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大ヒットを生み出し続けるI-ne 大西社長から学ぶ、アイデアを育てる仕組みとは?

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:アジェンダノート I-ne 代表取締役社長 大西洋平氏)

I-neは、大西氏が大学卒業間近の2005年に個人事業主として事業を立ち上げた若い企業です。2015年に生み出したBOTANISTの大ヒットで急成長を遂げたことを知っている人も多いでしょう。

そんな「I-ne流アイデアの育て方」をI-ne 代表取締役社長の大西洋平氏に日本アイ・ビー・エム 執行役員の風口悦子氏を質問するセッションを、マーケティングアジェンダというイベントでお聞きしましたので、ご紹介したいと思います。

I-neの連結売上高のグラフを見ると、2015年以降も着実に成長をしていることが分かります。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

ただし、BOTANISTの大ヒット後、売上が横ばいになった数年間は非常に苦労した期間だったそうです。

参考:営業利益115.3%増、「BOTANIST」を軸に業績を伸ばすビューティーテックカンパニーI-neはどのように成長したのか

BOTANISTの大成功を経て、数十名だった組織が2年で300人の組織に急成長します。ただ、数十名だったときのままのノリで、年間十数ブランドを乱発するものの、そのほとんどが失敗。

当時入社した社員のうち、約50%が3年で退職となり、経営メンバーで徹底的に反省します。

I-neの理念に立ち返り、自分たちの成功理由の言語化や文化の醸成に注力し、YOLUなどの新しいヒット商品を生み出し続ける会社をつくり上げたそうです。

そのときの詳細は、大西社長自身のnoteにもまとめられています。

参考:社員が一気に300名を超えたら組織が崩壊した話

アイデアをもとに成功につなげる仕組み

今回のマーケティングアジェンダで大西社長が共有してくれたのは、そんなどん底を乗り越えるために言語化された「I-neのアイデアを育て、成功につなげる仕組み」です。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

この図にあるようにI-neがヒットを量産できるポイントは3つです。

■ブランド創出力

■OMO

■IPTOS

特に印象的だったのは、ブランド創出のコンセプト設計の段階で、1万個の「アイデア」から数案に絞り込むときに、「サイエンス」の視点でユーザー調査を行うだけでなく、最終的にはI-neの文化に基づく「アート」の視点で意思決定を行うということを強調されていた点です。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

たとえば、新しいシャンプーの開発に向けて実施したユーザー調査で購入意向が高かったのは「シルキーシャンプー」というコンセプトの商品でした。

しかし、I-neらしさや話題性などの観点から2位の「夜間美容シャンプー」というコンセプトを採用したそうです。その選択の結果が、現在のYOLUの大ヒットにつながるわけです。

定量の結果だけを基に商品開発すると、失敗はしにくいかもしれません。

しかし、他社も同様の商品に辿り着きやすく、真似もしやすい商品になりがちです。

大きな失敗を経験した大西社長だからこそ「失敗しない商品は、大ヒットもしない商品」という言葉は非常に印象的でした。

(出典:アジェンダノート 左から 風口氏 大西氏)
(出典:アジェンダノート 左から 風口氏 大西氏)

さらに、I-neがアイデアをヒットにつなげる上で印象的なのが、「IPTOS」という独自のマーケティングフローです。

ヒットを再現できるブランドマネジメントシステムで、「Idea(アイデア)→Plan(企画)→Test(検証・需要予測)→Online/Offline(テスト販売)→Scale(ECスケール・小売り拡大)」を指します。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

プランの段階でPOSの売上予測を実施し、実際に最少ロットで商品をつくってテスト販売します。

その後、テスト販売の結果を基にスケールに向けたサイクルを高速でまわすことで、需要予測の精度をなんと92.8%という高さまで向上させるのです。そしてテスト段階で売れることがわかったら、広告投資を増やしていくという判断を柔軟に行います。

この仕組みによって、ヘアケア系カテゴリーの新ブランドのヒット率75%という圧倒的な再現性を実現しました。

アイデアを小さく試して、素早くPDCAを回していくことが大事というのは、2日目のキーノートに登壇したスシローの水留社長の姿勢にもつながるといえます。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

また、プロモーションにおいても、大西社長はOMO(Online Merges with Offline)というキーワードを元にオンラインとオフラインの両方の重要性を強調されていましたが、やはりI-neの特徴はオンライン施策にあるでしょう。

たとえばYOLUにおいては、プロモーションに若者から人気のあるTikTokerを起用し、若者を店頭に誘導するキャンペーンを展開することで、オフラインの配荷率を90%まで伸ばしています。オンラインの影響力をオフラインの配荷率につなげる取り組みをしているのです。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

さらにI-neには「BUZZの科学」と呼ばれる、バズを起こすための社内ノウハウを蓄積しています。

驚きのあるよい商品をつくり、オンライン上にレビューがある程度存在する状態をつくるなど、バズが起きるための複数の条件を満たすように施策を展開しています。

実はYOLUの売上も、1件のユーザーのツイートがバズったことによって急上昇したそうです。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

一つひとつの施策ではなく、複合的に施策に取り組むことの重要さを強調されていたのが印象的でした。

マーケターが学ぶべきアイデアをヒットにつなげる仕組み

私たちが大西社長やI-neから学ぶべきは、アイデアをヒット商品に育てるプロセスは仕組み化できるという点でしょう。

大ヒット商品の成功事例を一つひとつ聞くと、そのヒット商品を考えた人の能力や、その時代にあった運などの要素が強いと考えてしまいがちです。

しかし、アイデアを育て検証する仕組みをつくることで、必ずしも社内に天才的なアイデアマンがいなくてもヒット商品を生み出すことはできるはずだと思います。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

ぜひ、多くの日本のマーケターに、大西社長とI-neの仕組みから学んで欲しいと思います。

(※この記事は、2023年6月22日付アジェンダノート寄稿記事を加筆・修正のうえ転載しています。)

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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