瀬戸内海は日本有数の「直下型地震多発地帯」

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 日本最大の内海である瀬戸内海は、「瀬戸」(隆起域)と「灘」(沈降域)が繰り返している。この特有の地形は300万年前に始まった中央構造線の活動がもたらしたものだ(大断層「中央構造線」の活動と瀬戸内海の誕生)。ここで大切なことは、隆起と沈降という上下方向の地殻変動の境界には「活断層」が潜んでいるということだ。

日本有数の活断層密集地帯

 瀬戸内海東部、大阪湾周辺の地形(図1)をご覧いただこう。復習を兼ねて説明すると、フィリピン海プレートの北西方向への沈み込みの西向き運動成分によって、「中央構造線」を長大な横ずれ断層として活動し、構造線より南の地塊を西へ引きずっている。この運動に引きずられるように、中央構造線の北側、瀬戸内海周辺域は「変形ゾーン」となってシワ状に隆起域と沈降域が繰り返している。

図1 瀬戸内海東部域の構造(巽原図)
図1 瀬戸内海東部域の構造(巽原図)

 図1で赤線が活断層だ。ただし、これらの断層は確認されたものだけであり、例えば大阪府北部地震で明らかになったように、さらに多くの未知の活断層が地下に潜む。それをさし引いても、この一帯に瀬戸内海の沈降と隆起に伴って、日本列島でも有数の活断層密集域となっている。つまり、「直下型地震の巣」なのだ。25年前に神戸を破壊した兵庫県南部地震は、淡路島隆起域と西側の播磨灘沈降域の境界から「瀬戸内海変形ゾーン」の北縁をなす「六甲・淡路島断層帯」が元凶だ。政府の地震本部の推定によると、上町台地(隆起帯)と大阪湾(沈降域)の境界を走る上町断層を震源とするM7.5クラスの地震が、今後30年以内に発生する確率は2~3%だ。この確率は、阪神淡路大震災発生前日におけるそれと同程度、つまり、明日大阪が直下型地震に見舞われてもなんら不思議ではない。もちろん、大阪湾沿岸地域は、切迫する南海トラフ巨大地震発生時には5メートル超の津波が来襲し、現状では繁華街梅田周辺は水没する。

 2025大阪・関西万博の高揚感に包まれる中、このような巨大災害が忍び寄っていることを忘れてはならない。

 神戸大学海洋底探査センターでは産業技術総合研究所と連携して、瀬戸内海の海底活断層の分布・活動時期・規模などを明らかにする調査を、大阪湾から順次行ってゆく予定である。

密集する断層帯の「恩恵」も

 一方で、中央構造線の活動とそれに伴う断層運動は、風光明媚で豊かな瀬戸内海を造り上げた。つまり、私たちは地震という「試練」とともに、多くの「恩恵」も授かっている。

 例えば、直径30メートル、世界一とも言われる鳴門海峡の渦潮。観潮船や高さ45メートルの「渦の道」から眺めるとあまりの迫力に絶句するほどだ。ここに海峡、すなわち両側に陸地(高地)が迫る地形ができたのも、フィリピン海プレートの斜め沈み込み、中央構造線の活動、それに瀬戸内海のシワ状構造が原因だ。以前にも述べたように(『中央構造線とうどん県』)中央構造線の北側にはプレート運動の北向き圧縮成分によって山地が形成された(図1:阿讃山脈、諭鶴羽(ゆづるは)山地、和泉山脈)。この山地と淡路島隆起帯の交点が鳴門海峡なのだ。

 この海峡で潮流が速くなるのが渦潮発生の原因なのだが、潮流が速くなるのには瀬戸内海の形、すなわち「瀬戸」の存在が大きな役割を果たしている。太平洋側での満潮・干潮による海面の変動は、大きな波となって瀬戸内海へ伝わる(図2)。しかし、紀淡海峡や豊後水道が狭いために波がここを通過するには時間を要する。しかも瀬戸内海にも瀬戸や海峡が存在することで波の伝播はさらに遅くなり、播磨灘では干満潮の時刻が太平洋側より5時間も遅れてしまうのだ(図2)。この時には、太平洋側ではすでに干満のピークは過ぎている。その結果、鳴門海峡の両側では大きな水位の差が生じるのだ。いわばダムで堰き止められた水が鳴門海峡を流れ落ちるために、高速潮流となっている。

図2 瀬戸内海周辺における干満潮時刻のずれ。数字は太平洋沿岸からの遅れ時間を示す。(巽原図)
図2 瀬戸内海周辺における干満潮時刻のずれ。数字は太平洋沿岸からの遅れ時間を示す。(巽原図)

 日本列島は、地球上で最も地震と火山が密集し、地殻変動が激しい「変動帯」である。ここに暮らす私たちは、その恩恵を享受しつつ、試練に対する覚悟と備えを忘れてはならない。