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運命の一戦!永瀬拓矢王座と藤井聡太七冠、新たな戦術で火花散る ー第71期王座戦五番勝負第3局ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 9月27日(水)午前9時に愛知県名古屋市で第71期王座戦五番勝負第3局が始まりました。

 永瀬拓矢王座(31)に藤井聡太七冠(21)が挑戦する五番勝負は、ここまで1勝1敗のタイです。

 第3局の勝者が王座獲得に大きく前進する重要な対局です。

五番勝負の表。ここまで1勝1敗のタイ
五番勝負の表。ここまで1勝1敗のタイ

 本局、永瀬王座は4手目に△4四歩と角道を止めました。

 これは藤井七冠が得意とする角換わりを避ける意思表示です。そして、永瀬王座が雁木の形を作り戦型が定まりました。

永瀬王座の作戦選択

 同じく藤井七冠が先手番だった第1局では、永瀬王座が角換わりを受けて早繰り銀から急戦に撃って出ました。

 藤井七冠が最も得意とする「角換わり腰掛け銀」をわずかに外し、永瀬王座は「角換わり早繰り銀」で戦いました。

 そして、第3局では永瀬王座が角道を止めて、角換わりを避けて雁木を選択しました。

 研究の深さに定評がある永瀬王座としても、藤井七冠が最も得意とする「角換わり腰掛け銀」を受けて立つと勝率が低いとみているのでしょう。

 先ごろ閉幕したABEMAトーナメント2023では、永瀬王座は後手番で横歩取りを主軸に据えて多くの勝ち星を稼ぎ、チームを優勝に導きました。しかし本局では横歩取りを採用しませんでした。

 永瀬王座は、角換わりを受けない時の戦法選択として、横歩取りのような激しい戦いにするのではなく、雁木のようなやや受け身の戦法の方が藤井七冠に対して勝つチャンスが大きいと見たのでしょう。

端歩のアヤ

 永瀬王座が居飛車と振り飛車の態度を保留する中で、△9四歩に対して藤井七冠が▲9六歩と受けなかったことに目を引かれました。

「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 9手目▲6八玉まで
「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 9手目▲6八玉まで

 過去5年間ほど、藤井七冠は△9四歩と突かれると必ず▲9六歩と受けてきました。しかし、本局では9筋を受けずに駒組みを急いだのです。

 9筋を突き合う形での対雁木に不安を覚えているのか。

 それとも永瀬王座の作戦を外したのか。

 この辺りは対局者しか知り得ない部分ですが、非常に興味深い点です。

 ▲9六歩と突かなかった藤井七冠に対し、永瀬王座は△9五歩と端を突き越してから雁木に構えました。対して藤井七冠は▲3七銀と動きを見せました。

「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 19手目▲3七銀まで
「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 19手目▲3七銀まで

 後手が9筋に2手かけたので、藤井七冠が急戦を目指すのはある意味自然な流れです。もし持久戦になると、9筋の位が必ず生きてくるからです。

 後手は立ち遅れそうにみえますが、先手の玉の位置に着目して急戦に対抗したのが永瀬王座の戦略でした。

終局は20時過ぎに

 永瀬王座は7筋に飛車を動かして反撃の形を作りました。

「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 26手目△7二飛まで
「第71期王座戦五番勝負第3局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲藤井聡太竜王・名人ー△永瀬拓矢王座 26手目△7二飛まで

 藤井七冠も玉を7八に動かすとこの反撃が来ることは承知していたでしょうが、相手が居飛車か振り飛車かわからない中では7八に玉を動かす指し方は妥当なところでした。

 居飛車と振り飛車の両方を見せて7八玉を誘い、雁木にして7筋を飛車で攻撃するというのは、永瀬王座が描いていた戦略通りだと思われます。

 この動きで藤井七冠の攻め足が止まったため、長い将棋になりそうです。

 本記事執筆時点(9月27日11時現在)では、まだ形勢は互角です。ここまでは永瀬王座の戦略通りできていると思いますが、藤井七冠も自然な指し手を積み重ねて十分な態勢を作りつつあります。

 定跡を離れ、対局者は暗闇の中を一歩一歩踏みしめていくよりありません。互いの実力、地力が問われる展開になりました。

 運命の一戦、この後の進行が楽しみです。

 ここまでの2局はいずれも大熱戦で、終局時間は第1局が21:11、第2局が22:02といずれも遅い時間の終局でした。

 早い決着ならば20時頃、熱戦になると21時を越えての終局となるでしょう。

 様々なメディアで中継が行われています。

 ぜひ運命の一戦を生中継でお楽しみください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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