Yahoo!ニュース

【将棋】佐々木勇気七段がみせた一撃必殺の銀捨て

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
撮影:筆者

 昨日、順位戦C級1組が開幕した。

 藤井聡太七段(16)の白星発進が話題となっているが、ここでは藤井七段のライバル的存在である佐々木勇気七段(24)の順位戦C級1組での対局を取り上げる。

一撃必殺の銀捨て

 強敵の阿部健治郎七段(30)との対戦は、今期C級1組の昇級争いを占う一戦とみられていた。

 対局は角換わり相早繰り銀という戦型に進んだ。

 古来よりありながら、昨今再び注目を集めている戦型だ。

 この対局で、後手の佐々木七段は中盤に△3七銀と桂のきいているところに銀をタダで捨てた。ネット将棋であればクリックミスを疑うような一着にみえる。しかしこれが一撃必殺の銀捨てだった。

 対して124分の長考の末、阿部七段はこの銀を取ることを断念した。しかしさらに佐々木七段は一気に攻め込み、以下数手で佐々木七段の制するところとなった。

 阿部七段の2時間以上の考慮は苦吟の時間だっただろう。必死に挽回の策を探したが、さしもの阿部七段も抵抗できなかった。

 佐々木七段がその△3七銀に費やした考慮時間はわずかに1分。研究手だったことが窺える。

 筆者もたまたまこの手は認識しており、知る人ぞ知る秘手だった。

 たった一手で決まる、研究の進む現代将棋の恐ろしさである。

勢いに乗るか

 佐々木七段は藤井七段の30連勝を阻止するなど、有望な若手棋士として知られている。

 ただ前期は全体的に星が伸びず、不本意な一年に終わった。

 勝負の世界では、こういう手で勝つと勢いがついてくるとされる。

 強敵を下して白星発進となった佐々木七段は今期C級1組で藤井七段と共に昇級を争う存在になりそうだ。注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事