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新型コロナ フェイクニュースの発信者に告ぐ 

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナの感染者が日々大きなニュースとなる中、同じくらい深刻なのがこれに関連した虚偽情報、フェイクニュースの拡散だ。それらの中には、もっともらしく「病院の人から聞いた情報」といった体裁をとっているものもある。それは医療に従事する人の名誉を傷つけるものだ。また、外国人へのヘイトを助長するものもある。

日本がPCR検査数を抑制していることから検査に関する様々な噂が拡散している。その1つに、「都内の病院に勤務している知人から衝撃的な話を聞いた。 『PCR検査した検体は全て破棄して、患者には陰性と伝えている』そうだ。 上から支持されて毎日毎日検体を捨てては嘘をつくのがツライと嘆いていた。 なんだそれ… 」というものがあった。

このツイートはTwitterで5000リツイート、8000いいねを超えて拡散している。加えて、他にもこのツイート内容をコピーする形で拡散しているものが散見されている。

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本当であれば深刻な話だ。政府が「一日2万件のPCR検査体制」を整備しても、これでは本当の数値は上がらないということになる。しかし、結論を言えば、これは極めて悪質な虚偽情報、つまりフェイクニュースだ。

先ず、都内での検査とはどうなっているのかを東京都の資料から調査した。それが下図だ。

東京都健康安全研究センター 作成
東京都健康安全研究センター 作成

 

以下、東京都内に居住する私がPCR検査を希望した場合で説明したい。現在は保険適用による民間の検査も行われているが、この虚偽情報が拡散した段階の、これまで行われてきた自治体ベースの検査で説明する。

仮に私が発熱や海外渡航歴があり新型コロナウイルスに感染している疑いが有るとする。私は先ず都内の帰国者・接触者相談センター等に相談することになる。発熱の場合は37.5度以上が4日以上続くといった症状が無ければならない。濃厚接触が有っても症状が無ければ検査は受けられない。因みに、これらの要件は緩和されることが決まっている。

帰国者・接触者相談センターが私をPCR検査の対象と認めた場合は、次のステップに進む(そうでない場合は自宅で待機して様子を見るということになる)。

  1. 管轄保健所を通して病院に検査要請が出され、私は検査要請を受けた病院で診察を受けることになる。
  2. 同時に、保健所は東京都福祉保健局に私の検査について通知し、東京都福祉保健局は東京都健康安全研究センターと同時に私についての情報を共有する。
  3. そして私は指定された病院へ行き、そこで検体を採取される。それが拡散されたツイートにある「PCR検査した検体は全て破棄し」の「検体」の採取だ。
  4. 私の検体は、管轄保健所を通し、東京都健康安全研究センターに搬送され、そこでPCR検査にかけられる。
  5. その検査結果は東京都福祉保健局の感染症対策課に伝えられると同時に、
  6. 管轄保健所を通して検査した病院に結果が伝達される。この過程を経て私に検査結果、即ち陽性か陰性かが伝えられる。

この一連の過程で、仮に、ツイートにあるように病院が「PCR検査した検体は全て破棄し」たとする。先ず、管轄保健所や東京都福祉保健局感染症対策課との情報に齟齬が生じてしまう。関係する全ての機関が計画的に破棄することでもしない限り、破棄の事実は直ぐに明らかになる。つまり、この流れを細かく見ていくと、ツイートにあるような「PCR検査した検体は全て破棄し」という事態は不可能なことがわかる。

つまり、ツイートに書かれているようなことは起こりえない。それを「病院の人から聞いた情報」との枕詞をつけることで、人を信じ込ませようとするフェイクニュースだ。この情報の発信者、拡散者は自らの行為が、日々、身を削って奮闘している医療従事者の名誉を傷つけていることを知るべきだろう。

他にも、「日本人は感染者の半分もおらず、外国人が病床を占拠している」などのツイートも拡散している。これらも事実ではない。

厚生労働省の感染者数の公表の中で日本国籍と外国籍が確認されているケースについて数字が記録されているが、ほとんどのケースでは国籍は確認されておらずそれが半数以上を占めている。厚生労働省はそれらの多くが外国籍だとは認めておらず、そうしたデマに頭を悩ませているのが現状だ。中には、厚生労働省の資料を都合よく切り取って拡散させているものもあり、外国人へのヘイトを助長しようという極めて悪質な意図を感じる。つまり、これらもフェイクニュースだ。

ウイルスはやがて克服される。しかし、フェイクニュースは残念ながら残る恐れが有る。その特効薬が開発されるということもない。そして人々を傷つけ、そのフェイクニュースが原因で人の命が奪われる事態も起こり得る。そう考えた時、どちらも同じように社会にとって害でしかない。

これまでもYahoo!ニュース個人に書いてきた様に、インファクトは新型コロナに関する情報の検証を行ってきた。そこから見えてくるのは、あまりにも酷い情報が拡散されている現状だ。それは機械が流しているわけではない。生身の人間が何かしらの意図を持って流している。

だから、フェイクニュースの発信者、拡散者に告ぐ。今、人類が一致して根絶しなければいけないのはあなた達の行為だ。

インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェックプロジェクトに参加しており、この記事の調査にはFIJのリサーチャーが協力しているが、記事執筆の責任は全て編集長の立岩陽一郎にある。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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