AbemaTVの亀田企画1420万視聴は、スゴイのかスゴクナイのか

亀田興毅選手は昔から視聴率を持ってる選手だった:2012年WBAバンタム級世界戦(写真:アフロスポーツ)

 ゴールデンウィークの最終日5月7日にAbemaTVで放送された『亀田興毅に勝ったら1000万円』企画が、色んな意味でネット業界でも話題になっています。

 なにしろプレスリリースによると5時間生放送された同番組の視聴数は1420万。

 過去のAbemaTVの最高記録は360万だったそうですから、軽く4倍近くの数値をたたき出したことになります。 

参考:インターネットテレビ局「AbemaTV」が4月の人気番組ランキングを発表 

 並行して配信されていたYouTube Liveでは同時接続70万超えしていたそうで、それがいかに凄いことかを解説するブログ記事もちょっとした話題になってました。

参考:亀田興毅のYTL同時接続70万視聴がどれだけやばいか説明する。

 

 ただ、一方で1420万や70万という、それぞれの数値に対する認識の混乱や、世界と日本のライブ中継の実情の違いで、今回の亀田企画に対する評価は、上記の記事のようにとてもスゴイと評価する人と、スゴクナイと評価する人が、かなり分かれているようです。

 個人的にも、昨年下記のような記事を書いたこともあり、今回の企画の評価が気になるところなので、一通り調べてみた内容をまとめておきたいと思います。

参考:テレビとネットの境界線がAbemaTVにより消えて無くなる日

 

 まず、冷静に今回の亀田企画の数値を見てみると、「スゴクナイ」派の人達が言うように冷静になった方が良いポイント、過大評価されてるポイントがいくつかあることが見えてきます。

 ポイントは下記の3点

■1420万視聴はテレビの視聴率の10%と同じではない

■同時接続70万は世界的にはそれほど多いわけではない

■視聴数がはねたのはAbemaTVアプリだからとは言いきれないのではないか

 順番に説明します。

■1420万視聴はテレビの視聴率の10%と同じではない

 まず明らかに一番多い誤解がこれ。

 ネット動画系のサービスのほとんどが使っている「視聴数」は、テレビの視聴率のようなその瞬間瞬間の「同時視聴数」ではなく、ウェブサイトのページビューに近い「累計のアクセス数」です。

 一部のメディアでネット番組の視聴数を「人」で書いてるものが散見されますが、この1420万視聴は1420万「人」が見たと言うことでは無く、1420万「回」番組にアクセスがあったということのはずです。

 また、この番組は6月7日までまだ視聴可能でして、月曜日の段階で1300万視聴といっていたのが、昨日のプレスリリースで1420万視聴に増えてますから、1420万には録画再生も含まれている可能性もあります。

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参考:「亀田興毅に勝ったら1000万円」5時間特番完全ノーカット放送!

 実際にAbemaTV側が番組を何秒表示したら1回とカウントしているのか分かりませんが、テレビ番組のように同じ人がコマーシャルの間にザッピングして戻ってきたら2回とカウントされてしまうはずの数値です。

 サイバーエージェントのプレスリリースでも、ゴールデンウィーク1週間のアクティブユーザー数が550万人で過去最高と書いてありますから、明らかに亀田企画を1420万人は見てません。最大でも550万人です。

 当然ながら上記の550万人は、ゴールデンウィーク1週間全体でのアクティブユーザーなので、亀田企画を見た人数はもっと少ないはず。

 今回の企画は5時間の長丁場だったようですから、同じ人が全員5時間ずっと見続けていたとは考えづらいですし、何度かザッピングしたり途中で見るのを中断した人もいたはず。

 そういう意味では、実際のAbemaTVアプリでの同時視聴数は100万~200万ぐらいだったのではないかと想像されます。

 プレスリリースによると、YouTube Liveでの最大同時接続数が73万人で、AbemaTV以外のメディアでの同時配信のベ視聴数が1170万とのことですから、この1170万の中心がYouTubeだと想像すると大体のべ視聴数の10%ぐらいが最大同時接続数と類推してもそれほどズレていない気がします。あくまで憶測ですが。

