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過去最高の自分を超えて 瀬戸大也は世界の頂点を目指す

田坂友暁スポーツライター・エディター
写真:高須力

 加藤健コーチと二人三脚で向かう、世界一という夢。そのための大きな第一歩を踏み出すべく、瀬戸大也は福岡世界水泳で頂点獲りに挑む。

東京五輪の悔しさを胸に

世界水泳福岡で目指す自分超え

「代表権は勝ち取れたので、本当にホッとしています。ここから夏に向けて、今回見えた課題を潰していきながらコツコツとしっかりやるべきことをやって、強化に取り組みたい」

 今年4月の日本選手権の初日、400m個人メドレーをこの時点で世界ランキング1位となる4分07秒92で優勝。さらに200m個人メドレーも1分56秒62で制して2冠を達成。そのどちらも派遣標準記録を突破して、世界水泳福岡の代表入りを果たしたあとに、瀬戸は冒頭のように語った。その表情からは、過去の自分を超えたいという強い意志が感じられた。

写真:高須力
写真:高須力

「まずは、世界水泳福岡で自己ベストを更新することがいちばんの目標です。自分の過去最高を超えたいんです」

 これほどまでに自分超えという強い思いを持つその裏には、東京五輪での惨敗がある。東京五輪での金メダル獲得は、瀬戸の水泳人生の全てを懸けた目標であり、夢であった。だから、自分のなかではしっかりと東京五輪に向けて準備をしてきたはずだったのだが、結果は惨敗。その理由は明白だった。練習不足である。

強い自分を取り戻すべく

加藤コーチに弟子入り

 元々、誰よりも練習で自分を追い込む事ができるのが瀬戸という選手の特徴だった。人一倍こなす練習量に裏付けられた体力があったからこそ、前半から攻めるレースをしても後半バテない自信があったし、その自信が瀬戸を世界チャンピオンたらしめた理由でもあった。東京五輪前は、練習不足からこの土台をすっかり失ってしまっていたのである。

 そこで、東海大学で指導する加藤健志コーチのもとに弟子入りを志願。加藤コーチは多くの代表選手を輩出し、リオデジャネイロ五輪の女子200m平泳ぎで金メダルを獲得した金藤理絵を育てた名コーチだ。その加藤コーチの特徴は『練習量』。1回の練習で10000mを泳ぐことなどざらにあるほど、どのチームよりもたくさん練習量をこなす。それだけではなく質も高く、とにかく厳しいことで知られている。

 東京五輪後に加藤コーチのもとを訪れ、指導を依頼したとき、加藤コーチは瀬戸にこう告げたという。

「五輪の金メダルを獲るために、こっちは金メダル級の練習を作る。だからお前も金メダル級の練習で応えてみせろ」

 この言葉で瀬戸の闘争心が燃え上がった。それから約1年。「信じられないくらいしんどいです」と、とにかく桁外れの泳ぎ込みの毎日が続いた。それでも瀬戸は加藤コーチの期待に応えるように、ハードなトレーニングに弱音を吐かず毎日戦い続けている。

写真:高須力
写真:高須力

 かつての自分の強さを取り戻すには、絶対的な練習量が必要だと分かっている。だから、どれだけ苦しい練習だって耐えることができるし、全力で取り組むことができるのだ。

 そうしてこの1年間でじっくりと土台を作り直すことに成功した瀬戸は、今年4月の日本選手権でひとつの成果を手にした。自分が取り組んできたことや強化の方向性が間違いではない、と確信と自信を持てたことで、瀬戸は次のステージへとステップを進めることができた。

 この次のステージ、というのが、『過去最高の自分超え』なのである。

 瀬戸の自己ベストは4分06秒09で止まったままだ。世界チャンピオンへの一歩を踏み出すためにも、まずは過去最高の自分を超えることが目下の課題といえよう。

 また、今大会は世界を相手に活躍する自分を見たジュニアスイマーたちが「自分もあんなふうになりたい!」と、今後の励みになるような泳ぎをしたいと強く願っている。その願いが、瀬戸自身の励みにもなっていることは間違いない。

「世界水泳福岡では、絶対に自己ベストを出す、という目標を達成できるよう頑張ります」

世界水泳福岡2023ガイドブックで担当執筆した原稿の抜粋、加筆修正版です。記事の全文、そのほか世界水泳情報は本誌でさらにお楽しみいただけます

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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