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ANAホールディングス、社長インタビュー(前編)。芝田社長に聞く「本格復活」へ向けて動き出したANA

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
今年4月にANAホールディングス代表取締役社長に就任した芝田浩二氏(筆者撮影)

 新型コロナウイルスで大きな影響を受けた航空業界。今年に入ってからコロナ禍の旅行スタイルが確立されたことで、7月以降の第7波での影響が懸念されたが、政府が「行動制限」をしなかったこともあり、お盆期間は羽田空港の国内線チェックインカウンターには多くの人の姿が見られ、特にコロナ禍になって3回目の夏休みということで子連れのファミリー旅行が目立った。

 ウィズコロナ、アフターコロナが見え始めている状況の中で、今年4月にANAホールディングスの代表取締役社長に就任した芝田浩二氏に8月4日、インタビューをさせていただいた。前編・後編の2回に分けてインタビューの様子をお伝えする。前編は、これまでの感染拡大時と異なる第7波における人流及び入国緩和などについて話を聞いた。

第1四半期は2年2ヶ月ぶりに黒字を達成

 2020年、新型コロナウイルスによる影響で、国際線では2月から、国内線では3月から利用者が大きく減少し、4月に入ってからは日本国内では緊急事態宣言、海外もほとんどの国で入国制限が実施され、事実上国境が閉ざされ、国内線・国際線ともに完全に動きが止まった。結果的に2021年3月期(2020年4月~2021年3月)は過去最大の4046億円の赤字となった。

 このような厳しい状況のなかで、当時のANAホールディングス片野坂真哉社長(現在は会長)が中心となって2020年10月に「事業構造改革」を策定し、機材の早期退役による固定費の削減、新機材納入の先延ばし、外部企業への社員の一時出向、非航空事業の強化などを進める方向になり、社員においてもボーナスカットや基本給の一時的な減額など大規模な構造改革が行われたが、決算の受け止めについてまずは聞いた。

芝田浩二氏の社長就任が決まった今年2月10日に都内ホテルで開催された社長交代会見での記念撮影(写真右は片野坂真哉前社長※現会長)
芝田浩二氏の社長就任が決まった今年2月10日に都内ホテルで開催された社長交代会見での記念撮影(写真右は片野坂真哉前社長※現会長)

筆者(鳥海):

10四半期(2年半ぶり)に黒字に転換し、今年4月~6月の第1四半期の純利益は10億円の黒字。利用者は国際線で前年の5.2倍、国内線で前年の約2倍で、旅客収入も国際線で前年の4.8倍、国内線で約2倍に上昇しました。黒字の受け止めはいかがでしょうか?

芝田社長:

少なくとも純利益で黒字が出せたということは良かったと思っている。これまでコロナ禍の厳しい環境で従業員に我慢を強いてきた中で、このような数字が残せたことは従業員に対して一定程度の報いができたと思う。お客様、お取引先の関係者の皆さま、そしてANAグループの社員に感謝の気持ちでいっぱいです。

国内線「第7波による行動の自粛は見られなかった」

 国内線は、まん延防止等重点措置が解除された3月下旬以降、旅客数は急回復に転じた。今年4月~6月の第1四半期においては約657万人の旅客数を記録し、前年の320万人に比べて約2倍に増えた。コロナ前の2019年4月~6月が1084万人ということでコロナ前の6割程度まで回復。第7波で懸念されたお盆期間中(8月6日~16日)も前年比78%増の約127万人の旅客数を記録、コロナ前の2019年と比較しても約75%の回復となった。

お盆初日となった8月11日の羽田空港第2ターミナルのANAチェックインカウンター
お盆初日となった8月11日の羽田空港第2ターミナルのANAチェックインカウンター

筆者:

第7波においては、「行動制限」がないということで、思っていた以上に国内線においては人が動いている感じですが、どのように分析されてますか?また最近のコロナの様子を世界と比較してどう思ってますか?

芝田社長:

やはり、皆さまの心の中に今まで溜まってきた(旅に対する)「マグマ」がある。そして日本人の(新型コロナウイルスへの)「正しい理解」があり、オミクロン株に対する正しい理解が浸透し、コロナ禍でも感染対策を施して移動するということが定着してきたことで、このような(感染者数が増えた)状況でもキャンセルが少なかったと思う。

世界の様子を見ると、Withコロナですね。我々、日本のマーケットも行く行くはそういった状況になってくるだろうが、ただ残念ながらまだ日本はそこまで追いついていない状況になっている。

日本国内は今までの第6波と違って、思いのほか、キャンセルが少なく、行動の自粛は見られない。予約の鈍化はあるが、総じてポジティブな予約動向が続いており、ありがたく思っている。感染者数の増加ピークを迎えて下落していくことで、更に国内線の上振れを期待している。

