【グラミー賞2020を聴く5】ベスト・ラテン・ジャズ・アルバムを味わう方法

♪ 第63回グラミー賞について

2019年9月1日から2020年8月31日までに発表された作品が受賞対象。ジャズ・カテゴリーには「インプロヴァイズド・ジャズ・ソロ」「ジャズ・ヴォーカル・アルバム」「ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム」「ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム」「ラテン・ジャズ・アルバム」の5部門があり、それぞれで最優秀賞が選ばれます。

参照:https://www.grammy.com/grammys/awards/63rd-annual-grammy-awards-2020

♪ ベスト・ラテン・ジャズ・アルバム

アルトゥーロ・オファリル&アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラの『フォー・クエスチョンズ』が最優秀賞を受賞しました。

♪ 『フォー・クエスチョンズ』

アルトゥーロ・オファリル&アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラ『フォー・クエスチョンズ』ジャケット写真(著者撮影)
アルトゥーロ・オファリル&アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラ『フォー・クエスチョンズ』ジャケット写真(著者撮影)

アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラによる6作目。

Arturo O'Farrill on his NEW ALBUM "Four Questions"

タイトル・チューンの“フォー・クエスチョンズ”は、W.E.B.デュボイス(ウィリアム・エドワード・バーグハード・デュボイス、アメリカの社会学者、社会主義者、歴史学者、公民権運動家、パン・アフリカ主義者、作家、編集者)の代表エッセイ『ザ・サウンド・オブ・ブラック・フォーク(黒人のたましい)』に登場する“4つの質問”を題材に、コーネル・ウェスト(アメリカの哲学者、政治思想家)の語りを交えながら、ジャズというファミリー・トゥリーにおけるアフロ・キューバンの立ち位置とプライドを大胆に描き出していきます。

また、4部構成の「ア・スティル、スモール・ヴォイス」では、聖歌隊を加えることで、ゴスペルをもこのトゥリーに含まれるものであることを実証しています。

社会問題をテーマに意欲的な作品を送り出してきたアルトゥーロ・オファリルの、タイムリーかつ完成度の高い集大成的な作品であることが、受賞につながったのでしょう。

♪ アルトゥーロ・オファリル&アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラ

アルトゥーロ・オファリルは1960年生まれ、メキシコ合衆国メキシコシティ出身のピアニスト、作曲家、バンド・リーダー。

父のチコはキューバ出身のトランペット奏者で、家族とともに1965年にニューヨークへ移ります。

アルトゥーロは6歳でピアノを習い始めますが、最初は嫌々だったそうです。しかし、12歳になるころには音楽家をめざそうと思うようになり、ラテンに傾倒する父のスタイルではなく、バド・パウエルやチック・コリアに憧れます。

1979年、ニューヨークのバーで演奏していた彼に、カーラ・ブレイ(ピアニスト、作曲家)がカーネギーホールでのコンサート出演を持ちかけ、カーラ・ブレイ・ビッグ・バンドのメンバーとしてのキャリアをスタートさせました。

その後はソロ活動のほかに、ハリー・ベラフォンテ(歌手、俳優、社会活動家)の音楽監督の座を長く務めるなど、幅広く活動を展開。

1990年代になると、ようやくラテン音楽にも関心を示すようになり、自分のルーツとして理解を深めていきます。

父のバンド“アフロ・キューバン・ジャズ・オーケストラ”を引き継いで活動していた彼に、ウィントン・マルサリス(トランペット)が“ジャズ・アット・リンカーン・センター”のプログラム・オファーを持ちかけたのが2001年。

プログラムは、オファリルがリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラを指導して、ティト・プエンテ(ラテンの王様と呼ばれたパーカッション奏者)を悼むコンサートを実施するという内容でしたが、楽団がアフロ・キューバンを理解しきれず、成功とはいえない結果になってしまいます。

これがきっかけで、アルトゥーロ・オファリルはアフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラ(ALJO)を結成し、ウィントン・マルサリスの協力でリンカーン・センターでの定期公演を始めました。

ALJOは、一般的なジャズのビッグバンド編成に3人のキューバン・パーカッションを加えたもので、このバンドによる第1作が第48回グラミー賞(2005年)のベスト・トラディショナル・トロピカル・ラテン・アルバムにノミネートされます。

第52回グラミー賞(2008年)では、ベスト・ラテン・ジャズ・アルバムの最優秀賞を受賞。第57回にも同最優秀賞を受賞するほか、アルトゥーロ・オファリル自身はベスト・インストゥルメンタル・コンポジションの最優秀賞も受賞しています。

♪ あわせて聴きたい

Baby Jack

『フォー・クエスチョンズ』収録曲。アフロ・キューバンなリズムと多層的なハーモニーで、アルトゥーロ・オファリルの実力がうかがえる1曲。

Four Questions (feat. Dr Cornel West)

『フォー・クエスチョンズ』収録曲。

Arturo O'Farrill & the Afro Latin Jazz Orchestra | 'They Came' feat. Chilo & DJ Logic

ALJOとDJロジックのコラボレーション。

Buscando la melodia - Afro-Latin Jazz Orchestra with Arturo O'Farrill

ALJOの第1作『Una Noche Inolvidable』収録曲。

♪ まとめると……

日本で耳にする“ジャズのビッグバンド”のイメージって、ベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバムの最優秀賞を受賞したマリア・シュナイダー・オーケストラの演奏よりもALJOのほうが近いなぁと感じるのは、ボクだけではないと思うのですが、いかがでしょうか?

そのことが、アルトゥーロ・オファリルの“ルーツへのこだわり”に共感するきっかけにもなり、アメリカで深刻化する“分断”を理解するためのヒントになるかもしれません。

ラテンがなぜジャズのカテゴリーに入っているのか、“プログレッシヴ R&B”や“ラップ”がなぜジャズとは別になっているのか、ロバート・グラスパー(ピアノ)が“プログレッシヴ R&B”なのはなぜなのか……などなど、グラミー賞をジャズから掘り下げようとすると、かなり手強そうですが、この“沼”にハマってみるのも、おもしろいんじゃないでしょうか。