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「水泳が日本を盛り上げる!」 キャプテン入江陵介が目指す世界水泳福岡の理想形

田坂友暁スポーツライター・エディター
写真:高須力

 世界水泳福岡の競泳日本代表チームのキャプテンを任された入江陵介。2006年以来17年もの間、日本代表として活躍してきたベテランが目指す領域とは。

栄光と挫折を味わったからこそ

手に入れた心の強さ

 今年で33歳になる入江。高校2年生で初めて日本代表に入ったのが、2006年のこと。そこから17年間、日本代表入りを逃したことはない。代表入りをした当初は右も左も分からない若手だった入江が、2008年北京五輪の200m背泳ぎで5位入賞を果たすと、翌年には世界水泳ローマの200m背泳ぎで1分52秒51の日本新記録で銀メダルを獲得。

 その1カ月後、インカレで100m背泳ぎでも52秒24の日本新記録を樹立し、日本のエースとしてその名を世界に轟かせた。2012年ロンドン五輪は100m背泳ぎで銅メダル、200m背泳ぎで銀メダル、そしてメドレーリレーでも銀メダルを獲得する。

 このままの勢いで世界の頂点への階段を駆け上がりたかったところだが、ロンドン五輪後から周囲のプレッシャーに心と身体のバランスを崩し、2013年の世界水泳バルセロナでは100m、200mともに4位でメダルに手が届かず。

「金を獲らないとエースじゃない。若手も出てきているし、メダルを獲らないと自分の存在意義が分からなくなってしまう」と悔しさから涙をこらえきれなかった。

 その後も日本代表として世界と戦い続けてきたが、リオデジャネイロ五輪でもメダルなしという大きな挫折を味わい、3カ月の長期休養を取る。引退も考えたが「もう一度、あの表彰台からの景色が見たい」と現役続行を決意。

 このあたりからどこか吹っ切れた様子を見せ、マイナスなコメントは少なくなっていく。また、世界との距離や代表チームでの自分の立ち位置などを冷静に判断し、客観的な目線で自分を評価するようになっていった。

写真:高須力
写真:高須力

 そして「まだまだ自分にはやるべきことがある」と、あらためてパリ大会を目指すことを決めた。

 迷い、苦しみ抜いた時間があったからこそ、手に入れることができた心の強さ。それが、33歳のベテランとなった今でも『世界一美しいフォーム』と言われた泳ぎを維持し、記録も落とすことなく世界と戦い続けられている大きな理由なのである。

会場に来た観客の皆さんが

楽しんでもらえるレースがしたい

 入江は先輩たちと共に戦ってきた世界水泳や五輪を通して、リレーの盛り上がりを肌で感じてきた。日本の水泳、そしてスポーツを盛り上げるためには、世界と戦える強い“チーム”である、という証明が必要だ。その証明ができるのが、男子メドレーリレーでもある。

 入江が200mの出場をやめて100mに注力することを決めたのも、200mを泳ぐことの肉体的負担、精神的負担のことを考えた結果でもあるが、日本代表チームで戦うリレーのことも考えた上での決断だった。

「昨年の世界水泳ブダペストのメドレーリレーでは予選落ちという、悔しい結果で終わってしまいました。でも今大会はチャンスがあると信じています。ほかのメンバーも強いですし、僕が第1泳者として今よりもタイムを上げられれば、世界と戦えると思います」

写真:高須力
写真:高須力

 リレーという種目の面白さ、楽しさを知っているからこそ、近年メダルから遠ざかり、世界と戦えなくなってしまっている現状が悔しく、寂しくもあるのだ。だからこそ、まずは個人の100mで結果を残すことを目下の目標に据える。それが、結果としてチームとして戦うリレーにもつながるからだ。

「メドレーリレーは歴代の先輩方がつないでくれた大切な種目でもありますし、男子の800mのフリーリレーもリオデジャネイロ五輪ではメダルを獲っています。でも、もうそれをファンの皆さんも、若手の選手のなかでも忘れてしまってる部分って結構あると思うんです。だからこそ、もう一度日本チームが世界大会のリレーでメダルを獲れるだけの強さを持っているんだ、ということを世界にも日本の観客の方々にも伝えられるような結果を残したいですね」

世界水泳福岡2023ガイドブックで担当執筆した原稿の抜粋、加筆修正版です。記事の全文、そのほか世界水泳情報は本誌でさらにお楽しみいただけます

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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