この1年で大きく変わった国際線。北米とアジアを往来する、日本に入国しない3国間流動の比率が5割に

 今年に入ってからANAにとって収入が大きく増えたのが国際線旅客。現状、日本入国は1日2万人に制限され、外国人はビジネス・観光問わずビザの取得が必須であり、特にインバウンド(訪日外国人観光客)についてはパッケージツアーに参加しない限り、ビザの取得もできない状況である。しかしながら、ANAでは国際線の運航率は3割程度しかないが、運航している便の搭乗率は7割近くになっている。今年4月~6月の国際線搭乗率(座席利用率)がコロナ前の水準に迫る70.7%まで回復している。

 ANAホールディングスが8月1日に開いた決算会見で明らかにした分析としては、「駐在員の一時帰国需要や日本発ビジネス需要が回復し始めたことに加えて、大きく増加した北米=アジア間の接続需要を取り込んだ」としているが、昨年の欧米に加えて、今年からは東南アジアの各国が入国緩和によって現地到着後の隔離が不要となり、出入国が自由になったことで、昨年は見られなかったアジア(特に東南アジア)と北米の移動が回復している。いわゆる羽田空港・成田空港に到着しても日本に入国せずに乗り換えだけの需要であり、今のANAの国際線を支えていると言っても過言ではないだろう。「ジャパンパッシング(日本通過)」という言葉さえも生まれており、日本が鎖国状態であることを象徴している。

今年4月のロサンゼルス空港ANAチェックインカウンター。筆者が利用したロサンゼルス→成田便では9割近くが日本で入国せずにアジアなどへ向かう外国人の乗り継ぎ客だった。
今年4月のロサンゼルス空港ANAチェックインカウンター。筆者が利用したロサンゼルス→成田便では9割近くが日本で入国せずにアジアなどへ向かう外国人の乗り継ぎ客だった。

 お盆期間中(8月6日~16日)の国際線は12万8000人が利用したが、前年比で4.4倍(340%増)となった。コロナ前の2019年度と比較すると36%の回復となった。ANAが7月に運航再開した総2階建て飛行機エアバスA380型機「FLYING HONU」(520席)も含めて、ハワイ線の利用率は84.7%で、2021年のお盆期間の8倍(前年比803.1%)の利用者を記録した(コロナ前の2019年比では25.3%)。

 その点も含めて国際線の状況について芝田社長に聞いてみた。特に入国制限や水際対策の影響で利用者の約半分を占める、アジアと北米を繋ぐ三国間流動について聞いてみた。

今年7月1日から定期便にANAのエアバスA380型機「FLYING HONU」が定期便に2年3ヶ月ぶりに再投入され、お盆期間中は9割以上の搭乗率を記録した便もあった(7月1日、ホノルル)
今年7月1日から定期便にANAのエアバスA380型機「FLYING HONU」が定期便に2年3ヶ月ぶりに再投入され、お盆期間中は9割以上の搭乗率を記録した便もあった(7月1日、ホノルル)

筆者:

国際線において第1四半期の利用者が大きく増えました。どのように分析されてますか?

(参考:4月~6月では国際線利用者は前年の5.2倍の68万4000人、旅客収入も国際線で前年の4.8倍の622億円になった)

芝田社長:

国際線も実際は私どもの生産量の中で平均すると1日ざっと1万人強のお客様にご利用いただいている。この1万人を分解してみると、大体、半分は3国間流動(3国間流動:アジアと北米を結ぶ流動でANAにおいては成田・羽田で日本に入国せずに乗り継ぐ旅客を指す)で5000人、残りの5000人が2国間(日本と海外の流動)で、日本に入国する人が2500人、日本から出国する人が2500人になっている。

日本の入国緩和が進み、1日あたりの日本全体の入国者数が2万人から拡大することで、この2国間の流動が増え、(ANA国際線における)1日あたりの国際線利用者が現在の1万人から2万人、3万人と増える余地は十分にあると思っている。

筆者:

「日本人の海外旅行+海外出張」「日本へのインバウンド」「アジアと北米を結ぶ3国間流動」の全てが今後の国際線の柱になるのでしょうか?

