり見られないなかで、公共交通機関においては車内を回って、マスクを着用しない人にマスク着用を促す環境を整備して欲しいという声は多い。全ては上記でも書いたが、日本で生活をしている人に不安を与えない為の策という意味合いだ。

罰よりもマスク着用を促すことが重要。空港でマスク着用の徹底をしっかりPRすべき

 このようにマスクを着用しないことに対して罰を与えるよりは、マスクの着用を促すことに力を注ぐべきだろう。そういった意味では、海外から日本に到着した際に外国人にはマスクを配布して、同時に日本のマスクルールを多言語で説明するパンフレットなどを入れたり、配布したマスクを着用しているもしくは提示をすると観光施設やレストランなどで割引が受けられるなどの特典を設けることで外国人に日本のマスクルールを浸透させる方法もある。

 仮に誓約書にサインさせたとしても、基本的には誓約書を読まずにサインだけする人も多いことから、少なくても、外国人入国者全員に日本のマスクルールが一目でわかる多言語のパンフレットなどは配布すべきであり、今すぐにでも外国人入国者に対する具体的なマスクルールの徹底策を考えて欲しいところだ。

今後、外国人のビザ緩和がいつになるのかに注目

 岸田総理は「国際的な交流が活発化しており、我が国もそうした交流に参加すると共に円安のメリットを活かす観点からも水際対策について、9月7日より入国者数の上限を5万人に引き上げ、全ての国を対象に添乗員を伴わないパッケージツアーによる入国を可能にするなど、更なる緩和を行う」と発言したが、国際交流の再開や円安によるメリットは政府も理解しているなかで、次の緩和は外国人のビザがどうなるのかという点になるだろう。

関連記事:

ANAホールディングス、社長インタビュー(前編)。芝田社長に聞く「本格復活」へ向けて動き出したANA(8月26日掲載)

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

鳥海高太朗の最近の記事