 いずれにしても一部のメディアで、今回の亀田企画は1300万人が見たから日本の人口の10%で視聴率は10%だ、と言い切っている発言が散見されますが、これは明らかに間違いで、おそらく実態の視聴率はその10分の1程度。AbemaTVとYouTubeとか全部合わせてもおそらく最大同時接続数は多く見ても200~300万程度と見た方が良いと思います。

 テレビの視聴率はそもそも世帯で見てるはずなので単純比較は危険ですが、人口で無理矢理割るなら1~3%程度とみるのが妥当なのかなと思います。

 もちろん、それでも十分今までの日本のネットの歴史で考えればスゴイ話なんですが。10%と1%ではテレビと比較した場合、意味が全く違ってきます。

■同時接続70万は世界的にはそれほど多いわけではない

 前述の「YTL同時接続70万視聴がどれだけやばいか説明する」の記事は、書いているのがサイバーエージェントグループの社員の方というのもあり、色んなツッコミが散見されたのですが、その中でも比較的多かったのが、70万はたいして多くないとか、70万程度でサーバーが落ちてはダメだろう、というツッコミです。

 記事中では、YouTuberのHikakinさんの同時接続数が普段大体1~2万しかないことを比較対象にしていますが、上場企業が1000万円の賞金かけて実施した番組と、個人のYouTuberを比較する時点であまり意味が無いでしょう。

 ネット上の歴史を紐解くと数十万単位の同時接続の企画は過去にもいくつか散見されます。

 例えば、AKB48前田敦子さんの卒業公演は同時視聴者数が27万人

 

 世界で言うと、ロンドン五輪生中継は、ピーク時に50万人以上が同時視聴

 

 これらは5年前の2012年の記録ですから、今だったら当然もっと行くでしょう。

(※残念ながらリオ五輪の数値は見つけられませんでした。ご存じの方いたら教えて下さい)

 さらにゲーム実況プラットフォームのTwitchは、昨年、平均同時視聴者数で62.2万人を達成しています

 もちろん、これは1つの動画では無くTwitch上の動画全てを合わせた数値なので、比較対象としては適切では無いですが、ピーク時の同時視聴数は206万人を突破とありますから、ピーク時のアクセスの桁が違うことになります。

 また、世界で象徴的なイベントで言うと、オバマ大統領の就任演説は2009年の出来事ですが、ピーク時には770万のビデオストリームが視聴されていたと言われてますし

(※トランプ大統領の就任式がどれぐらいだったのかは見つけられませんでした。ご存じの方いたら教えて下さい。)

 さらにさらに、League of Legendsというゲームの世界大会の2016年のライブ中継の最大同時視聴数は1470万という桁違いの数値なんだとか。

 もちろん、日本国内限定のAbemaTVの企画と、世界が注目するオバマ大統領就任演説とかゲームの世界大会と比べることにも、あまり意味は無いのですが、少なくとも世界的にはライブ中継は、完全に日本国内とは桁違いの世界に行ってしまっているのも事実です。

 もちろん日本においてネット番組の同時接続70万人は間違いなくスゴイ記録なのですが、一方で世界的な視点で見ると、一部の方の70万人とか100万人規模の同時接続でサーバーが落ちるのは恥ずかしい、という指摘は一理ありますし、日本記録更新で大騒ぎしすぎるのは微妙かもしれないとは言えるでしょう。

■視聴数がはねたのはAbemaTVアプリだからとは言いきれないのではないか

 また、もう一つ今回の企画の議論できり分けた方が良いと思われるのは、AbemaTVのスマホアプリとしての実力と、AbemaTVの番組企画の実力です。

 

 亀田企画の視聴数1420万は確かに日本のネット動画においては、明らかに桁違いの成功ですが、AbemaTVのスマホアプリがコンスタントにこのレベルの視聴数をたたき出しているわけではありません。

 亀田企画当日のランキングと、翌日のランキングを比べると、上位の視聴数に大きな違いが出ているのが見て取れます。

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参考:視聴数ランキング | AbemaTV

 目玉企画があるかどうかによるようですが、通常のAbemaTVはトップ10に入るような人気番組でも、数十万視聴というのが現状のようです。

 あくまで、1420万視聴はスパイク的な異常値であり、通常の番組は数十万視聴で同時接続で考えれば数万~10万程度という感じでしょうか。明らかに今回の亀田企画の視聴者にはAbemaTVの常連じゃない視聴者が多数含まれているわけです。

