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黒川元検事長疑惑が司法の場へ  政府の文書不開示決定などの取り消し求めて大学教授が提訴

立岩陽一郎InFact編集長
国会での答弁が批判を浴びた森法務大臣(写真:つのだよしお/アフロ)

賭けマージャンの事実が発覚して辞任した東京高検の黒川弘務元検事長の定年を延長した経緯について情報公開を求めた大学教授が、不開示などの決定を不服として、決定の取り消しを求める訴えを大阪地方裁判所に起こした。手続きが不透明との指摘を受けている検事長の定年延長問題は司法の場で審理されることになる。

取り消しを求めたのは神戸学院大学の上脇博之教授。

訴状などによると、上脇教授は1月31日の閣議で定年延長が認められた黒川検事長(当時)について、法務省、人事院、内閣法制局での手続きについて開示を求めたが、このうち法務省は、閣議決定前と閣議後に法務省が内閣法制局や人事院とやり取りをした記録などについては不開示とした。

不開示とした通知書
不開示とした通知書

一部については開示された。しかし、このうち内閣法制局が開示した応接録では、「勤務延長制度の検察官への適用について」とした件名が書かれ、「標記の件名について、別添のとおり、照会があったところ、意見がない旨回答した」と書かれているのみで、法務省と内閣法制局との具体的なやり取りについては記載されていなかった。また、応接録が作成された日付も書かれておらず、「相談年月日 令和2年1月17日~令和2年1月21日」と、やり取りが行われたとされる時期が記載されているだけだった。

開示されたものの不明な点の多い応接録
開示されたものの不明な点の多い応接録

このため、上脇教授は不開示の決定を不服とするとともに、開示された内容についても、「いつ作成された文書か判然とせず、閣議決定前に作成されたものではない可能性が高い」として、一連の開示、不開示の政府の決定を取り消すよう求めている。

きょう(6月1日)大阪地方裁判に訴状を提出した上脇教授と弁護団は次の様なコメントを出した。

情報公開を求めた文書は、黒川検事長の閣議決定に至る判断過程を国民が知るために不可欠なものだ。この裁判で、法務省、人事院、内閣法制局の行政文書の作成や情報公開の在り方を問いたい

黒川元検事長をめぐっては国家公務員法の定年延長規定を使って定年延長が閣議決定されたが、その後、この規定は検察官に適用できないとの人事院の答弁が過去になされていたことが発覚。この点について2月12日に人事院の給与局長は現在も解釈は変更されていないと国会で答弁した。ところが翌13日に安倍総理が国会で閣議決定は法解釈を変更したものと説明したことから、その後、人事院給与局長は、「言い間違えた」と12日の自身の国会答弁について訂正。その不透明な政府の答弁が野党や識者から批判を浴びた。

森法務大臣も自身の発言を撤回して謝罪に追い込まれるなどしており、一連の政府の手続きは、閣議決定を正当化するために政府内で取り繕ったのではないかとの指摘が野党から出ている。

政府はその後、検察官の定年延長や勤務延長を認める検察庁法改正案を国会に提出して成立させようとしたが、安倍総理大臣や森法務大臣の国会での答弁が批判を浴びて採決を見送っている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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