京都市ステマ騒動で考える、芸能界と一般人の常識の乖離

観光客が順調に増えている京都市がわざわざステマに手を出す必要あるのでしょうか?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

吉本興業の人気漫才コンビ「ミキ」によるツイッターへの投稿が、京都市からお金が支払われたステマツイートだったのではないかと京都新聞にすっぱ抜かれ、大きな騒動になっています。

吉本漫才コンビ、ツイートは「ステマの疑い」 京都市の広告と明示なし、識者「アンフェア」

今回の騒動で興味深いのは、各メディアが該当の投稿をステマでは無いかと報じている一方で、関係者である京都市と吉本興業は、頑としてステマであることを認めていないという点です。

参考:吉本興業「ミキ」が1ツイート25万円でPR表記なしの宣伝ツイート 依頼した京都市は「誤認させる投稿ではない」とステマ認めず

その関係か、通常であれば炎上騒動になるとすぐに削除されがちな該当の投稿は、投稿されたまま今も確認することが可能で、批判コメントが徐々につき始めている状況です。

■ステマとはなんなのか

そもそもステマとは、ステルスマーケティングの略で、消費者にマーケティングや宣伝と分からないように、こっそりと宣伝行為をすることを言います。

こうしたクチコミを装った宣伝行為により消費者が騙されることをさけるため、金銭を支払った広告投稿については、#提供や#協賛、#PRなどの広告行為で分かるような表記を行うように、JIAAというインターネット広告の業界団体やWOMJというクチコミマーケティングの業界団体によるガイドラインが定められているのですが、今回の投稿にはそれらは明記されていません。

参考:ネイティブ広告に関する活動

参考:WOMJガイドライン

私自身、このWOMJの立上げに携わった人間であり、ながらくアンチステマ側の立場の人間ですので、厳しめのバイアスはかかっていますが。

業界の定義で考えれば、この投稿は明らかに「ステマ」です。

それにもかかわらず、なぜ京都市も吉本興業も、ステマであることを認めず、謝罪もしなければ該当のツイートの削除もしようとしないのでしょうか。

関係者の発言を紐解くと、京都市と吉本興業のような芸能界と、我々一般人の常識の乖離が見えてきます。

まず、今回の騒動の経緯を時系列で見てみましょう。

※10月30日追記:一部時系列が間違っていたので西暦を追記して修正しました。

■2018年頃?  京都市とよしもとクリエイティブエージェンシーの間で「京都市盛り上げ隊」広報活動の契約が締結された模様。

■2018年8月28日  「京都市盛り上げ隊」が京都市長を表敬訪問

参考:古都をさらに活気づける「京都市盛り上げ隊」が京都市長を表敬訪問!

■2018年10月6日  ミキの二人が、京都国際映画祭のコラボポスターを投稿

参考:

ミキ 昴生 兄さんのツイート

ミキ 亜生 弟さんのツイート

 

■2018年10月10日  ミキの二人が、ふるさと納税についてリンク付きで投稿

参考:

ミキ 昴生 兄さんのツイート

ミキ 亜生 弟さんのツイート

■2019年4月17日  よしもとクリエイティブエージェンシーから京都市に計420万円の請求書が発行される。

【内訳】

 ・京都市盛り上げ隊 広報活動 出演費 200万円

 ・京都市盛り上げ隊 SNS発信 50万円×2件 100万円

 ・京都市交通局コラボポスター 120万円

(出典:京都新聞掲載の請求書画像より) 

■2019年10月28日  京都新聞の追及記事が公開。ヤフトピにも掲載され大きな話題に。

参考:漫才コンビのツイート1回に50万円 京都市が吉本とPR契約 識者「驚く額、誤解与える手法」

 一連の流れを振り返ると、今回の騒動において、京都市及び吉本興業側と、我々一般ユーザー側の視点で大きく常識が乖離していると思われる3つのポイントが見えてきます。

■誤認させなければステマでないと思っている

■企画であって広告や宣伝ではないと思っている

■芸能人は特別扱いだと思っている

1つずつ見ていきましょう。

■誤認させなければステマでないと思っている

まず京都市の担当者のメディア各社の取材へのコメントを見ていると、京都市の担当者の認識が非常に甘いことが分かります。

象徴的なのはJ-CASTニュースに対する「ステルスマーケティングが一番問題とされるのは、誤認させることだと思うので、そこで無いものをあると誤認させたり、品質をねじまげたりするものではなかった」という発言。

