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【JAZZ】合奏の常識を覆す超人的“ひとり芸”(鈴木よしひさポリパフォーマンス)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
鈴木よしひさ『Poly-Performance』
鈴木よしひさ『Poly-Performance』

“ジャズの醍醐味”と言われているライヴの“予習”をやっちゃおうというヴァーチャルな企画“出掛ける前からジャズ気分”。今回は、鈴木よしひさが八面六臂するポリパフォーマンスのステージ。

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ポリパフォーマンスの“ポリ”は“複数”を意味する接頭語だ。つまり、日本語にすると“いくつかの演奏”となる。

一般にバンド形態では、複数のメンバーによって“いくつかの演奏”が同時並行的に行なわれ、それをひとつのものとして認識することによって“音楽”という言葉で表現している。ひとりの演奏者が(複数の楽器を担当していても)発声するときはひとつの楽器であることが前提とされている。もちろん、ドラムやパーカッションやキーボードなどでは右手と左手で違うものを叩いて、あるいは弾いていることもあるし、サックスを何本も咥えて吹く“マエストロ”もいないわけではない。

ヴォードヴィルに存在していた“ひとり芸”

ジャズの歴史をひもといてみると、ヴォードヴィルと呼ばれる軽演劇のなかで、鳴り物や洗濯板を身にまとった演奏者がいろいろな音を発してひとつの曲を完成させるという芸がある。なるほど、ジャズではその出自からひとりの演奏者がひとつの楽器に固執するなどという観念が薄かったことが知れるわけだが、本来は複数のメンバーによって行なわれる“いくつかの演奏”をひとりで行なうには相当の技術と熟練が必要になるため、たとえひとつの楽器において卓越した技量をもちえたとしても、おいそれとは展開できない分野であることは想像に難くないだろう。

両手両足に口までも動員

ところが、その高いハードルをいともたやすく越えてしまう演奏者がいるのだ。この鈴木よしひさは数少ないポリパフォーマーのひとりなのである。

彼は基本的にはギタリストとして活動しているのだが、ポリパフォーマンスと題してステージに上がるときにはギターと足鍵盤とヴォイス・パーカッションを同時演奏する。ヴォイス・パーカッションとは、両手両足でそれぞれまったく違う動きを要求されるドラムのパフォーマンスを口腔のみの発音でシミュレーションするという器用さが求められる演技である。足鍵盤はキーボード(電子ピアノ)演奏者にはおなじみかもしれないが、ドラム以上に“足数”が必要とされる楽器である。両手でギター、口でヴォイス・パーカッション、足では鍵盤と、楽器と呼べるものを演奏できる身体の部位をフル稼働しなければできないのが、鈴木よしひさが具現しているポリパフォーマンスなのだ。

ボクはある取材で2年ほど前に彼に会った際、「興味があれば」と渡されたポリパフォーマンスを収めたDVDを見て驚愕し、ライヴ会場へ足を運んでそれが現実のものであることを確かめたい衝動に駆られた。そして実際に観たポリパフォーマンスはといえば、“動画”というメディアに収められるようなスケールの小さいものではなかったということだけはお伝えしておきたい。

では、行ってきます!

●公演概要

10月31日(金) 開場 19:00/開演 20:00

会場:LIVE CAFE STORMY MONDAY YOKOHAMA(横浜・関内)

出演:鈴木よしひさ(ヴォイス、ギター、キーボード、足鍵盤)

♪【発売前告知】『Poly-Performance/鈴木よしひさ』(CD+DVD)2014年9月25日発売決定!

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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