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大統領の失脚事件から45年経った米国でトランプ大統領への懸念が更に広がる

立岩陽一郎InFact編集長
45年前、大統領を辞任に追い込んだ事件現場のウォーターゲートビル

6月17日、米国は大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件から45年を迎えた。自らのスキャンダルを抱えたトランプ大統領は、FBI長官に続き、捜査に関係する幹部を解任するのではないかとの憶測が流れ始めている。それは、多くの米国人に半世紀近く前の事件を思い起こさせている。

(参考記事:FBI長官解任でトランプ米大統領の姿が辞任した大統領とダブリ始めた)

トランプ米大統領は、ツイッターで、自身がFBI長官を解任した問題で捜査対象になっていることを認める発言を行った。

ロシアとトランプ政権との関係を捜査していたFBIの長官だったジェームズ・コミー氏を解任した問題は、ツイッターでの発言とは言え、ついに大統領本人が自らが捜査対象になったことに言及する段階に入った。

この問題では、解任されたコミー氏にかわって、コミー氏の前任のFBI長官だったロバート・モラー氏が特別検察官に任命されている。モラー氏は近く、トランプ政権の幹部からの事情聴取に乗り出すものと見られている。

(参考記事:FBI長官の解任はトランプ大統領本人の意向だった)

このモラー特別検察官を任命したのは、司法省のロッド・ローゼンスタイン副長官とされ、トランプ氏は発表の直前まで知らなかったという。その発表時には、「魔女狩りだ」と不快感を露にしたトランプ大統領だが、16日も、「私にFBI長官を解任するよう進言した人物によって、FBI長官解任についての捜査を受けている。魔女狩りだ!」とツイート。

ローゼンスタイン副長官は、表向き、コミー氏の解任を進言したことにされており、トランプ大統領のツイートは、怒りの矛先を副長官に向けたものと見られている。

ここ数日、トランプ大統領がモラー特別検察官を解任するのではないかとの憶測がワシントンに流れている。こうした中、ワシントン・ポスト紙は17日、トランプ大統領がローゼンスタイン副長官を解任するのではないかとの懸念が出ていると報じた。また、ローゼンスタイン副長官が自ら辞任を申し出るのではないかとの憶測も出ていると報じている。

(参考記事:トランプ米大統領弾劾求める声強まる ロシアに最高機密提供の疑いが浮上)

ワシントン・ポスト紙のデスクは次の様に話す。

ローゼンスタイン副長官は司法の独立を守ろうと必死なのだろうが、大統領にはそれが全く理解できないのだろう。残念なことだ。何れにせよ、FBI長官の解任に続き、司法省の副長官が解任にせよ、自主的にせよ辞める事態になれば、ウォーターゲート事件の二の舞になることは間違いない

45年前の6月17日にウォーターゲートビルに盗聴器をもったグループが侵入する事件に端を発したウォーターゲート事件では、当時のニクソン大統領が捜査を指揮していたアーチボルト・コックス特別独立検察官を解任した。このため、議会が司法妨害で大統領弾劾の準備に入り、大統領は弾劾勧告が出る前に辞任に追い込まれている。

※コックス特別検察官は議会から任命されており、司法省から任命されたモラー特別検察官とは異なる。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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