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ハッピーセットのカービィ売り切れ問題における転売ヤーの影響はどのくらいだったのか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
ハッピーセット星のカービィ第一弾コンプリートの図(筆者家族撮影)

2024年3月1日に日本マクドナルドからハッピーセット「星のカービィ」について販売終了が発表され話題となりました.第1弾は2日で完売したそうですが,第2弾もわずか1日で完売する店舗もあったようで,その人気から売り切れ店舗が続出したことで販売中止になったのだと考えられます.そして,即日完売となった原因の一つに転売があるとして転売ヤーが批判の対象となっています.

第2弾は一日で完売ということになると買えなかった人も多かったのではないかと予想される一方で,メルカリで検索をするとハッピーセットのカービィの人形が大量に売り出されているのが確認できるため,転売ヤーに対する怒りが湧くのもわかります.

販売終了のお知らせ(マクドナルド公式アプリより)
販売終了のお知らせ(マクドナルド公式アプリより)

そこで,実際にはどの程度が転売され,即日完売に転売ヤーがどの程度影響を与えたのか推定してみたいと思います.

ここでは,フェルミ推定を使って大雑把な推定を行ってみたいと思います.なお,出品の検索は2024年3月2日に行いました.

カービィ出品数の推定

まず,日本最大のフリマサイトであるメルカリでどの程度ハッピーセットのカービィが売り出されているのかを確認しました.ここでは,「ハッピーセット」「カービィ」で検索してみます.すると,何ページにもわたってカービィ人形が表示され,さかのぼれる最大である99ページ目を超えてもまだありました.一ページ当たり110~120程度の商品が表示されているようですので,少なくとも10000個以上の出品があったことが分かります.

これだけだと上限がよく分からないので,ここで8種類の人形のうち1種類である「ワドルディ」に着目して調べてみます.検索ワードに「ワドルディ」を追加してみると,31ページの出品がありました.一ページ当たり大体117個の出品が表示されているとすると,3627個の出品があったことになります.

同様に8種類のうちの一つ「キービィ」についても検索すると,37ページあることが分かりました.つまり,4329個の出品があったことが分かります.

右からワドルディとキービィ(筆者家族撮影)
右からワドルディとキービィ(筆者家族撮影)

ということでおおよそ,一種類が4000個くらい出品されていたと推定しましょう.そうなると,8種類ある人形は全部で32000個出品されていたと推定できます.

ただし,「コンプリート」をつけて検索すると,これまた4212個ほど出品されていることが分かりました.つまり,コンプリートのセット商品が4000くらい出品されていることになります.これだけで4000x4=16,000個の人形が含まれます.

そう考えると,32,000個くらいと推定されるカービィ人形の出品には平均して1以上の人形が含まれていると言えるでしょう.そこで,「ハッピーセット」「カービィ」で検索した一ページ目の出品について,1出品あたり平均数何個の人形がふくまれているか調べてみました.その結果,2.57個あることが分かりました.

というわけで,32000x2.57=82,240個の人形がメルカリに出品されていたことになります.フェルミ推定なので細かい数値はわかりませんが,まあ,大体8万個くらいは出品されていたのではないでしょうか?

もちろん,それ以外のフリマサイトで売りに出されたものもあるでしょうから,ざっくりカービィ人形10万個くらいは売りに出されていたと考えられるかと思います.転売ヤー許すまじ!

出品割合の推定

では,10万個の人形というのは,全体に対してどのくらいの割合になるのでしょうか?ほとんどの人形が出品されていたとなると,手に入らない要因は転売ヤーだと言えそうです.

まず,一店舗当たり平均どのくらいがフリマに出品されたのか考えてみましょう.マクドナルドの公式サイトによると,2024年1月に2,979店舗あったようです.大体3000店舗くらいですね.となると,一店舗当たり33.3個が転売されたという計算になります.あれ,案外多くないような気がする.

では,売り出されたハッピーセットに対してはどのくらいでしょうか.実際に何個売り出されたのかはわかりませんが,ヒントとなりそうなものとして,2008年とちょっと前ですが,ポケモン『ぴかポケ』のハッピーセットが3日間で250万個売れたというニュースリリースがありました.ということは,ざっくりと300万個くらいは作っているのではないでしょうか?ハッピーセットは年間1億食売り上げるということですので,一日当たりは27万食程度.もともと第1弾の販売が3週間の予定でしたので,平均で575万食売れると計算できます.そうなると,第1弾だけで600万個,第2弾と併せて1200万個作っていてもおかしくはないと思いますが,ここは少な目に第1弾第2弾ともに300万個,計600万個だったと仮定しましょう.これだと,1店舗あたり平均2000個の人形があったことになりますので,なんとなくそんなもんかなという気がします.倍の4000個でもありそうな気はしますが.

そうすると,600万個のうち10万個が転売されたとすれば,転売率は1.67%ということになります.もし1200万個作られていたとすれば0.83%程度です.

推定販売個数と推定転売個数(筆者作成)
推定販売個数と推定転売個数(筆者作成)

この推定結果が正しければ,転売率は高くなく,即日完売の要因は転売ではなくマクドナルドが見込んだ販売数をはるかに上回る購入があったためであると言えそうです.

第2弾発売日には,近所のマクドナルドも朝6時のオープンと同時に長蛇の列だったという話ですので,転売目的の人もいたかもしれませんが,普通に子供が欲しがって買いに行った人が多かったというところではないでしょうか.また,ダブった人形をいらないから売りに出すという方も多かったでしょうから,フリマに出しているすべての人が転売ヤーというわけでもないでしょう.そう考えると,いわゆる転売ヤーの影響はそれほど大きくはなかったのではないかと思われます.

というわけで,フェルミ推定の結果から考えると,ハッピーセット「星のカービィ」が即日完売して買えなかった方たちは転売ヤーのせいにするのではなく,需要を正確に見込めなかったマクドナルドに苦情を言った方が建設的かもしれません.

ちなみに,今回の結果はあくまでもフェルミ推定の結果なので,全然違う可能性もあることにご注意ください.

正直,出品数がワドルディの8倍とかの推定はかなり怪しい気がします.とはいえ,出品数は多めに,販売数は少な目に推定しての結果ですので,転売ヤーがそれほど影響していないという結論は大きく外れていないとは思います.少なくとも,ほとんどを転売ヤーが買い占めた,ということはないのかなと思われます.

もちろん転売ヤーの影響がゼロだったと主張するつもりもありませんが.

転売ヤー問題

転売ヤーについては近年様々なところで問題視されていますが,実際にどの程度転売ヤーの影響があるのかということについては見積もりが難しいところです.今回はそこまで影響が大きくなかったのでは?という推定結果になりましたが,すべての商品で成り立つわけではありません.商品によっては転売ヤーの影響が大きいものも存在するでしょう.しかし,本当の要因を明らかにせずに「転売ヤーのせいだ」とすると,真の問題解決から遠ざかる可能性があることには注意が必要です.

転売ヤー問題については色々なところで議論されていますが,データに基づいて実態を把握したうえで議論することも大切なのではないでしょうか.

追記

600万個も作っていないのではないか?というご意見をいただきました.ポケモン『ぴかポケ』と同程度の300万個だとすると3.3%程度,200万個だとすると5%程度が転売されたと推定されます.いずれにせよ,大半を転売ヤーが購入したということは無いでしょう.半分が転売された状態は,販売数が20万個程度の場合となるので,1店舗100個以下しか用意していなかったというのは流石に考えづらい気がします.

とはいえ,あくまでもこれはフェルミ推定の結果ですので,本当のところはマクドナルドの公式発表に期待したいところです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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