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【ジャズ後】オークラ ミカ『ノーバディ・エルズ・バット・ミー』発売記念ライブで対応力の高さを確認

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

自宅に帰って湯船につかりながらノホホンと感想を書きとめようかな、という感じのヌル〜いライヴ・レポート。今回は、ヴォーカリストのオークラ ミカが開催した関内BarBarBarでのレコ発ライヴ。

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オークラ ミカのデビュー・アルバム『ノーバディ・エルズ・バット・ミー』をジャズ専門誌のディスクレヴューで担当する機会があった。このアルバムは2015年10月に限定発売されたが、好評のためにリマスタリングを施して改めて発売されたという“いわく”が付いている。

さすがに自分のPCで処理したものを製品化するまでには至っていないが、ミュージック・コンテンツを制作するハードルは10年前に比べても格段に容易くなっている。20年前とは比べるべくもない。

パフォーマンス・アーティストにとっては願ってもない世の中になったとは言えるものの、果たしてお手製のアウトプットを世間が“作品”として認めるのかという、新たな問題を解決しなければならない事態も招いていると言えるだろう。

そうした状況を考えると、オークラ ミカの限定制作盤が装いも新たに世の中に広まるというこのエピソードは、彼女にとって実績を“上振れ”させる出来事となったことになる。

♪ レコ発らしいハプニングに客席も一体化

当夜はボクの仕事の都合で、3セット・ステージのラストに駆け込むことになった。

メンバーとともにオークラ ミカがステージに登場すると、ピアノの加藤英介が歌も得意という話題になって、その加藤が「オール・オブ・ミー」を歌い始めるという展開に。このハプニングで客席も大盛り上がりとなったが、加藤は『ノーバディ・エルズ・バット・ミー』のプロデュースとアレンジを担当していることもあり、期せずしてレコ発に花を添えるパフォーマンスになったと言えるだろうか。

ステージはそのまま「ザ・ソング・イズ・ユー」「ワルツ・フォー・デビイ」「デヴィル・メイ・ケア」「ピール・ミー・ア・グレープ」「シャイニー・ストッキングス」「チェロキー」と進む。

緩急をうまく織り交ぜ、オークラ ミカというシンガーのリズム感の良さと歌詞の消化度の深さをコンパクトに味わうことができるプログラムと感じた。特に「ワルツ・フォー・デビイ」は6拍子でスウィングするという難しい課題をはらんだ曲だが、アレンジに頼りすぎることなくテンポを自分のものにして歌いこなしていた。

また、「ピール・ミー・ア・グレープ」のような女性の複雑な感情を綴った曲での脚色も見事で、ステージ映えする内容と言える。

抜けのいい高音部を効果的に使った「チェロキー」を歌い終えると、客席からはアンコールの拍手が湧き上がり、「ルート66」でこれに応えて終演。

振り返れば、(3セット目に駆けつけた自分が悪いのだけれど)レコ発なのにアルバム収録曲をひとつも聴かずに終わってしまったが、それはまたリマスタリング盤を家で聴く楽しみとして取っておこう。それよりも、アルバムに収まりきれないレパートリーと成長具合を見せてくれたことにより、オークラ ミカへの期待度をさらに高めることになったステージと言えるだろう。

★オークラ ミカ1st CD『 Nobody Else But Me 』リニューアルリリース記念LIVE

開催日:2016年5月29日(日)

場所:関内 BarBarBar

出演:オークラ ミカ(ヴォーカル)、加藤英介(ピアノ)、池田イケメン潔(ベース)、横山和明(ドラム)

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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