 実際に、AbemaTVでの総視聴数が1420万で、YouTubeLive等の他のサービス経由での総視聴数が1170万ということは、AbemaTVのサーバーが落ちた影響も大きいとは思いますが、AbemaTVのアプリ経由で無くても、1000万以上の視聴数を亀田企画が獲得できたことを示しています。

 そういう意味では、亀田企画の視聴数がここまで桁違いに伸びたのは、亀田興毅と1000万円獲得のガチンコ番組という番組の企画に対する反響が、ツイッター等のネット上で大量に発生したためであり、亀田興毅というタレントが視聴率を持っているのであり、亀田興毅とガチンコという企画を考え出した企画力がスゴイのではないか、という指摘はできてしまうわけです。

 なにしろ亀田興毅は現役時代のタイトルマッチには瞬間視聴率50%超えをしたこともあるそうで、コンスタントに10%超えの視聴率を取っていたアイコンです。文字通り視聴率を持っている選手です。

 Wikipediaの記録を見る限り、2015年10月にアメリカで開催された試合ですら視聴率7%を超えているようですから、ある意味ここまで話題になったネット番組で1~3%の視聴率を取れるのは当然で、今回の番組がもし地上波で放映されていたら、通常の番組と比べてもそこそこの視聴率を取っていた可能性もあるわけです。

参考:亀田興毅 - Wikipedia

 実際、今回の番組放映時にはツイッターのトレンドに多数この亀田興毅企画関連のキーワードが並んでいたようですし、サーバーが落ちたことによって番組の話題がヤフトピで取り上げられる、というヤフー砲のアシストもありました。

参考:興毅氏企画 Abema一時ダウン

 このヤフー砲は番組配信中の20時台に発射されていますから明らかに視聴者数アップに大きく貢献しているはず。

 逆に言うと、サーバーが落ちなければ、実は視聴数はもう少し少なかったかもしれないという可能性もあるわけです。

 もちろん、こうやってネットユーザーを盛り上げるツボを理解している、AbemaTVのスタッフの方々の番組企画力や亀田興毅選手を起用できたアサイン力が素晴らしいのは間違いありません。

 ただ、それを元にAbemaTVのアプリとしての視聴者が、数ヶ月で急増していて常時大量にAbemaTV内をザッピングしていると考えるのは間違いと言えるでしょう。

 実際、プレスリリースを遡ると、AbemaTVの年末年始のアクティブユーザー数が514万で、ゴールデンウィークが550万ですから、最高視聴数は4倍になったものの、アクティブユーザー数のピークはこの5ヶ月で1割も増えてないことになります。

 今回の記録の背景にはAbemaTV側の地道なネタ仕込みや、本番に向けての盛り上げがあり、事前に14万人が視聴予約を行っていたことが下地になっていますから、現時点でただ同じような番組を他社が企画しても、同じレベルの数字をたたき出すのが難しいことも事実です。

 しかし、番組制作力の成功と、AbemaTVのスマホアプリとしての底力の向上を混同するのは危険な気がするわけです。

 

今回の亀田企画にはスゴイ点も多い

 なお、ここまでは、あえてネガティブな話から書きましたが、一方で個人的には、上記の3点を踏まえた上であれば、今回の亀田企画は日本のネット番組の歴史において、新しい可能性を拓いた出来事として振り返られる可能性は高い、とも考えています。

 何と言っても、日本のネット番組のライブ中継において、100万人以上が同時に視聴する番組を作れる可能性が見えてきたというのは、非常に大きい話です。

 以前、日テレで開催されたJoinTVカンファレンスに登壇したドワンゴの川上さんが、数百万人~数千万人が同時に視聴するような番組は技術的にも地上波の方が向いていてネットでやるのはコストが合わないけど、数十万人や数万人視聴の番組はネットの方が向いている。BSやCSは将来的にはネットに置き換えられるのではないか。と指摘されていましたが、明らかにその時代が見えてきたことになります。

