Yahoo!ニュース

参入相次ぐスポーツNFTは、コロナに苦しむ日本のスポーツ産業の救世主になるか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
DAZNはJリーグの盛り上がりに貢献してきました。(写真は2018年会見より)(写真:つのだよしお/アフロ)

北京オリンピック開幕が注目される中、今後のスポーツ業界に大きな影響を与えそうなニュースが飛び込んできました。

スポーツ動画配信サービスのDAZNと、ミクシィがNFTマーケットプレース「DAZN MOMENTS」を今年の春に開設するというのです。

参考:DAZNとミクシィが共同でNFT事業スタート 試合映像や名場面を販売

こうしたスポーツにおけるNFT活用は、実は日本のスポーツ産業にとっても非常に重要な選択肢と考えられています。

NFTに詳しくない方も多いと思いますので、少し細かくご紹介しましょう。

NBAがスポーツNFTで成功

NFTとは、仮想通貨やメタバースが注目されるのと並行して注目されている新しい技術。

「Non-Fungible Token」という難しい単語になりますが、シンプルにいうとデジタル上のコンテンツに希少価値を持たせることができる技術のことです。

ここ1年ぐらいは、NFTアートが数億円で落札されたというようなニュースばかりが話題になっていたので、仮想通貨バブルと同じ匂いを感じている方も多いかと思いますが、実は現時点で最も相性が良いと思われるのがスポーツとNFTの組み合わせです。

スポーツNFTの先駆者である米国バスケットボールリーグのNBAは2020年10月の段階で「NBA Top Shot」というスポーツNFTを開始。登録ユーザーは昨年の段階で110万人をこえ、累積取引総額は7億8000万ドル以上という発表もあるほどです。

その成功が影響し、昨年にはNFLも「NBA Top Shot」を提供するダッパーラボと提携したほど。

参考:ダッパーラボが米NFLと提携──「NBA Top Shot」のアメフト版開発

一方で、昨年のNFTバブルの影響で価値が高騰しすぎた面もあり、ピークからは95%以上下落しているといいますから、全てが順風満帆というわけではない面もあります。

ただ、興味深いのはNBAファンの一部には、スポーツNFTが確実に定着しはじめている面がある点です。

ファン自慢のための「カード」

日本からスポーツNFTの話だけを聞いていると、どうしてもNFTアートを中心とした価格高騰のバブルの印象が強いかもしれませんが、実際に「NBA Top Shot」を覗いてみると、そこには確実に喜喜として自分が好きなプレイヤーのカードを収集するファンの姿があります。

こちらの動画を自慢し合うファンの広告動画が象徴的でしょう。

スポーツNFTといわれるとイメージが湧かない方も、プロ野球カードやポケモンカードのデジタル版といわれれば、少しはスポーツNFTの盛り上がりをイメージできるかもしれません。

NBA Top Shotの場合は単なる写真やイラストのカードではなく、選手のダンクや3ポイントなど印象的なプレイシーンの動画をコレクションできる仕組みになっており、自分の収集した動画を友達に見せびらかすこともできるのもポイント。

デジタルに慣れた世代にとっては、ある意味、紙のカードのコレクションより大勢に自慢できてメリットがあるかもしれない構造になっているわけです。

日本でも複数の企業が参入

そんなスポーツNFTですが、日本でもさまざまな企業が既に参入を表明しています。最も有名なのは、パ・リーグとメルカリが共同運営で開始した「パ・リーグ Exciting Moments β」でしょう。

まだ、購入したNFTの売買をするマーケット機能は実装されていませんが、既に楽天の田中投手をはじめ、さまざまな選手の動画を購入できる仕組みが構築されています。

参考:メルカリとパ・リーグがNFT事業 名場面動画を数量限定販売

また、トークンプラットフォーム「フィナンシェ」上でも、アビスパ福岡や琉球アスティーダなど複数のチームがNFT販売に挑戦中ですし、1月には浦和レッドダイヤモンズがNFTコンテンツの販売をミンカブとともに実施することも話題になりました。

参考:Jリーグ「浦和レッズ」がNFT──ミンカブがシステム基盤を提供

そして、今回DAZNとミクシィによる共同でのNFT事業「DAZN MOMENTS」が発表されたわけです。

期待されるJリーグのスポーツNFT

最近DAZNは、大幅値上げで物議を醸したばかりではあります。

ただ、その大幅値上げが断行できるぐらい日本でも存在感を増しているサービスとも言えるでしょう。

参考:DAZN値上げ騒動で考える、サブスク型動画配信サービスの強みと弱み

なにしろDAZNは、Jリーグの独占配信権を持っていますから、おそらくJリーグのNFTがこの「DAZN MOMENTS」上に展開されることが期待されます。

浦和など、既にNFT参入を発表しているチームとの棲み分けがどうなるのかも注目点ですが、普通に考えれば日本のスポーツNFTの本命の1つと言えるでしょう。

また、メルカリにしてもミクシィにしても、当面は「NBA Top Shot」を運営する米ダッパーラボの「Flow」を採用すると報道されています。

日本にも、「NBA Top Shot」と同じようなサービスが提供されることが想定されるわけです。

選手やチームにとっての新たな収益源になるか

もちろん、現在のNFTは、世界的にギャンブル的な要素が強くなっている印象があり、日本において健全に根付くかはまだ分かりません。

ただこれからの日本のスポーツNFTに期待されるのは、スポーツNFTによる収益がチームや選手にも還元されるなど、スポーツ産業にとっての新たな収益源になる可能性が見えている点です。

現在収まることのないコロナ禍が、スポーツ産業の観客動員数に大きな影響を与えています。

これによりスポーツ業界全体がネガティブな影響を受けており、当然チームや選手にもその影響が拡がっているのです。

昨年5月の段階で、34クラブが赤字で債務超過が10クラブという数値だけでも、その深刻さが伝わってくると言えるでしょう。

参考:Jリーグが20年度クラブ経営情報公表、34クラブ赤字、債務超過は10クラブ

一方で、コロナ感染拡大後も変わらず、スポーツ選手の活躍に勇気をもらっている人たちは少なくないはずです。

スポーツNFTが投機的な目的ではなく、ファンから選手やチームへの直接的な応援の選択肢として定着することができれば、苦しむスポーツ産業にとっての救世主になる可能性があるわけです。

その中でも、このDAZNとミクシィが開始する「DAZN MOMENTS」は、重要な役割を担うことになりそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

徳力基彦の最近の記事