中国の伝統楽器“二胡”をセンターに据えたフュージョン・バンド“五星旗(Five Star Flag)”の立ち上げに参加するなど、ポップスからジャズ、ファンク、ロックとボーダレスな活動を続けているピアニスト・進藤陽悟が、アグレッシヴなサックス・プレイで知られる渡辺ファイアーとデュオを始めて16年。昨年のファースト・アルバムに続いて、今度は全編カヴァー曲のセカンドを完成させた。その“意外な”中身と、そこに至るジャンル無用のサウンドメイカーならではのアプローチなどについて語ってもらった。

進藤陽悟(しんどう ようご)Profile

1970年生まれ、京都市出身。

上京後、ピアノを板橋文夫、キーボードを久米大作に師事。21歳からジャズ・ピアニストとして活動。後にドラマーのファンキー末吉、二胡奏者のウェイウェイウーらと「五星旗」を結成。日本のみならず、ニューヨーク、香港、北京でレコーディングやライヴを行う。自己のピアノトリオやピアノ・ソロでもアルバムを数枚リリース。そのほか、ジャズバイオリニストmaiko、二胡奏者の沈琳(シェンリン)のプロデュースや、フラメンコとジャズを融合させた「平松加奈 con ARMADA」等、さまざまなジャンルでアルバムをリリース。テレビドラマ「BARレモンハート」のテーマ曲や挿入曲を手掛ける。その他、ライブやコンサート等で都内、関東を中心に全国的に活動中。

♪ ポップス志望の青年が遭遇したジャズの衝撃

──ピアノはいつから始めたのですか?

進藤 8歳からクラシックのピアノを、近所の先生に習っていましたが……。

──ほかに興味が?

進藤 4月1日生まれだったので、学年でいちばん誕生日が最後なんですよ。だから、同級生となにをやってもうまくいかなかったんですね。で、両親が音楽好きで、聴くだけの趣味だったんですけれど、それに影響されて「レコードみたいに弾けたらいいなぁ……」と思ったりはしてましたね。

──部活は?

進藤 小学校はピアノだけ。スポーツもなにもしませんでした。中高ではブラスバンドで6年間、チューバを吹いてました。それと並行して、ピアノは高校3年まで習い続けました。

──上京のきっかけはなんだったのでしょう?

進藤 キーボーディストになりたかったんです。クラシックを習うのはもう終わりにして、ポピュラー系のキーボーディストになりたかった。それで、ミュージック・スクールに入ったんです。

──そこで久米大作さん(キーボード奏者。大学在学中にJフュージョンの先駆け的ユニット“プリズム”のファースト・アルバムに参加。THE SQUARE/現・T-SQUAREを経て、現在は作曲家、編曲家として幅広く活動)と出逢われたんですね。

進藤 そうなんです。まぁ出逢ったというか、1年間習いまして、それと並行してジャズ・ピアノ科というのがあって、それを履修しなければならなかったんですが、そこに板橋御大(板橋文夫)がいらっしゃった。18歳の春、衝撃的な出逢いでした(笑)。

──ポップスのキーボーディストをめざしていて久米さんに出逢えたのはものすごく恵まれて正統派ですが、そこで板橋さんにも出逢ったというのは……。どこで“事故に遭う”かわからないですね(笑)。

進藤 事故!(笑) いやぁ、衝撃でしたね。憧れていたフュージョンを学びつつ、アヴァンギャルドなアンサンブルを手がけている人も間近で観ることができた。東京のジャズクラブのそうしたシーンが、上京した自分にとってとても衝撃的だったのを覚えています。

──板橋さんは森山威男クァルテット時代のライヴをご覧になっていたんでしょうか?

進藤 いや、初めて観たのは、フォーサウンズ(1989年に板橋文夫/p, 峰厚介/ts, 井野信義/b, 村上寛/dsによって結成されたユニット)でした。

 そのあとの、向井さんが入ったホット・セッション(向井滋春/tb, 板橋文夫/p, 古野光昭/b, 古澤良次郎/ds)とかだったかな。

 まだアドリブという概念もぜんぜんわからない状態だったので、シンプルなジャズのサイズというか、楽譜の建て付けというか、どんどんフレーズを膨らませていくやり方に、ものすごく憧れましたね。

──そうした修行期間を経て、ファンキー末吉さんと出逢われた?