参考:日テレ JoinTVカンファレンス2013 | Life is Love and Literacy

 テレビ番組を制作する側としても、今回の亀田企画のような地上波では企画の内容的に放映が難しい挑戦的な番組を作るのであれば、BSやCSではなくAbemaTVのようなネット番組として作る、という選択肢が見えてきたわけです。

 特に今回の亀田企画では、ツイッター等での話題を盛り上げる番組を作ることができれば、ネット番組でも数十万~百万人単位の視聴者をAbemaTVやYouTubeLiveに集められることが証明されました。

 従来のインターネットでは、なかなか同時に10万人単位を同じページや同じ番組に集めることは難しいとされてきましたが、それが可能になるかもしれないわけです。

 ここでポイントになるのは広告モデルでしょう。

 現在のAbemaTVは明らかに投資フェーズで、多額の赤字を前提に先行投資がされ続けています。

 その投資に対して冷ややかに見る方が多いのも事実ですが、もしAbemaTVがGoogleの検索広告のようなネット動画ならではの価値の高い新しい広告を開発することができたら、この状況は一気に変わることになります。

 そもそもGoogleが検索エンジンを開発したときにも、誰も検索エンジンが世界で一番儲かるビジネスモデルになるとは思っていませんでしたし、YouTubeをGoogleが買収したときにも高すぎると批判されていたわけで。

 

 最近のYouTube広告が、広告主が意図していない番組に広告が出てしまうことで批判されていることを考えると、広告主からすると、ある程度テレビ番組の延長で質を担保した番組作りをしているAbemaTVの方が安心して広告を出せる、と広告費をYouTubeからAbemaTVにスライドすることがありえないわけではないわけです。

 

 AbemaTVの視聴者はテレビを見ない若い世代が多いとも言われていますから、そういった世代にピンポイントで広告を出すことができることが証明できたり、実勢に分かりやすく成果が出る広告メニューが開発できると、動画広告における新しいトレンドが見えてくる可能性は間違いなくあります。

 ちなみに、AbemaTVのスマホアプリが1700万ダウンロードで、ゴールデンウィークのアクティブユーザーが550万ということは、アプリをダウンロードしたうち30%程度はアクティブになっているということになります。

 ポイントはこのアクティブ率の動向でしょう。

 

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App Annie Store Statsより

 AppAnnieでAbemaTVのiPhoneアプリのダウンロード数のランキング推移を見ると、この1年間は45位以下に下がらずに安定して上位に入っていることが分かります。当然かなりの広告投資を続けているからこそだと思いますが、アクティブ率さえ維持できれば、このペースでダウンロード数を増やせば、アクティブユーザー数の増加による視聴数の底上げも期待できることになります。

 そういう意味で、年末年始のアクティブユーザー数が514万だったことを考えると、年始に比べるとAbemaTVのアクティブ率が若干下がってそうなのが気になるところではあります。

 一方で、AppAnnieでAbemaTVのiPhoneアプリの売上のランキング推移を見ると、さすがにソーシャルゲーム等に比べると長らく500番位台を推移していて苦労している様子もうかがえますが、最近の取り組みで300番位台ぐらいが見えてきているようにも見えます。

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App Annie Store Statsより

 当然、AbemaTVのチームの方々はこうした数値の生データを見ながら、投資と収入のバランスや、損益分岐点までの距離を測りながら今回のようなチャレンジを続けているはずで。

 他のテレビ局やネット動画のプレイヤーにとっても、こうしたAbemaTVの取り組みから学べることは多いはず。

 そういう意味では、最近hulu.jpからhappyon.jpへのドメイン変更を発表して、ハッピョンといじられてる日テレのHuluや、フジテレビと連携しているNetflix、はたまたニコ生やGoogleのYouTubeがどのように新しい挑戦をしてくるかも興味があるんですが。

 長くなりましたので、今日のところはこの辺で。

 今回の亀田企画をきっかけに、今年は日本のネット動画で、もっと新しいチャレンジがいろいろされていくことを、今から楽しみにしたいと思います。