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藤井聡太名人への挑戦権争いは豊島将之九段が一歩リード-第82期順位戦A級中間展望-

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第82期順位戦A級は残り3戦となりました。藤井聡太名人(21)への挑戦権をめぐる争いは、豊島将之九段(33)が6戦全勝でトップを走り、菅井竜也八段(31)が1敗で追いかけています。

 一方、残留争いでは、前期はプレーオフに進出した広瀬章人九段(36)が1勝5敗と苦しい状況です。そして、2勝4敗の棋士も4名いて混戦模様です。

 ここまでの戦い、そして2024年のラスト3戦について、ここから解説していきます。

6回戦までが終了している。8回戦と9回戦は一斉に行われる
6回戦までが終了している。8回戦と9回戦は一斉に行われる

挑戦権争い

挑戦の可能性があるのは、表の4名と3勝3敗の佐々木勇気八段まで
挑戦の可能性があるのは、表の4名と3勝3敗の佐々木勇気八段まで

 豊島九段が6連勝で首位を快走しています。ここまで非常に安定した戦いぶりで、スキを見せていません。
 対戦成績でやや分の悪い渡辺明九段(39)と永瀬拓矢九段(31)との対戦を勝利で終えているのも、挑戦権獲得へ向けて明るい材料です。

 首位の豊島九段を1敗で追っているのは菅井八段です。第73期ALSOK杯王将戦七番勝負で挑戦者に名乗りを上げるなど好調で、順位戦でも苦戦の将棋を逆転でひっくり返す力強さを見せています。

 豊島九段と菅井八段は最終戦で対戦が組まれており、その一戦が挑戦権争いの大一番となりそうです。
 二人の直接対決があるため、2敗の永瀬九段は挑戦権獲得に向けて厳しい状況です。前名人の渡辺九段は首位の豊島九段と星の差が3つあるため、挑戦権獲得の目はほぼなくなっています。

残留争い

2勝4敗が4名いて混戦模様
2勝4敗が4名いて混戦模様

 前期、最後まで藤井八冠と挑戦権を争った広瀬九段ですが、今期は調子が上がりません。
 2回戦から5連敗しており、特に最近の2戦は終盤戦で逆転負けを喫し、悪い流れが続いています。

 次戦では首位の豊島九段との対局が控えており、厳しい状況にありますが、逆に流れを変えるチャンスとも言えます。前期成績に基づく順位が上位なので、一つ勝てば降級圏内から脱出できます。

 2勝4敗は4名います。名人3期の佐藤天彦九段(35)や前々期の挑戦者である斎藤慎太郎八段(30)も含まれており、A級の厳しさがうかがえます。

 次戦では残留争いを繰り広げるメンバーの直接対決が2つあります。ここでの結果が残留争いの行方に大きな影響を与えそうです。

戦法に変化アリ

 ここまで30局が指された中で10局が振り飛車の戦いとなり、これは近年の中では大きな変化と言えます。
 10局中6局は振り飛車党の菅井八段が採用したもので、他では佐藤九段と広瀬九段が振り飛車を採用しています。

 相居飛車の戦いでも、2手目に△8四歩として相手に作戦を委ねるのではなく、△3四歩として自ら作戦の主導権を握る指し方が増えています。

 この辺りは藤井八冠の影響もあるでしょう。トップ棋士たちは藤井八冠を倒すために様々な試みをしており、それがこうした作戦選択に表れているのだと思います。

スケジュール

 さて、今後のスケジュールを見てみましょう。

1月10日(水):佐藤ー佐々木

1月11日(木):渡辺-菅井、永瀬ー稲葉、中村ー斎藤

1月19日(金):広瀬ー豊島

1月31日(水):8回戦一斉

2月29日(木):9回戦一斉

 7回戦で最も注目されるのは広瀬九段ー豊島九段の一戦で、その対局は1月19日に行われます。
 この一戦の結果は、挑戦権争いと残留争いに大きな影響を与えることでしょう。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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