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藤井聡太竜王を止める棋士は、渡辺名人?永瀬王座?それとも ー2023年度の将棋界を展望するー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
藤井聡太竜王には、2023年度に八冠の期待がかかる。写真は2019年のもの(写真:森田直樹/アフロ)

 将棋界の2023年度が4月1日(土)に幕を開けた。いきなり渡辺明名人(38)ー羽生善治九段(52)というビッグカードから始まり、ファンをわかせた。

 今年度も、六冠を保持する藤井聡太竜王(20)を中心にまわっていくことは間違いない。

 全冠制覇なるか、という点でもおおいに注目されるだろう。

 果たして藤井竜王を止める棋士は現れるのか、そしてそれは誰なのか。

 ここから解説していく。

タイトル戦常連組

 2023年度最初のタイトル戦は名人戦七番勝負と叡王戦五番勝負になる。

 名人戦では渡辺名人に藤井竜王が挑戦する。もし奪取すれば最年少名人、最年少七冠となる。

 先日行われた棋王戦コナミグループ杯五番勝負では3勝1敗で藤井竜王が制したが、渡辺名人の将棋内容が尻上がりに良くなっているようにみえた。

 対戦成績では藤井竜王が圧倒しているが、渡辺名人の巻き返しが始まる可能性も十分にありそうだ。

 叡王戦では菅井竜也八段(30)が藤井叡王に挑戦する。久しぶりに振り飛車党の棋士がタイトル戦に登場するため、ファンの期待も高まっている。

 居飛車と振り飛車を両方相手にすると研究が分散してしまうため、菅井八段の振り飛車に苦しめられると筆者は予想する。

 他に藤井竜王を止める棋士として有力なのは、過去の実績や昨年の成績を加味すると、永瀬拓矢王座(30)、羽生九段豊島将之九段(32)、広瀬章人八段(36)あたりだろう。

 藤井竜王が八冠を狙う場合、

・名人戦七番勝負で奪取

・叡王戦五番勝負で防衛

・ヒューリック杯棋聖戦五番勝負で防衛

・伊藤園お~いお茶杯王位戦七番勝負で防衛

・王座戦で挑戦者決定トーナメントを勝ち抜き、五番勝負で永瀬王座から奪取

 という5つのハードルをクリアする必要がある。

 渡辺名人は王位戦と棋聖戦で、永瀬王座と広瀬八段は棋聖戦で挑戦の可能性を残している。

 羽生九段と豊島九段も王位リーグに参加しており、挑戦の可能性がある。

 上記のメンバーが藤井竜王を止めることができるか、八冠の行方は彼らにかかっているといえそうだ。

注目される20代後半の棋士たち

 昨年度、藤井竜王が一般棋戦を全制覇したこともおおいに話題となった。

記事中の画像作成:筆者
記事中の画像作成:筆者

 準優勝の欄に名前が並んでいるのは渡辺名人を除くと20代後半の棋士ばかりで、彼らが藤井竜王を止める役割を果たす可能性も十分にある。

 その中でも、昨年度A級昇級を果たした佐々木勇気八段(28)がもっとも注目だ。棋聖戦でも勝ち進んでおり、初のタイトル戦登場が期待される。

 他にも棋聖戦でベスト4に勝ち進んでいる佐々木大地七段(27)など、20代後半でタイトル戦出場に期待がかかる棋士は多い。

 ここで先日確定した2022年度のランキングから有望な20代の棋士をピックアップしていこう。なお藤井竜王は勝数と勝率の2部門を制覇したが、2つの部門で1位を逃している。

 対局数部門で1位になったのは、服部慎一郎五段(23)。昨年は叡王戦で挑戦者決定戦まで進み、順位戦でも昇級した。今年度はさらなる飛躍を目指す。

 連勝部門で1位になったのは、渡辺和史六段(28)。こちらは2年連続での受賞となった。

 順位戦で連続昇級を決め、20代後半の棋士の中でも注目度が上がってきており、タイトル戦に絡む活躍が期待される。

 順位戦で昇級すると各棋戦でシードとなり、タイトル戦への道が短縮される。そうした意味でも、B級1組に昇級した大橋貴洸七段(30)や増田康宏七段(25)もタイトル戦への登場が期待される。

新人棋士、そして若手女流棋士

 1日(土)、ABEMA将棋チャンネルでABEMAトーナメントのドラフト会議が放送された。

 全チームの編成はABEMATIMESの記事より

 これはトップ棋士が指名をして3人一組のチーム編成を行うもので、ここで指名を受けた若手は有望とみられている証となる。

 その中から、プロ入りから日が浅い棋士を4名ピックアップした。

 藤井竜王と同学年の伊藤匠五段(20)は2022年度も勝ちまくった。順位戦で昇級を逃したのは痛かったが、各棋戦でコンスタントに勝ち上がっており、タイトル戦の舞台が近づきつつある。

 ドラフトでは羽生九段の指名を受けた。本人にとってモチベーションの上がる出来事であっただろう。藤井竜王のライバル候補筆頭が飛躍する一年となるか。

 初参加の王位戦でいきなりリーグ入りを果たした、徳田拳士四段(25)と岡部怜央四段(23)も飛躍が期待される。

 ドラフトでは、徳田四段は糸谷哲郎八段(34)、岡部四段は渡辺名人から指名を受けた。

 現在最年少棋士の藤本渚四段(17)は千田翔太七段(28)の指名を受けた。

 藤本四段は定跡形の居飛車を好む上記3名と違い、力戦の居飛車を得意としている。まだ対局数が少ないため未知数ではあるが、未知数ならではの魅力もある。

 デビューからいきなり6連勝するなど、爆発力もありそうだ。

 さて、最後に女流棋界へ目を向けてみよう。

 こちらでも若い芽が顔を出しつつある。

 現在最年少女流棋士で昨年6月にデビューしたばかりの木村朱里女流1級(14)は、2022年度の勝率ランキングで1位となった。対局数がやや少ないとはいえ、トップクラスをおさえての1位は大物ぶりを発揮した。

 女流名人戦予選で並み居る強豪を倒してリーグ入りを決めた内山あや女流初段(18)は最注目の若手といえる。

 ヒューリック杯第3期白玲戦D級でも全勝でトップを並走している。

 同じくD級で全勝の大島綾華女流初段(20)と鎌田美礼女流2級(14)にも注目だ。

 大島女流初段はプロ間での評価が高く、飛躍が期待されている一人だ。

 鎌田女流2級はメディアへの露出で話題になることが多かったが、盤上でも結果を残しつつある。

 他にも10代で将来を嘱望される女流棋士が多くいる。まだ里見香奈白玲・西山朋佳女王らトップクラスに対抗できる実力はないが、5年後くらいに彼女たちがタイトル戦の舞台に立っていてもなんら不思議はない。

 藤井竜王が目立つ将棋界だが、それを追いかける有望な若手も多くいる。

 絶対的なチャンピオンも美しいが、ライバルも多いほうが面白い。

 それは女流棋界にもいえる。

 激しい競争が業界の未来を支えるのだ。

 皆様も、様々な棋士、女流棋士にご注目いただきたい。 

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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