進藤 あの人との出逢いでも、僕の音楽人生はずいぶん変わりましたね。彼はもともとがロックのドラマーですが、ジャズでもなんでも融合させちゃったというか。中国の音楽に傾倒するようになってから、五星旗という方向性が見えてきたんだと思います。

 あのバンド、二胡が入っていたんですけれど、日本ではまだ二胡なのか胡弓なのか名称も定まっていないようなときに、いきなりロックとフュージョンに合わせてしまったわけですから、すごいですよね(笑)。

──渡辺ファイアーさんとの出逢いはT.P.O.ですか?

進藤 いや、ファンキー末吉さんと一緒にやっていたポップスのバンドのトラ(代役)でちょくちょく共演していたんですよ。

 やっぱり、ファンクとかロックの世界では、渡辺ファイアーさんという名前は知られてましたからね、あぁ、この人か、って(笑)。

──進藤さんはT.P.O.に最初から参加されていたんですよね?

進藤 あのファンク・オーケストラは、はぐれ雲永松さん(リーダー、トロンボーン奏者)がジャズじゃなくてファンクとかポップスをオーケストラ編成で演奏するという、「いままでありそうでなかったビッグバンドを作りたい!」って声をかけてできたんです。1998年だったかな。

 そのころの若手を集めていまも続いてますけど、みんな若手じゃなくなっちゃったな(笑)。

 僕のなかでは、ファンクもロックもワールド・ミュージックも、もうぜんぶ一緒だったんです。

 ただ、ジャズに関しては、21歳で音楽の仕事を始めるにあたって、徹底的に練習しました。いま考えると、それがあったからいろいろなジャンルでも演奏できるのかなと思っているんですけどね。

 板橋さんからスタンダードについてずいぶん教わりましたよ。チック・コリアやビル・エヴァンスという名前も、板橋さんから最初に聞いたんです。この話をするとみんな、「板橋さんがチックやエヴァンスを教えたって? 嘘だろ?」って言いますけどね(笑)。

──破壊力だけじゃなく、板橋さんのオリジナル曲が放つメロディの美しさを考えると、嘘ではないと思います(笑)。

進藤 そうなんですよ。ソウルフルだし、ブルージーだし。たくさんのスタンダード曲を教わりました。

 そういうことがあって、ポップスとかフュージョンをとりあえずちょっと横に置いといて、徹底的にジャズのスタンダードな世界をやりたいと思って、ジャズセッションなんかにも行くようになって、その世界にドップリと浸かっていたんです。

──そうした原体験があったから、渡辺ファイアーさんとのデュオという選択肢が浮かんできたんでしょうか。ファイアーさんとデュオをするきっかけは、東京・代官山のキャンディでのセッションだったそうですね。

進藤 店をオープンするにあたって、ブッキング・マネージャーから相談されたので、出演候補をいろいろ考えていたんです。

 誰か、ピアノと軽くデュオできるような人がいないかなと思っていて、冒険というわけじゃないけど、ありきたりじゃない人ともやってみようかと声をかけたのが、ファイアーさんでした。

 当時はハードなファンクものばかりをやる人だと思っていたので、それをデュオでやってもおもしろいと思ったんですけれど、やっているうちにソプラノ・サックスでバラードを吹いたりと、どんどんレパートリーが広がっていったんですよ。もう、16年もやってますからね。

──デュオの相手にファイアーさんを選ぶというのは、リスクが高くなかったんですか?

進藤 いや、そのころはヴァイオリニストとかチェリストとデュオをやったりしてましたからね。なにか、オリジナリティをもっているインストゥルメンタルの人たちとお付き合いすることが多かったので、それほどリスクが高いとは思わなかったかな(笑)。

 キャンディに限らず、ピアノがしっかりとキレイに鳴る場所だったら、デュオという世界観は広げられると思うんです。

 ギターの宮野弘紀さんとも20年ぐらいやっていますけれど、お互いにぜんぜん違うサウンドが広がっていくんですよ。

 ファイアーさんにしたって、彼の口から「カーペンターズをやろうよ」なんて言葉が出てきルとは、思わなかったですからね(笑)。

♪ 16年の積み重ねで生まれた“静と動”のスタンス

──アルバムの選曲については、ファイアーさんが軸となっているという話をうかがっているのですが、進藤さん的にはどう考えているのでしょうか?

