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年度最高勝率へ挑む藤井聡太八冠、立ちはだかるライバルたち ~2024年将棋界展望~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
画像作成:筆者

 あけましておめでとうございます。今年も将棋界の最新情報をお届けしていきます。ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。

 2023年は藤井聡太八冠(21)が全冠制覇し、将棋ファンを沸かせる一年になりました。そして、2024年も主役は藤井八冠で間違いありません。

 八冠達成と同時に、「誰が藤井八冠を倒すのか」という点が将棋界の注目ポイントになっています。時代の移り変わりとともに挑戦者たちの顔ぶれも若返り、2024年は若手の旋風が巻き起こるのでしょうか。

 この記事では、2024年の将棋界を展望していきます。

藤井八冠の2024年

 藤井八冠の2024年の初陣は、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負です。1月7日(日)・8日(祝)に行われる第1局を皮切りに、タイトルの防衛ロードが始まります。

 続いて、2月4日(日)には第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負が幕を開け、以後はダブルタイトル戦が進行します。
 同時進行で第17回朝日杯将棋オープン戦と第73回NHK杯戦も行われ、3月末までに行われる対局はこれら4つの棋戦です。

 この4つの棋戦における成績によっては、中原誠永世十段が保持する年度最高勝率(47勝8敗0.8545)の更新が可能性として浮上し、注目を集めそうです。

 現在33勝6敗の藤井八冠は、もし4つの棋戦を全て制覇すれば、15の勝ち星を積み上げて勝ち数を48勝まで伸ばします。要するに、2つのタイトル戦を2敗以内で乗りきって防衛し、かつ2つの棋戦で優勝すると記録達成(48勝8敗)となります。

 非常に高いハードルではありますが、八冠に輝いた藤井八冠ならばその可能性は十分にありそうです。

トップ棋士の2024年

 2023年、順位戦B級1組以上で挑戦権を獲得して藤井八冠とタイトル戦で戦ったのは、羽生善治九段(53)と菅井竜也八段(31)でした。

 菅井八段は第73期ALSOK杯王将戦七番勝負で藤井王将に挑戦します。A級順位戦でも挑戦権争いに加わっており、振り飛車党の第一人者は2024年にさらなる飛躍を目指します。

 2023年に日本将棋連盟会長に就任して多忙な日々を送る羽生九段ですが、今期も高い勝率を誇り好調をキープしています。再び藤井八冠とのタイトル戦が実現することを期待する声も多いです。

 昨年の防衛失敗から再起をかける渡辺明九段(39)と永瀬拓矢九段(31)も当然ながらタイトル挑戦争いに加わるでしょう。

 2023年に挑戦権を獲得出来なかった豊島将之九段(33)は、順位戦A級でトップを快走中で、名人戦へ最も近いところに位置しています。藤井八冠との対戦に向けてフォームを改良しているようで、タイトル戦への登場が待ち遠しいです。

飛躍を目指す若手棋士の2024年

 2023年には、佐々木大地七段(28)と伊藤匠七段(21)がそれぞれ2つのタイトル戦で挑戦権を獲得しました。この二人には2024年にも期待がかかります。
 第36期竜王戦七番勝負では、伊藤七段は4連敗で藤井竜王に敗れましたが、挑戦者に決まっている第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負では、その経験を生かして接戦を演じると筆者は予想しています。
 一方で、夏のダブルタイトル戦で敗れた後、佐々木七段はやや停滞気味です。藤井八冠に敗れると再起に苦労するのは他のトップ棋士でも共通しています。
 それだけに伊藤七段がすぐに2回目のタイトル挑戦を果たしたことは、価値が高いと言えます。
 かつて羽生七冠(当時)の牙城を崩した三浦弘行五段(現九段)は、若手ながら2回目のタイトル戦登場でした。全冠制覇からの日数も含めて当時と状況が似ており、歴史が繰り返すならば八冠の牙城を崩すのは伊藤七段かもしれません。

 伊藤七段以外の藤井八冠の同世代も躍動しています。その筆頭は藤本渚四段(18)です。今期の成績は36勝6敗(未放映のTV対局除く)で、藤井八冠を上回る勝率を誇っており、年度最高勝率の更新にも期待がかかります。
 藤本四段は第65期王位戦でリーグ入りを果たし、第9期叡王戦では本戦入りを果たしています。一気に挑戦権を獲得する勢いも感じさせます。

 叡王戦は、若手棋士が挑戦権を手に入れやすい棋戦として知られています。
 今期本戦に進んだ中では、佐々木勇気八段(29)、八代弥七段(29)、青嶋未来六段(28)、斎藤明日斗五段(25)といった、高勝率を誇りながらタイトル戦に縁のなかった若手棋士たちに、初挑戦のチャンスが巡ってくる可能性がありそうです。

女流棋界にも若手の旋風

 2023年の公式戦最終日、女流棋界に大きな波紋が広がりました。
 第18期マイナビ女子オープン本戦2回戦で、西山朋佳女流四冠(28)とタイトルを分け合う福間香奈女流四冠(31、旧姓里見)が、若手の大島綾華女流初段(20)に敗れたのです。
 この対局で大島女流初段は、中盤以降に福間女流四冠をねじ伏せる強い将棋を見せました。
 この出来事は、2024年に若手女流棋士が旋風を巻き起こす兆しを感じさせるものでした。

 岡田美術館杯第50期女流名人リーグで内山あや女流初段(19)は、福間女流四冠を破るなど、並み入る強豪を次々とくだしてプレーオフに進出しました(プレーオフでは福間女流四冠に敗戦)。2024年の活躍にも期待がかかります。

 実績を残しながらタイトル挑戦に手が届いていない若手にもチャンスが訪れそうです。
 現在、マイナビ女子オープン本戦で準決勝に進出している北村桂香女流二段(28)と女流順位戦A級で全勝の石本さくら女流二段(24)の二人がその候補として挙げられます。

 そして、2024年最初の公式戦(1月3日)では、新人の磯谷祐維女流初段(20)が第8回YAMADA女流チャレンジ杯で優勝しました。デビュー間もない磯谷女流初段は、その実力を高く評価されています。
 残念ながら準優勝に終わった野原未蘭女流初段(20)ですが、女流順位戦ではB級に所属し、若手の中でも注目の存在です。

 スポーツの世界でも将棋の世界でも、若手が旋風を巻き起こすことで盛り上がりを見せます。藤井八冠を脅かす若手棋士の登場が、将棋界のさらなる活性化につながることは間違いありません。女流棋界も同様です。若手の旋風が巻き起こるでしょうか。
 2024年も将棋界の動向から目が離せません。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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