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「鬼滅の刃」人気の一般性を評価してみた

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(写真:西村尚己/アフロ)

鬼滅の刃分析再び

「鬼滅の刃」の話題性は新型コロナの第二波のピークと同程度という記事を前回書きましたが,その後も人気が衰えることなく続いているようです.

ツイッター上で見ても,公開二週目の週末も全ツイートの1%以上を「鬼滅の刃」の話題が占めていました.

鬼滅の刃の話題ツイッターにおける占有率(著者作成)
鬼滅の刃の話題ツイッターにおける占有率(著者作成)

しかし,たくさんのツイートがあるからと言って必ずしも一般の支持が得られているとは限りません.例えば,政治的な話題などは特定の政治的な意見を持った人たちが大量にツイートするため,ツイート数ほど一般性が無かったりします.

「鬼滅の刃」に関しても,一部のファンが盛り上がっているだけという可能性は否定できません.

そこで,「鬼滅の刃」を話題にしているアカウントが「特定のファン」のような偏りがないかを調べてみました.

ツイート数分析

単に偏りだけを見るとよくわからないので,ここでは比較のために今年流行した他のコンテンツ,「リングフィットアドベンチャー」と「どうぶつの森」についても併せて分析してみます.

ツイッター上で「鬼滅」「リングフィット」「どうぶつの森 OR あつ森」を含むツイートを1月1日から10月28日までの期間で分析してみました.

まず,各単語が含まれるツイートが日本語ツイート全体に含まれる割合を算出してみました.

各単語が全ツイートに含まれる割合(著者作成)
各単語が全ツイートに含まれる割合(著者作成)

まず,鬼滅の刃についてみてみると,10月に入ってからツイート数がぐんと伸びて1%を超えるツイートに鬼滅の刃についての話題が含まれていることがわかります.これは,かなり話題になったといってよいでしょう.

次に,どうぶつの森については3月20日に発売された直後はなんと全ツイートの2%を超えるツイートに「どうぶつの森 OR あつ森」が含まれていることがわかりました.これはすごい.しかも,5月の半ばまで0.5%以上をキープしています.もちろん,ツイッターとの相性というのもあるでしょうが,どうぶつの森はかなり長期にわたって人気を継続したコンテンツと言えそうです.

一方,リングフィットアドベンチャーについては,意外とツイートは少なかったようです.著者の周りでは結構リングフィットアドベンチャーが話題になっていた気がするのですが,皆運動した後は疲れてツイートなんてしていられなかったからでしょうか.あるいは,品薄が続いていたので,購入するタイミングが分散したせいかもしれません.

偏りの評価

次に,各ツイートを行ったアカウントの一般性について評価してみました.

過去のツイートをもとにツイッター上のアカウントを200以上のカテゴリに分類しておき,特定のカテゴリのアカウントがツイートを行っていないかどうかを分析する手法を用いました.

一日ごとに対象となる話題をツイートしたアカウントの偏りを示したものが下図となります.

画像

まず,トータルというのはツイッター全体での偏りのことになります.これは,常に0.01未満となっており,利用したデータ全体には偏りはないことが示されています.

次に,どうぶつの森についてみてみると,発売直後から8月くらいまで偏りが0.5を下回る時期が続いています.つまり,かなり長期にわたって話題になった上に,その話題を行っていたアカウントは偏りが少なかったことがわかります.

それと比較して,「鬼滅の刃」の偏りについてみてみましょう.オレンジ色のラインを見ると,10月までは,およそ0.5~1.0付近をうろちょろしていることがわかります.このころは,それなりに偏りが存在していたといえるでしょう.主に漫画好きのアカウントが話題にしていたのだろうなと思われます.それが,10月に入ると,急激に下がり0.3程度となりました.偏りは小さいほど一般性が高くなったと言えますので,映画公開に合わせて一気に一般化したようです.

最後に,リングフィットアドベンチャーはおおむね1以上をキープし続けています.著者の周りではかなり話題になっていたのできっと一般的に話題になっていたんだろうと思い込んでいましたが,冷静に考えると著者の周りはある程度の年齢の人が多いわけで,運動不足に悩んでいるおっさんたちが好んで話題にしていただけなのかもしれません.ちょっと悲しい現実を発見してしまいました.

終わりに

というわけで,鬼滅の刃人気をツイッター上の偏りという観点から見てみました.その結果,ツイート数では及ばなかったものの,話題の一般性という点では少なくとも瞬間的には「どうぶつの森」を超えていることがわかりました.

「どうぶつの森」といえば,wikipediaによれば「あつまれ どうぶつの森」は国内累計販売本数が700万本で単一タイトルのゲームの売り上げ過去最多記録を更新したといいます.700万本って単純計算だと日本の人口の5~6%が所有していることになります.コンテンツの違いがあるとはいえ,そのどうぶつの森よりもさらに偏りが小さく一般性が高い話題であるというのは大きな意味がありそうです.

さらに言えば,ツイッターは13才以上でないと利用できませんので,鬼滅の刃のメインターゲット層の子供たちのうち,小学生は利用していないことになります.にもかかわらず,これだけ一般性のある話題になったという点も,やはり「鬼滅の刃」は一部のファンが話題にしているだけというわけではないといえます.

今後の予測というのは基本的に難しいのですが,「どうぶつの森」が緩やかに偏りを増加させていったのを考えると,同様の動きになれば,鬼滅の刃も長期コンテンツになる可能性は十分に秘めているのではないでしょうか.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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