参考:京都市、吉本芸人4組に「有償ツイート」依頼 広告と明示せず物議、「より透明性を高めていく」

おそらくここで言う「誤認」とは景品表示法の優良誤認のことだと思われます。

優良誤認は実際、景品表示法第5条1項に規定されている違反事項の1つで、ここを破ったら明確に不当表示。

もちろん論外でアウトです。

ただ、ステマというのは前述したように、広告であることを隠した宣伝行為全般が含まれます。

なぜステマが問題なのかというと、消費者に宣伝や広告であることを隠すことによって、消費者を騙しているからです。

優良誤認のレベルかどうかは関係ありません。

優良誤認させなくても、ステマはステマなのです。

前述のミキのふるさと納税の投稿にしても、二人が郷土愛からふるさと納税を応援していると思うか、広告費をもらった宣伝仕事として投稿したかで、消費者の受ける印象は全く異なります

 

これが宣伝投稿であることを分かった上でふるさと納税に誘導された分には問題ないと思いますが、二人の地元思いからの投稿だと思って影響されてふるさと納税に寄付した方がもしいたとしたら、この投稿で二人が広告費を受け取っていたことを知って良い気持ちはしないはず。

仮に、我々がもし同じ事を友人にされたと想像したら、誰もが嫌な気持ちになるはずです。

だからこそ、金銭提供がされた上での宣伝投稿には、金銭が提供されているという関係性を明示する必要性が生じるわけです。

ひょっとしたら京都市側は「違法でないから問題ない」と開き直るつもりなのかもしれませんが、もはや現在の時代において、「法的には違法では無いけれど社会倫理的には著しく不適切」という行為は許容されていません。

参考:PCデポ騒動で考える、法律よりも厳しい社会の目

ましてや、京都市が税金を使ってステマを積極的に実施しているという状況を放置していて良いのか、というのははなはだ疑問です。

また、そもそも京都市は観光客が増えすぎて困っている面もあるはずで、わざわざステマと指摘される施策を実施する意義も不明です。

この疑問は、広告主としての京都市だけでなく、施策を提案した代理店としての吉本興業側にも同様にのしかかります。

 

2017年に吉本興業がインフルエンサーマーケティング事業に参入する際、「もちろんステマ対策はしっかりやっていきます。企業名、商品名は必ず入れるなど、広告表記は徹底」と明言されていますから、こんな基本的な話を吉本興業側が知らなかったとは、にわかには信じられないのが正直なところです。

参考:吉本興業がインフルエンサーマーケティング事業を開始「本気でSNS市場をとりにいく」

■企画であって広告や宣伝ではないと思っている

さらに京都市側の発言としては、今回の投稿は『#京都市盛り上げ隊』であることを示しているから問題ないという発言が出てきます。

参考:京都市が吉本芸人のSNS投稿に金を支払う契約 ミキが2本投稿

前述の請求書の内容や、時系列から想像するに、8月28日の市長の表敬訪問が、「京都市盛り上げ隊 広報活動 出演費 200万円」であり。

ミキの二人の4件のツイートが、「京都市盛り上げ隊 SNS発信 50万円×2件=100万円」ということでしょう。

実際、8月の表敬訪問には、今くるよ、清水圭、ネイビーズアフロ、タナからイケダ、モンブランと、大勢の芸人が参加。

日刊スポーツなど、メディア露出を獲得しているようですから、良くある芸能人の出演費案件といえます。

(出典:よしもとニュースセンターウェブサイト)
(出典:よしもとニュースセンターウェブサイト)

 

参考:清水圭ら「京都市盛り上げ隊」が京都市長を表敬訪問

 

おそらく京都市と吉本興業側の論理としては、ミキのツイートは「京都市盛り上げ隊」の活動の延長としてのツイートなので、それを明示しているし問題ないということなのでしょう。

現在、業界でもグレーゾーンとして良く議論の俎上に載る手法として、あくまで芸能人には出演費やお車代として謝礼を支払っているだけであって、SNS投稿の謝礼ではないという立て付けで実施されるインフルエンサー投稿があるそうです。

参考:「インスタグラマー」をやめたまつゆう*が案じる、ステマ問題とインフルエンサーの行く末

これはこれで、お車代で50万円とか支払われていたら、一般人からすると明らかにお車代ではないですし、それによりツイッターやインスタグラムへの投稿が義務化されていたら、明確にステマだと感じるわけですが。