芝田社長:

間違いなく、国際線の旅客というのはこの3つしかないわけです。ただそれぞれのマーケットでやはり微妙に濃淡があり、東南アジアにおいてはインバウンドが強い、日本のマーケットではまだまだ海外向けのアウトバウンド(日本人の海外渡航)に注力すべきである。

その際に品揃えのよいANAブランドで行くのか、またLCC(格安航空会社)のピーチで行くのか、更には新しく導入する(2023年下期に運航を開始予定の新ブランド)AirJapan(エアージャパン)で行くのか、そういったところのポートフォリオをしっかり組んでいくことが重要であり、「アウトバンド」「インバウンド」「3国間流動」、その中でもプレジャーなりビジネスなり、細分化していくことで、そこにマーケットに特化したブランドを我々は活用したいと思っている。

筆者:

円安やコロナの状況もあるが、「アウトバンド」「インバウンド」「3国間流動」の3つの理想のバランスについてはいかがでしょうか?

芝田社長:

バランスついては、時期によってかつキャパシティによっても柔軟に対応していく必要がある。今は(3国間流動と2国間移動の比率が)5対5ですが、これを円安や社会情勢に応じて日本人が多い時と外国人が多い時など、需要を見ながら最適な比率で対応していかねばなりません。

日本へ向かう前に必要な、現地出発前72時間以内に必要なPCR検査が一部緩和で動きが変わる

 8月24日に、ようやく日本へ向かう前に必要なPCR検査が条件付きで撤廃される発表があり、9月7日0時以降に日本に到着する場合には、ワクチン接種3回以上で現地出発前72時間以内に必要なPCR検査が不要となり、今後、1日あたりの入国者数が現在の2万人から増えることになりそうだ。この決定が決まる前の8月4日時点で芝田社長に水際対策について聞いてみた。

ロサンゼルス国際空港内のPCR検査センター。ワクチン3回以上接種していれば、9月7日以降は出国前のPCR検査が不要になる(今年4月撮影)
ロサンゼルス国際空港内のPCR検査センター。ワクチン3回以上接種していれば、9月7日以降は出国前のPCR検査が不要になる(今年4月撮影)

筆者:

(インタビュー時点)現状、海外から日本へ向かう際に現地出発前72時間以内のPCR検査が義務づけられてますが、これが無くなれば、日本発着の国際線はどう変わるでしょうか?また政府に対しての要望はありますか?

芝田社長:

実際に今、一番大きな阻害要因がPCRであり、プレジャーもビジネス渡航においても、これがなくなれば精神的な不安がなくなるので、極めて大きなインパクトになると思う。日本からのビジネス渡航は早期に戻ると思うが、ただ日本発のプレジャー需要については、PCR検査だけでなく、円安で行きにくいという問題もあって遅れる可能性はあるが、PCR検査が撤廃されれば、プレジャー需要も増えると考えている。

そして日本政府に対しては、これまでもご支援いただいて感謝しているが、あとは「PCR検査の撤廃」「外国人の個人旅行の解禁」「ビザの緩和」を国際線(復活)に対して求めていきたい。

岸田首相の水際対策緩和を受けての芝田社長のコメント

 8月24日午後、岸田文雄首相が水際対策緩和を発表を受けて、芝田社長は「安心して海外と行き来できるようになり朗報です。訪日外国人のビザ免除や個人旅行の解禁も、G7各国並みに緩和されることを切望します。」とコメントを出した。

 日本入国前のPCR検査が一部緩和がされ、日本人の海外渡航は動き出すことになる。特にビジネス渡航(業務渡航)は急回復する可能性が高く、年末年始の海外旅行の計画を具体的に始める人が増えそうだ。反面、インバウンドの回復へ向けた緩和の動きは少なく、感染状況を見ながら日本政府が判断することになりそうだ。

芝田浩二氏プロフィール:

鹿児島県 奄美群島 加計呂麻島出身の62歳。1982年4月、東京外国語大学外国語学部卒業後、全日本空輸株式会社に入社。アライアンス室室長、欧州室長兼ロンドン支店長(執行役員)、ANAホールディングス グループ経営戦略室長(上席執行役員)、代表取締役専務執行役員などを経て2022年4月に代表取締役社長に昇格。

一番の趣味は釣り。奄美の生まれで周りを海に囲まれていたことで、自然と釣りをしていたという少年時代だったとのことで、他にもカメラ、空手、スキー、将棋と多趣味。大学時代に2年間休学し、2年の任期で北京の日本大使館で勤務した経験がある。その際に仕事で出向くことが多かった当時の北京空港の想いが忘れられず、全日本空輸の国際定期便拡大の力になりたいと思い、全日本空輸への入社を志望した。

ANAホールディングス社長就任が決定した際の社長交代会見で意気込みを話す芝田浩二氏(今年2月10日)
ANAホールディングス社長就任が決定した際の社長交代会見で意気込みを話す芝田浩二氏(今年2月10日)

 後編ではアフターコロナへ向けて、ピーチ、AirJapanを含めた国際線戦略、地域航空会社との連携、貨物事業などについて芝田社長にインタビューした内容を掲載する。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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