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「反グローバリズム」でも「反トランプ」ハンブルクG20抗議行動をどう読み解く?

富永京子立命館大学産業社会学部准教授
(写真:ロイター/アフロ)

7月7日から8日まで、ドイツ・ハンブルクで主要20カ国地域首脳会議(G20サミット)が開催されています。それに伴い、今週前半よりG20の開催そのものやグローバルな政治・経済、さらに経済的保護主義・排外主義を強めるトランプ政権に対して、同市内で抗議を行う大規模なデモやパフォーマンス行動があり、機動隊との大規模な衝突が続きました。抗議行動参加者は、警察発表では7,500名、主催者発表では18,000名と言われています(Democracy Now! ウェブサイトより)。

G7(旧「G8」), G20などの国際的閣僚会議に対する抗議行動は、30年以上前から欧州を中心に数多く見られます。日本でも、過去には2000年の九州・沖縄G8サミットや、2008年の北海道G8サミットに対する抗議行動が見られました。こうした抗議行動は、G7やG20に属する限られた国々が世界的な経済や政治の方針を決めることへの危惧を唱えています。決議内容はあくまで「提言」であるため法的な拘束力はありませんが、IMF(国際通貨基金)や世界銀行などを通じて実質的な影響力を行使する可能性が高いことから「反グローバリズム運動」による抗議の対象となっているのです。

しかし、近年の国際会議に対する抗議行動を捉える際に難しくなってくるのが、トランプ政権の存在です。トランプ政権は経済的な保護主義と排外主義を主張してきた、ある意味ではまっとうな「反グローバリズム」政権です。そうした政権に対して「反グローバリズム」の立場から抗議を唱えることに対する戸惑いや動揺も見られます。たとえば朝日新聞では、「怒るべきものが複雑で、よく分からない。本当に分からない」(朝日新聞2017.7.6 「反トランプ」「一部の金持ちが得する」 G20でデモ)というデモ参加者の率直な悩みが取り上げられていましたが、こうした混乱は多くの人が共有するものでもあるでしょう。

じつはトランプ政権の台頭によって生じたこのような混乱は、過去に日本で行われてきた国際的閣僚会議の抗議行動において見られたものでもありました。たとえば、2008年北海道G8サミットに対する抗議行動には、グローバル化する政治・経済や発展途上国の搾取に反対するNGO(非政府組織)や市民団体だけでなく、日本会議や一水会といった右派団体も参加していました(『焦点』277号、『治安フォーラム』2008年11号)。そうした点では、「反グローバリズム」というフレームは思想や理念にかかわらず共有されるものでもあり、その性格がトランプ政権によって顕在化されたとも言えるでしょう。

反グローバリズム運動は、「人権」や「環境」、「途上国開発」といった様々な課題を抱え込む「アンブレラ・ムーブメント」として発展してきました。数多くの課題が反グローバリズムという軸で収斂するからこそ強い影響力や動員力を保ってきたのです。しかし、一方で、一つの運動に多様な問題系が存在することは、従事者の間に上述したような「戸惑い」を引き起こしているとも言えます。右派的・保守的な政権が台頭するにつれ、反グローバリズム運動も変容と課題の精緻化が迫られているのかもしれません。

※本記事は、富永京子『社会運動のサブカルチャー化――G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房, 2016年)の内容に一部基づき、再編集したものです。

立命館大学産業社会学部准教授

1986年生まれ。社会運動論、国際社会学。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房、2016年)、『社会運動と若者』(ナカニシヤ出版、2017年)、共著として『サミット・プロテスト』(新泉社)、『奇妙なナショナリズムの時代』(岩波書店)。社会運動を中心とした政治参加が、個人の生活とどのように関連しているかを中心に研究している。

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