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新型コロナ 高卒を差別する発言があったとして謝罪した蓮舫議員だが、実際にはそうした発言はなかった。

立岩陽一郎InFact編集長
質問する蓮舫議員(4月29日参議院予算委員会)NHK国会中継から筆者撮影

「高卒みたいな可哀想な人達」と国会で発言したとして謝罪した立憲民主党の蓮舫議員だが、実はそうした発言はしていなかった。していない発言で国会議員が謝罪に追い込まれる異様な空気が社会を覆っている。

「このままだと高卒みたいな可哀想な人達が増える!就職どうなる!」

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これは4月29日の参議院予算委員会で立憲民主党の蓮舫議員の発言をとらまえてツイートされたもので、5月5日時点で7800を超えるいいね、2600を超えるリツイートを記録するなど拡散している。

こうした盛り上がりの中で、蓮舫議員は謝罪に追い込まれている。4月30日、蓮舫議員は自身のツイッターで「私の言葉が過ぎました。本当に申し訳ありません」とツイートしている。

蓮舫議員のツイート
蓮舫議員のツイート

この謝罪ツイートは新聞やNHKを含むテレビで報じられている。このため、蓮舫議員が差別発言をしたことは規定事実となってしまっている。

朝日新聞(4月30日)

東京新聞(5月1日)

こうした報道もあって、蓮舫議員が差別発言をしたとのツイートは拡散を続けている。下記のツイートは5月6日現在で7万6000のいいね、2万8000のリツイートを記録している。

拡散を続けるツイート
拡散を続けるツイート

では、実際に蓮舫議員がどう語ったのだろうか?4月29日の参議院予算委員会での時の質疑を見てみた。それは蓮舫議員の、新型コロナウイルスの影響を受けている大学生への支援という質問から始まり、以下の様になっている。

蓮舫議員:持続化給付金の対象に学生を入れますか?

安倍総理:持続化給付金については事業をやっていない人に対しては対象にならないが、学生の皆さんに対しては、今年から高等教育の無償化がスタートします。給付型の奨学金がスタートする。これは、家賃や生活費も出るわけです。この新型コロナ感染症への対応に於いても、その(新型コロナによる)変化によって対象になる方は、そういう給付を行うことになっていますので、言わば、生活費についても給付がなされるということですので、これを是非活用して頂きたい。

蓮舫議員:貸与型奨学金はローンです。給付型(奨学金)も要件狭いです。バイトだけで生活している学生がバイトを切られて家賃が払えなくて、奨学金負担が有って、そして帰省するなと言われて、家も無くなるかもしれない不安で、このままだと大学を辞めなければいけないという人が13人に1人で、フリーランス等の枠に学生を入れてあげればよいじゃないですか。そのスキームの中に入れて、この子は生活もなりたたない。学校を辞めたら高卒になる。就職どうなるか。奨学金が返せない、その不安の声にどうして応えられないのか?

質疑は参議院のウエブサイトで確認できる。

参議院のウエブサイト

この質疑を見ればわかるが、蓮舫議員が語ったのは以下だ。

この子は生活もなりたたない。学校を辞めたら高卒になる。就職どうなるか。奨学金が返せないその不安の声にどうして応えられないのか?

つまり、蓮舫議員は、「高卒みたいな可哀想な人達が増える!」とは言っていない。また、その発言は、文脈から見れば、「学校を辞めたら高卒になる。就職はどうなるか」という党に寄せられた意見を紹介したというものだ。大卒と高卒が就職において異なる採用になることは、その是非はともかく一般的に認識されていることだ。その状況を訴えた声を紹介した発言をもって、高卒を差別した発言と指摘するのには無理が有る。

蓮舫議員の謝罪ツイートにはこの日の審議の速記録が添付されている。恐らく、蓮舫議員も、してもいない発言で謝罪せざるを得ない状態に違和感を覚えていたのだろう。残念なのは、主要メディアだ。上記の審議のやり取りは確認できる。本来していない発言で謝罪せざるを得ない状況をこそ、報じるべきだろう。

新型コロナに関わる言説をチェックしてYahoo!ニュース個人にその記事を出しているが、事実の軽視が顕著になっていることを日々、感じる。

今、していない発言で国会議員が謝罪に追い込まれる異様な空気が日本社会を覆っている。ウイルスには何れ特効薬ができる。しかしフェイクニュースの拡散には特効薬はない。今後もフェイクニュースの特効薬ができることはない。人々の意識だけが頼りだ。

インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加している。このプロジェクトは日本財団とYahoo!Japanの支援で新型コロナの情報を検証するもので、この記事の調査にはFIJの丹羽智佳子リサーチャーが協力している。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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