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米トランプ政権のイスラム国への攻撃は市民の犠牲覚悟か?

立岩陽一郎InFact編集長
退役軍人関係の会合を開くトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

ISイスラム国への攻勢を強めているトランプ政権。しかし米軍の攻撃で一般市民が犠牲になるケースが多発しているとの指摘が出ている。このため、市民の犠牲を回避するとした従来の戦術を米軍が転換したのではないかとの懸念が拡がり始めている。

米軍がその事実を認めた3月17日のモスル近郊での空爆では、多くの一般市民が犠牲になったことが付近の住民の証言などで明らかになっている。ワシントンポスト紙は、救出作業にあたっているイラク政府の担当者の話として、破壊された一帯から、女性や子供を含む多くの遺体が収容されたと伝えている。

(参考記事:米トランプ政権、初軍事作戦でつまずき 戦死した米兵の父親が「バカげた作戦」と批判(38))

この他にも米軍の攻撃で市民が巻き添えになるケースが増えているという報告が後をたたない。英国に拠点を置きイラク、シリアでの空爆による犠牲者の数を検証している団体「エアワーズ」は、3月だけで市民約1000人に犠牲が出ていると指摘。過去最悪の数字だとしており、トランプ政権になってから米軍の空爆は明らかに一般市民を巻き込んだものになっているとしている。

米軍は3月17日の空爆について事実関係を調査しているが、このほかにも、トランプ大統領が就任して最初の軍事作戦となったイエメンでの特殊部隊による襲撃で子供を含む市民に犠牲者が出たとことが指摘されている。

トランプ大統領は就任以来、オバマ前政権のイスラム国への対応が生ぬるいと批判。市民を巻き込まないといった配慮が米軍の活動に制限を加えていないか国防総省に対して検討するよう求めているとされる。このため、米軍がイスラム国への攻撃を強化するために、市民を巻き込まないという従来の方針を転換させたとの懸念が拡がっている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

28日、イラクで米軍の指揮を執るステファン・タウンゼント准将が国防総省担当の記者団の取材に応じ、「市民を巻き込まないという従来の方針を変えた事実はない」と述べて、懸念の払しょくに努めた。

しかし、ワシントンポスト紙が、「市民に対する大規模な殺りくという疑惑」という言葉を使うなど、トランプ大統領が進める対テロ作戦に対する疑問の声が大きくなっている。

(参考記事:沖縄で密かに行われていた陸自-米海兵隊合同訓練 米軍映像で確認 進む日米軍事一体化、沖縄でも

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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