少なくとも建前上では、もらってるお金は出演費やお車代であって、投稿費ではないからステマ投稿ではないという言い訳が成立するわけです。

今回も、両者の視点からすると、上述のお車代ステマに近い感覚で、ミキの二人のツイートは8月の施策の出演料の延長だから、宣伝ツイートは広告としての投稿ではなく、出演している企画の延長であって#提供や#PRなどの広告表記や金銭提供の明示は不要なのである、という論理なのかもしれません。

ただ、この言い訳は、今回の請求書に明確に「SNS投稿」が別立てで100万円の対価であることが明記されているため、通用しません。

もし出演費に二人の投稿費も混ぜたどんぶり勘定の請求書にしていれば、言い逃れは可能だったとも言えますが、ある意味官公庁ならではの細かさが仇になったとも言えるでしょう。

なお、関連して、実は2017年度にも伝統産業の日のプロモーションで、木村祐一さん、ナダルさん(コロコロチキチキペッパーズ)、タナからイケダ、ミキの計4組にも、宣伝投稿をしてもらったことが、J-CASTの取材で明らかになっています

こちらに関しても、投稿の対価として費用を支払っているにもかかわらず、「PRというタグをつけるのがより分かりやすいというのはありましたが、伝統産業の日のハッシュタグをつけていました」と、PRタグについて認識しているにもかかわらず、あえて企画のハッシュタグだけにしたことを明言しています。

この時の請求項目が何になっているかは分かりませんが、一般人がこれだけ聞くと、ステマの常習犯と感じてしまう方は多いのでは無いかと思います。

ただ、2018年3月の投稿を見ると、実は「PRをさせてもらうことになりました」及び「#京都国際映画祭 連携企画」と、投稿内に明記されており、一般人が見てもこの投稿が何らかのPR企画による投稿であると明確になっています。

おそらく2017年度の投稿の際にはPR表記のリスクについて議論してこの形になったと思われます。

今年は、この年の投稿とちょっと違う投稿にするために、広告表記を外してしまったのかもしれません。

本来は今年も同じような表記で投稿すれば、ここまでステマ指摘はされずに済んだわけです。

ステマを行う広告主や代理店のマインドセットで良くあるのは「PRとつけると広告であることが分かってしまって面白くなくなる」というものです。

ネタにマジレスするなよ、みたいな感じでしょうか。

一見、正義感からの言い訳のように聞こえるかもしれませんが、要は「広告であることがバレたら嫌だから隠したい」と言ってるのと同様なわけで、消費者からすると堂々とウソをつきたいと告白してしまっているようにしか聞こえないはずです。

本来は、企画だろうが広告だろうが、金銭提供をして投稿をさせている時点で、自然な投稿ではないことは明白。

吉本興業所属の芸人さんの投稿なわけですから、M-1で流しているテレビCM同様に、広告投稿なら広告投稿として、広告でも面白いでしょ、と胸を張って投稿して頂きたいところです。

■芸能人は特別扱いだと思っている

こちらは前述の企画と広告の内容にもつながりますが、やはり一連の騒動において空気感として感じてしまうのは、一般人のクチコミマーケティングのルールと芸能人は違うのだという業界関係者の認識です。

その誤解を最小化するために、前述のWOMJガイドラインには「知名度や影響力の大小にかかわらず(著名人・芸能人であっても)、個人のアカウントでの情報発信の場合は『情報発信者(情報を発信する消費者)』とみなします」と明記されているのですが。

やはり、今回の騒動に見られるように、芸能人を特別扱いして考える傾向は残ってしまっているようです。

特に10年ぐらい前に良く聞かれた言い訳が「芸能人は企業からスポンサー費用をもらって仕事をしているのが明白だから関係性の明示は必要ない」というものです。

実際、例えばマイケルジョーダンとナイキ、タイガーウッズとロレックスの関係のように、情報発信者とスポンサーの関係が自明の場合は、いちいち関係性の明示は不要というケースはあるでしょう。

そういう意味で前述のWOMJガイドラインにも「情報発信者とマーケティング主体の関わりが、WOMマーケティングのターゲット層に十分に認知されている場合に限り、関係性明示を省略することを許容します」と例外規定を記載しています。

参考:タイガー・ウッズが選ぶ時計は?/セレブウォッチ・ハンティング

ただ、これは今回の京都市盛り上げ隊のような単発の契約では当然、十分に認知されているとは言えませんし。

仮に京都市と吉本興業側が認知されていると判断した場合でも、炎上のリスクを抱えるのはステマと指摘される可能性がある広告主と、ステマ投稿をしたと非難される投稿者本人になるわけです。

