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【JND】『軌跡〜ドキュメンタリーの音楽〜』は縁の下の力持ちを白日のもとに晒す珠玉の短編集である

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
『軌跡〜ドキュメンタリーの音楽〜』
『軌跡〜ドキュメンタリーの音楽〜』

話題のアルバムを取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJND(Jazz Navi Disk編)。今回は『軌跡〜ドキュメンタリーの音楽〜』。

テレビ番組に提供された音楽をまとめたオムニバス・アルバム。内容は、東海テレビのドキュメンタリー番組のために制作された楽曲で、本多俊之、村井秀清、鈴木よしひさ、夏目一朗というジャズ・シーンでは知られた制作者名が並んでいる。ローカル局の、しかもドラマやバラエティではなくドキュメンタリー番組にこうした作品が提供されることは極めて珍しく、それがこうしてまとまったかたちで手元に残ることも稀と言える。

主従関係のバイアスを薄めるドキュメンタリー

映画やテレビ番組に使用された音楽をまとめたものは“サウンドトラック”としてリリースされる。しかし、ひとりの担当者によって制作されたにもかかわらず、音楽作品としての印象は散漫であることが多い。おそらく、映像と音楽の主従関係がその制作過程でバイアスとなっていることが原因のひとつなのだろう。

一方でこの『軌跡』というアルバムに収録された楽曲たちにそのバイアスをあまり感じないのは、ドキュメンタリー番組は音楽による演出を嫌う傾向にあるため、それが独立性を高める結果を招いているからなのではないだろうか。

映像に頼らない独立したメロディを求めて

本多俊之に作曲についての話を聞く機会があったとき、「まず、なんの制約もないところでメロディを考える。編成やメンバーなどの雑音を排してからじゃないと、何度も演奏することに堪えられるメロディは絶対に生まれないからね」と言っていたのが印象的だった。つまり、それが自分のバンドのための曲だろうと映像のための曲だろうと、外的要因に影響されている状態では“自分の音楽にならない”ということだ。

こうした“意識”に導かれた曲が、このアルバムには詰め込まれている。これらの曲が埋もれずに新たなかたちで世に出たことに感謝したい。

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♪映画『神宮希林 わたしの神様』予告編

2013年に放送された番組をもとに映画化された「神宮希林」の劇場版トレーラー。『軌跡〜ドキュメンタリーの音楽〜』には、番組と映画の音楽を担当した村井秀清作の2曲が収録されている。

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音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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