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新たなファンクを“映し出す”ための“器”としての進化と変貌【DiscReview】

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

ファイアー・アタック『ウェイヴ・モーション』ジャケット写真(筆者撮影作成)
ファイアー・アタック『ウェイヴ・モーション』ジャケット写真(筆者撮影作成)

アルバム名:ウェイヴ・モーション

演奏者:ファイアー・アタック(渡辺ファイアー/sax, アタック松尾/guitar, 石川俊介/bass, 村上広樹/drums)

イントロ

2013年結成のコンテンポラリー・ジャズ&ファンク・ユニット“ファイアー・アタック”の、6年ぶりとなるセカンド・アルバム。

ファイアー・アタックは、“咆哮系サックス”の渡辺ファイアーと、カッティングの幻術士/アタック松尾が結成したユニット。

2015年リリースのファースト・アルバム『ファイアー・アタック』では、ウィル・リー(b)と新井田孝則(ds)、岡田治郎(b)と波田野哲也(ds)、石川俊介(b)と村上広樹(ds)という3組の異なるセッションのうえでフロントの2人が組んずほぐれつするという圧倒的パフォーマンスを繰り広げている。

渡辺ファイアー

1963年東京生まれ。

17歳でアルト・サックスの音色に魅せられ、大学時代からバンド活動を行ない、池田聡のツアー参加を機にプロ活動を開始。

E-Zee Band、CHAKA,バブルガムブラザーズのツアーとレコーディング等に参加し、1996年にはフジテレビの深夜番組「ラテン専科」にレギュラー出演。サックスのベルから火を放つなど傍若無人ぶりを発揮する。

1999年には大木トオル30周年ツアーに参加し、ベン・E・キング、エルヴィン・ビショップと共演。

ファンクを活動の中心とし、SOY SOUL、ファンク・オーケストラT.P.O.などのライヴ、レコーディングに参加。

ジャズでは2006年から森山威男グループに参加。『セントラル・パーク・イースト』や『森山×山下』の収録に参加。

自己のグループである“GOO PUNCH!”や“Fire Attack”の他、リーダー・セッション、Jポップのスタジオ・ワークも多数。“GOO PUNCH!”では『Goo Punch!』(2004年)、『2nd』(2009年)、『3rd』(2014年)を発表。

2004年から継続している“Fire session”でも2011年にアルバム発表。2014年からJazztronik Big Bandに参加し、2017年のアルバム「BB1」に参加。

アタック松尾

1963年生まれ。東京都出身。

小学生のときにクラシックギターを始め、中学生時代にロック、ブラック・ミュージックに衝撃を受け、エレキ・ギターを手にする。その後、ファンクに傾倒していき、18歳のとき現・オルケスタ・デ・ラ・ルスの初代メンバーらとファンク・バンド“ATOM”を結成。

1986年から、池田聡のツアーに参加したのを機に本格的にプロ活動を開始。その後、森高千里のツアー、レコーディングへの参加をきっかけに楽曲提供、アレンジ等を経験し、徳永英明、伊秩弘将、瀬戸朝香、CHAKA、V6、J-FRIENDS等さまざまなアーティストのレコーディング、ライヴ等の仕事をこなす。

アレンジャーとして『ダンスマニア』シリーズ、『スーパーユーロビート』シリーズ等、数々のダンス作品を手掛け、コンポーザー、プロデュース活動のほか、サウンド・デザイン、エフェクター開発や各種音楽データ制作にも携わる。

1996年にはLAに渡り、マーカス・ミラー、マイケル・ホワイトらとレコーディング・セッションも経験する。

現在、音源制作やレコーディング等種々雑多な仕事に追われながらも、渡辺ファイアーとのファンク・ユニット“FireAttack”、 自身のファンク・ロック・バンド“武装成金”、ファンク・バンド“StankyBooty”等で精力的にライブ活動中。

新作『ウェイヴ・モーション』

石川俊介(b)と村上広樹(ds)をレギュラーに迎えて、バンド・サウンドをブラッシュアップ。

石川俊介

1962年生まれ、横浜出身のベーシスト。ゼノン石川として聖飢魔Ⅱ(1986~1999年)で活動。RX、是方SUPER JAMに参加。

2001年、ジミ橋詰(ds)、米川英之(g, ex.C-C-B)、中道勝彦(key)らとN/Y Funk shot!! (エヌ・ワイ ファンク ショット)を結成。

村上広樹

13歳でドラムを始め、16歳でつのだ☆ひろのドラムスクールに参加。つのだ☆ひろ、そうる透、近藤郁夫に師事。3つのバンドでCDデビューしながら、セッション、レコーディング、ライヴサポートと幅広く活躍。

まとめると…

メンバーが共有している1980年代ファンクのアイデンティティをシッカリとひもときながら、21世紀に残すべき要素を模索していたのが前作だとすれば、その“選択のとき”を終えて、レギュラーを固定化することで、自分たちならではのサウンドを掘り起こし始めたのが本作。

それはまた、サックスのフラジオやギターのカッティングを“効果”としてではなく、バンドのキャラクターのひとつとして屹立させることを意味する。

ファンクには、それが流行した時代に、流行するに足る“時代の鏡”的な要素を備えていたはず。

ノスタルジーを狙うのではなく、“現在の音”としてアップデートさせるための試みが、“隠しコマンド”のようにちりばめられている、ラフに見えて気の抜けない内容なのだ。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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