実際問題、芸能人によるステマ投稿が一般人以上に大きく批判されるのは、ペニーオークション詐欺の時に明白になっています。

参考:明暗くっきり!「ペニオク詐欺」に関わった女性芸能人のその後…

そういう意味で、その両者をつなぐ存在としての吉本興業には、広告主と芸人の両者を今回のように批判の矢面に立たせないために、できるだけ慎重な振る舞いが必要になるはずです。

芸能人はたしかに特別かもしれませんが、ツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディア上では、芸能人も一般人もフラットにサービスを使っている1ユーザーです

一般人がやったら批判されることも芸能人であれば許容される、という特別扱いの余地はどんどん少なくなってきている時代なのです。

■芸能人だからこそ高い倫理基準を

現時点では、上記のような3つの大きな乖離が存在するのは事実ですが。

逆に言うと、個人的には、本来芸能人の投稿は影響力が大きいからこそ、より高い倫理基準で運用されるべきではないかと考えています。

例えば、ユーチューバーのマネジメント会社として有名なUUUMでは、2015年の段階でタイアップ動画に「提供」や「タイアップ」を「文字の縦幅は最低でも画面の8分の1以上」で「3秒以上表示する」など業界基準よりも細かくルールを定め、視聴者の視点からステマにならないための工夫をされています。

参考:HIKAKINらユーチューバー所属事務所 タイアップ時の「提供」表示義務付け ステマ防止で

芸能人によるステマ投稿は、日本ではまだ法律による厳罰化はされていませんが、米国ではFTCのガイドラインにより厳罰化がされており、カーダシアン姉妹は4万ドルの罰金を支払う羽目になりました。

参考:横行する倫理なき「インフルエンサーマーケティング」──ある音楽フェスの炎上にセレブたちの“罪”を見た

前述のWOMJガイドラインは、業界団体としての自主的なガイドラインであり、加盟していない企業にとっては1つの指針でしかないのは事実です。

ただ、だからこそ吉本興業のような日本を代表する芸能プロダクションは、業界のガイドラインよりも厳しい基準で運用をすることが求められるのではないかと思います。

今回の一連の取材記事の発言で最も残念なのは、日本の芸能界のインフルエンサーマーケティングをリードするはずの吉本興業側が、「市の事業なので判断する立場にない」と他人事のような発言に終始している点です。

本来、吉本興業がインフルエンサーマーケティングを手掛けるのであれば、広告主よりも高い倫理感で、広告主がステマに関して間違った認識の投稿を依頼してきたら、その間違いによるリスクを指摘したり、所属芸人の炎上リスクを回避するために危険なステマ案件を拒否するぐらいの対応をすべきだと思います。

今回、京都市のステマ騒動で、吉本興業所属の芸人によるSNS投稿には、平然とステマが混じっているのではないかという疑惑の種が蒔かれることになりました。

このステマ疑惑については、京都新聞が京都市側に情報開示請求をしたことで発覚したようですが、当然他の自治体にも同じようなケースがあるのではないかとメディアが確認してまわることになるでしょう。

先日話題になっていた血液クレンジングでも、吉本興業所属の藤崎マーケットの田崎さんの投稿がインスタグラムに人気投稿として並んでいますが、はたしてこの投稿も京都市と同じく金銭提供があったのではないかという疑惑も、より深まってしまうことになります。

参考:血液クレンジング炎上騒動で考えるネットとメディアの話題のスパイラル

1つのステマ投稿が、吉本興業所属の芸人はもちろん、芸能人の投稿全てに対するステマ疑惑を深めてしまう結果につながってしまっているのです。

雨上がり決死隊の宮迫さんの闇営業問題は、彼自身の責任と言える問題だったかもしれませんが。

今回の京都市のステマ騒動は、あきらかに、投稿をしたミキの二人だけの問題ではありません。

二人に京都市の案件をもってきて、投稿方法を指示したであろう吉本興業側の責任が最も大きいと言えますし。

M-1グランプリでファイナルラウンドに進出するほどの才能に満ちた二人に、今回のステマ騒動で傷をつけてしまうとしたら、芸人を守り育てていくべき芸能プロダクションのあるべき姿として本末転倒ではないでしょうか。

もし、これまでの吉本興業におけるインフルエンサー投稿のルールが、一般的なステマ防止のガイドラインのものとは乖離しているのであれば、是非今回の騒動をきっかけに乖離の理由を確認して反省していただきたいですし。

6000人もの芸人を抱え、日本を代表する芸能プロダクションにふさわしい、厳しいステマ禁止の自己ルールを作って頂きたいと、心の底から祈る次第です。