進藤 結局、歌い方をどうするか、なんですよ。僕のアレンジで、これどうですかってやったとしても、本人の歌い方が合うか合わないかというところにどうしても関係してくる。

 本人が自信をもって演奏できるのかどうかが鍵になるから、やっぱり主旋律を担当する人に選んでもらいたいというのがあるんですね。

 そうやって選んで演奏してきたレパートリーが、16年間でかなり溜まってきていますので、そのなかから消去法みたいな感じで、今回のカヴァー集も選びました。

──どれを選ぶかというのは……。

進藤 そういうのをファイアーさんがひとりでやっていたんだと思いますね。それもあって、レコーディングはとてもスムーズに進みました。ファイアーさん自身も言っていたと思いますが、ノンストレスでできました(笑)。

──ファイアーさんは1枚目が終わったときに、もう2枚目のことを考えていたとおっしゃってました。

進藤 そうそう、もう3枚目も考えているんじゃないですか(笑)。

 いろいろ湧き出るものがあるんだと思います。ずーっとやってきたのがファンクっぽい激しいリズムのものだったので、それとは違う表現のこのデュオで、爆発させているんじゃないですかね。

 このデュオでは、すごく“静と動”ということを感じています。特に2枚目になって、マウスピースやリードの表現が進化してる。

 おそらく本人は意識しないでやっているんだと思うんですが、誰かになにも言わないでこの『My Favorite Covers』を聴かせても、ファイアーさんだってわからないでしょうね(笑)。

 それだけ、ブレスとか呼吸の取り方とかがぜんぜん違うと思います。

──「The Greatest Love of All」と「The One You Love」は進藤さんがやってみたいと思った曲だそうですね?

進藤 ホイットニー・ヒューストンが歌ってヒットした「The Greatest Love of All」はもともと好きな曲でした。ジョージ・ベンソンのヴァージョンでどうかなって、だいぶ前に僕がリクエストしたんです。

──そういうときは、「どうかな?」って投げてみて、ファイアーさんが「これいい!」って言うのを待っているということですか?

進藤 そうです。そういうの、しょっちゅうやっているんです。いまなら、YouTubeなどで簡単に原曲を確認できますからね。グレン・フライの「The One You Love」も、「こういう曲、あったなぁ……」って思い付いて、パッと提案してみた。

 アメリカン・ポップスでもソウルフルなものに偏ってしまいがちだったので、もっとロックな曲にも良い曲があるよなぁって思ったから。

──アレンジはどう考えているのでしょうか?

進藤 基本は、素材のままを行かすようにしています。あとはピアノをちょっと弾きやすくするとか、グッとくるコード・アレンジに変えるとかはやってますね。

 肝心なのはイントロ、アドリブ・パート、エンディングをどうするか、かな。

 アレンジでカヴァーできるところはなんとかしますが、やっぱり演奏自体にダイナミックさがないと、こういう1980年代のポピュラー・ミュージックのインストは、歌詞がないインストだと余計に、ただのBGMになっちゃう。

 そこらへんを注意して、それぞれの表現力を発揮できるようにと考えています。

──そういう点で、進藤さんのキャリア的には五星旗のようなロックやポップス的な部分もあるし、ファンクもジャズもあって、どれでも選べると思うんですが、選び方はどう考えていたんでしょうか?

進藤 要所要所でどれを出していくかを考えた、という感じですかね。

 僕が思っていたのは、80年代のアメリカン・ポップスやソウルって、あれだけの名曲が並んでいて、ジャズのスタンダードなんかとはまったく曲の建て付けなんかも違うし、盛り上がり方というか“絶頂感”も違って、あれだけヒットしたのに、ちょっと世代が違うと知らないという人がけっこういたりするのがもったいないなぁということなんです。

 アニタ・ベイカーとかグレン・フライとか、ヒットした名曲がいっぱいあるのに、ね。

 だから、あの年代にしかない素材を選んで、それを伝えられるようにしたかった。その素材なら、デュオでレア感も表現できるんじゃないか、って。

 こういう80年代のアメリカン・ポップスをデュオで演奏する方法論って、まだまだ確立してないですよね? ジャズならいろいろなミュージシャンがデュオの方法論を実践しているけど。

 ファイアーさんと僕はこの16年間でだいぶ積み重ねてきて、リズム感とか音の表現の仕方とかを発見してきているんですよ。

 要するに、ジャズのスタンダードをデュオで演奏するとはまた違った良さがあるから、もっとみんなにも知ってほしいと思っているんです。

──ジャズと曲の建て付けが違うことで、どんな苦労があるのでしょう?

