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【将棋】20代が躍進!女流順位戦の結末 若手の台頭で女流棋界に新たな風

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第3期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は、7月初旬に各クラスで最終戦が行われ、全対局を終了しました。

 昇級争いでは、B級とC級で最終戦にドラマがありました。

 この記事では、最終戦の様子を時系列でお伝えします。

 なお各クラスの全成績については、日本将棋連盟HPの公式ページよりご確認ください。

7月5日 A&B級一斉対局

 A級では、挑戦権獲得を決めていた西山女流三冠が最終戦で居飛車を選択して驚かせました。しかもその指しまわしは完璧で、居飛車党の渡部女流三段相手に角換わりで付け入る隙を見せない快勝でした。

 里見香奈白玲との七番勝負でも居飛車を選択するのか、注目です。

 一方、残留争いでは、中井女流六段が敗れて降級決定となりました。

 A級の全成績は下記の表でご確認ください。

甲斐女流五段の引退に伴い、来期は9名で行われる
甲斐女流五段の引退に伴い、来期は9名で行われる

 大混戦で迎えたB級最終戦では、昇級争いと残留争いで大きなドラマがありました。

 勝てば昇級が決まる鈴木女流三段は、リードを築く場面もありながら勝ちきれず、無念の敗戦となりました。

 そして、鈴木女流三段が敗れたことで勝てば昇級だった室田女流二段も残念ながら黒星に。

 結果として、最終戦が不戦勝となった石本女流二段が昇級を手にすることとなりました。

10名中6名が5勝4敗で終えた
10名中6名が5勝4敗で終えた

 残留争いでは、4勝4敗勢で唯一黒星を喫した千葉女流四段が、最後の降級枠に入ってしまいました。最終戦は勝勢の終盤戦でのトン死で、あまりにも痛い敗戦でした。

7月7日 C級一斉対局

 こちらも最終戦は波乱となりました。

 勝てば昇級が決まる室谷女流三段は山口女流二段と190手を超える死闘の末に力尽きました。

 そして、室谷女流三段が敗れたことで勝てば昇級だった加藤女流初段も180手を超える死闘の末にこちらも力尽きました。

 結果として、最終戦を勝利した武富女流初段が昇級を手にすることとなりました。

5勝3敗が7名。順位が明暗を分けた
5勝3敗が7名。順位が明暗を分けた

 B級の石本女流二段と武富女流初段は、今期の順位が最上位であり、結果的にそれが大きな影響を与えました。

 石本女流二段の場合、前々期の成績によって鈴木女流三段より順位が1つ上になり、それが今期の明暗を分けました。

 これが順位戦の本質であり、一つの勝ち星が今後に大きな影響を及ぼす可能性があるため、一局たりとも無駄には出来ないのです。

7月10日 D級一斉対局

6勝2敗が6名で、このクラスでも順位がモノを言った。
6勝2敗が6名で、このクラスでも順位がモノを言った。

 渡辺女流二段の最終戦は不戦勝で、昇級が決まりました。最後は不戦勝ながら開幕からの6連勝は見事で、前期の好成績による順位も生きました。

 最後の昇級枠は、中村桃子女流二段と堀女流1級の直接対決で決まる形となりました。

 その戦いを制したのは堀女流1級でした。190手を超え、何度も形勢が入れ替わる中、最後に勝利をつかんだ要因は気持ちの強さでしょう。

 闘病中であることを公表している堀女流1級にとって、今期女流順位戦の最後に最高の結果が待っていました。

 6勝2敗の同星ながら順位の差で昇級できなかった3名は、いずれも初参加の新人です。3名とも15~16歳であり、今後の伸びしろも大きそうです。順位が大きく上がる来期が試金石となるでしょう。

第3期女流順位戦総括

B~D級の昇級者一覧
B~D級の昇級者一覧

 昇級は9名中、10代&20代が6名で、若手の活躍が目立ちました。

 これらの6名は、上のクラスでも十分に通用する実力の持ち主です。昇級直後は順位が悪いため降級の危機に瀕することが多いですが、もう一段上のステップを目指せるでしょうか。

 逆転昇級が多かったということは、泣いた人が多い裏返しでもあります。

 C級の加藤女流初段は、5連勝からの3連敗で昇級を逃してしまいました。3敗の中で一つでも勝っていれば昇級していました。

 D級の中村女流二段は、2期連続で最終戦に敗れて昇級を逃しました。

 昇級を逃した女流棋士たちの気持ちを考えると胸が痛くなります。

 しかしその厳しさもまた、順位戦です。

 トップクラス以外でも大一番を戦い、そして悲喜こもごもを味わえるのが順位戦の良さであり、実力を上げるために重要なことなのです。

A~C級の降級者一覧
A~C級の降級者一覧

 降級した8名中、40代以上が6名、30代が2名で、世代交代を印象づける結果となりました。

 前期、ベテランの奮闘として話題を集めた中井女流六段と山田女流四段でしたが、残念ながら今期は奮いませんでした。

 B級は結果的に年齢が上の3名が降級しました。B級に昇級する3名が若手ばかりのため、来期のB級は非常にフレッシュなメンバーとなります。これも世代交代を印象づける出来事です。

 女流順位戦も終わりを告げ、ヒューリック杯第3期白玲戦七番勝負が9月より始まります。

 女流五冠vs女流三冠の頂上決戦は熱い戦いとなること間違いありません。

 そして、様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~女流棋士No.1決定戦~』。

 次回は本日(16日)14時~、放送が予定されています。

 女流棋士たちの映像はもちろんのこと、対局内容も詳しく紹介されるため、多くのファンが楽しめる番組となっています。

 こちらもぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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