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イギリス留学で取り戻せた自信 松元克央は世界水泳を全力で楽しむ

田坂友暁スポーツライター・エディター
写真:高須力

 メダルを期待された東京五輪で予選落ちを喫し、積み重ねてきた自信を失ってしまった松元克央。そんな松元を奮い立たせたのは、海外のライバルたちだった。

東京五輪で失った自信を

取り戻せた日本選手権

「東京五輪が予選落ちで終わってから、自分に自信が持てない期間がずっと続いていて、レース前になるといつもどこか心の中に『大丈夫かな?』と不安を持つ自分がいました。でも今年の日本選手権で100m自由形とバタフライの2種目で自己ベストを出して、本命の200m自由形でもベストじゃなかったですけど、狙っていたタイムを出すことができた。この結果で、今までの自信のなかった自分を覆すことができたんじゃないかと思います」

 松元は晴れやかな笑顔で、今年4月の日本選手権を振り返った。

 2019年世界水泳の200m自由形での銀メダルという、五輪、世界水泳を通してこの種目で日本人初となるメダル獲得という快挙を引っさげて臨んだ東京五輪は、なんと予選落ち。茫然自失とした表情で「今は何も考えられません」と小さく口にし、プールを後にした。

 そこから、何をしても自信が持てない状態に陥る。試行錯誤を繰り返すも、うまくいかないレースが続いていたなかで出場した昨年の世界水泳ブダペスト。結果は200m自由形で準決勝敗退。東京五輪前には肩を並べて戦っていた選手と、大きく引き離されてしまった現実を見たときに、ふと試してみたいと思ったことがあった。

イギリス留学で気づけた

自分に足りないもの

「世界のトップ選手たちとは、レースに至るまでの過程に差があるんじゃないか」

 そこで松元は短期ながら単身イギリス留学を決意。ライバルであり、東京五輪金メダリストのトム・ディーン(イギリス)が所属するチームの門戸を叩いた。そこにいたのは、苦しい練習も全力で楽しんでいるライバルたちの姿であった。キツくても、しんどくても、それが自分が目指す目標への糧になるなら、喜んで全力で取り組む。

 そんな楽しく全力を尽くすイギリス選手たちの姿を見て、松元は「ああ、水泳って楽しまないとダメなんだ」と気づく。もう、松元に迷いはなかった。

 イギリスで見つけた答えを頼りに、肉体改造、泳ぎや練習への取り組みの改善に取り組んだ結果、今年の日本選手権の200m自由形では昨年の世界水泳銅メダル相当の1分44秒98をマーク。100m自由形は日本新記録という、目に見えて分かる成果も得ることができた。

写真:高須力
写真:高須力

 もう、レースの度に自信を失い、不安に押しつぶされそうになっていた弱い松元はそこにいない。イギリス留学で得た自信が、松元にもう一度世界と戦う準備を整えてくれた。

「世界水泳福岡では、まず自分のパフォーマンスをしっかり出し切ること。たくさんの人たちの協力があって僕はここまでくることができたので、メダルを持ち帰って、お世話になった人たちにかけてあげたいと思っています。あとは、水泳を楽しむ、っていうことは忘れずに最後まで泳ぎたいですね」

世界水泳福岡2023ガイドブックで担当執筆した原稿の抜粋、加筆修正版です。記事の全文、そのほか世界水泳情報は本誌でさらにお楽しみいただけます

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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