進藤 ジャズの曲って、例えば32小節でテーマとサビとテーマが並んで、それをグルグル回しても成立しますよね。

 ポップスの場合、間奏部分とかAメロが終わってからのアドリブがあっても、アドリブで膨らませていくというより、曲の輪郭を保ちながらどのようにアドリブを埋め込んでいくかというような方法論ですよね。

 そうなると、アドリブってつなぎ目の役割にとどめるというか、あくまでも楽曲の良さを全面に出すことが前提になるということなんです。

 『My Favorite Covers』では、楽曲の美しさ、曲の建て付けの美しさを全面に出すことを考えたアレンジ、ということですね。

──あと聞きたかったのが、キーボードを使わずにピアノにこだわった理由なんですが。

進藤 っていうか、本業がピアニストなので、ピアノの表現力が僕の活動の“命”だと思っているからピアノなんです(笑)。

 オーケストレーションもリズムもピアノで付けられるという楽しさがあるというのも、このデュオが大好きな理由なんですよ。

 特にこの2作目では、サックスとのデュオからさらに進歩して、ヴォーカリストと一緒にやっているような感じも加わっている。

 ファイアーさんも歌詞を理解して取り組んでもらっているので、今回はインストのデュオというだけじゃなくて、すばらしいヴォーカリストも参加した“ダブルなデュオ”って感じかもしれませんね。

 やっぱりアメリカン・ポップスならではというか、ジャズのスタンダードだとテーマが短いから、ヴォーカリストと一緒にという感覚にはなりにくいんだと思います。

──次に向けての進藤さんの抱負を聞かせていただけますか?

進藤 このデュオに関しては、ものすごい数のレパートリーがあるので、そういう意味で、とっちらからずに1枚目と2枚目によくまとめられたなぁと思っています。

 特に今回は、カヴァーだけでやるという発想は僕にはなかったので、またこのデュオの可能性を見つけられた感じがしていますね。

 ということで、次はぜんぶオリジナル曲でやってみようかなんて話をしていたりするんですが(笑)。

──いくらレパートリーが多くても、こんなに矢継ぎ早にアルバムを出せるというのは、確かにフツーのデュオじゃありませんね(笑)。

進藤 いや、これ、コロナだったからというのもあるんです。以前ならほかのライヴやレコーディングのスケジュールがあったりと、なんとか時間を捻出してこのデュオのことを考えていたわけですけれど、コロナのおかげで考える時間がたっぷりあった。

 家にいる時間が長いと、アレンジにかける時間もとれるから、良い仕上がりになるんだなぁって(笑)。

──いろいろな要素やアレンジを2人の世界に落とし込めちゃうというのは、“度胸があるから”という部分が大きかったりするんでしょうか?

進藤 そうかな……。でも、好奇心のほうが勝っていると思いますよ。僕もそうですけれど、ファイアーさんもこのレコーディングは楽しくてしょうがなかったみたいですから(笑)。

 とにかく、いままでしまい込んでいたものを爆発させた、というのが、この『My Favorite Covers』に現われているサウンドなんじゃないかと思いますね。

このインタヴューの音声を以下で配信しています。

https://note.com/jazzpresentation/n/n0902e3e4f5e4

♪ Information

『My Favorite Covers』リリースLive!

出演:渡辺ファイアー(サックス)  進藤陽悟(ピアノ)

2021年7月24(土) 赤坂 B-flat(http://bflat.biz/

open 16:30 start 17:30

2021年8月8日(日) 名古屋 キャバレロクラブ(https://caballero-club.com/

open 17:00 start 18:00

2021年8月9日(月) 京都 Live Spot RAG(https://www.ragnet.co.jp/livespot/

※REAL&NET同時配信あり

open 16:30 start 17:30

2021年8月11日(水) 高松 ほのほ(https://f-honoho.net/

open 19:00 start 19:30

2021年8月22(日) 本厚木 Cabin(http://cabin.sgr.bz/

open 16:00 start 17:00

ジャケット写真(画像提供:Foot & Shoe Label)
ジャケット写真(画像提供:Foot & Shoe Label)

My Favorite Covers / WATANABE Fire & SHINDO Yogo

1. Ribbon in The Sky  2. Lately  3. You Are Not Alone  4. Just One  5. We Are All Alone  6. Nothing Gonna Change My Love for You  7. Sweet Love  8. The Greatest Love of All  9. Heal The World  10. The One You Love  11. I Need to Be in Love  12. Rainy Days and Mondays

渡辺ファイアー(saxophones),進藤陽悟(piano)

http://bowz.main.jp/fsl/0022/