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トランプ大統領の「壁」建設のために災害対策、沿岸警備予算を大幅削減へ

立岩陽一郎InFact編集長
与党共和党との会議に出席するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領がメキシコ国境に壁を建設する予算を確保するために、災害救助や沿岸警備などの予算を大幅に削減しようとしていることがわかった。ワシントン・ポスト紙が8日、報じた。「これで本当に米国を守れるのか?」との疑問の声が上がっている。

●壁の予算で来年分日本円で3000億円を計上

ワシントン・ポスト紙によると、トランプ政権はメキシコ国境に壁を建設するための関連経費として次の予算案に29億ドル、日本円にして3000億円余りを計上している。この中には、不法入国者摘発のためのICE(入国税関捜査局)捜査員を1000人増員する予算なども含まれている。

(参考記事:トランプ氏が「カード」にする米軍おもいやり予算)

●災害対策や沿岸警備を大幅削減

その一方で、地震やハリケーンなどの災害対策を取り仕切るFEMA=連邦緊急事態管理庁の予算を11%削減する他、海難救助や洋上での密輸や密入国対策を担当する沿岸警備隊の予算も14%削減する。また、交通機関の安全管理を行うTSAも11%削減され、これによって911の教訓から導入されていたパイロットへのテロ対策訓練なども取りやめになるという。

予算案は、国境警備とサイバーセキュリティーを最重点に策定されたとしているが、壁の建設の為にこれまで国民の安全を守るために行われてきた様々な対策が縮小される結果となっている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (10)~トランプ次期大統領に同盟国防衛で有力紙が苦言? )

特に、FEMAは各州の災害対策への支援も行ってきており、予算削減の影響は大きいと見られる。また、沿岸警備隊の予算削減によって、水際のテロ対策を担ってきたテロ対策チームの活動が休止になるという。これには与党共和党は勿論、これまでトランプ大統領を支持してきた人々の中にも異論を唱える人が出てきているという。

●今月下旬に議会へ

移民政策を取材してきた公共放送NPRの記者は、「壁は単なるシンボルで、実効性がないことは、関係者は皆知っている。その建設のために他の必要な予算を削減して、はたして米国を守れるのか?疑問だ」と話している。

トランプ政権はこのほか、温暖化の防止のための予算などを大幅に削減することにしている。予算案は今月下旬にも議会に示すものと見られる。

メキシコ国境との壁についてはトランプ大統領は直ぐにでも着工に着手したいとの意向を示している。メキシコ国境全てに壁を建設するには数年がかかると見られている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (14)~米トランプ大統領が拒否する所得証明書の開示がなるか?)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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