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世界水泳初の快挙なるか 金色に輝くメダルを狙う玉井陸斗

田坂友暁スポーツライター・エディター
写真:高須力

 日本飛込界の止まっていた時計の針を動かした。昨年、21年ぶりとなるメダルをもたらした玉井陸斗は、世界水泳福岡でさらに上の色のメダル獲得を目指す。

21年ぶりの歓喜をもたらした

15歳の銀メダリスト

 世界でしろがね色に輝くメダルを胸に誇らしげな表情で表彰台で笑顔を見せる15歳の少年。この光景は、多くの人の目に焼き付いて離れないことだろう。

 玉井陸斗が、2022年にハンガリー・ブダペストで開催された世界水泳において、日本飛込界に21年ぶりとなるメダルをもたらした。しかも、長くこの種目において世界の覇権を握る中国の一角を崩しての銀メダル獲得である。

「めちゃくちゃうれしいです。プレッシャーもありましたけど、そのなかでメダルを獲れたというのは自信につながります。21年前に偉大な先輩の寺内(健・ミキハウス)さんが獲得したメダルの色を超えられたのもうれしいです」

 2022年の世界水泳ブダペストでは、多くの国が東京五輪を契機にベテランたちが引退して若手にスイッチ。世代が変わったことで、玉井を含めて決勝に進んだ各選手が行う演技の難易度と技の完成度がほぼ同じレベルに収まっており、誰にでもメダル獲得のチャンスがある、という状況になっていた。

 このチャンスを、玉井は見逃さなかった。

 1本もミスが許されない戦いが続く決勝で、玉井は高難易度の技でも入水を決めて得点を積み重ねていく。

 一時は順位を4位に下げたが、最終ラウンドには得意技である5255B(後ろ宙返り2回半2回半ひねりえび型)で高得点を叩き出し、強豪中国の一角を崩して銀メダルを獲得。寺内が21年前に獲得した銅メダルを超える結果に、玉井はこぶしを振り上げて喜びを爆発させた。

写真:高須力
写真:高須力

 玉井を指導する馬淵崇英コーチは「回転力が抜群に良い。入水の技術もとても高いので世界のメダルが狙える選手」と、小学生の時から玉井のポテンシャルを見抜いていた。

 その理由のひとつに、技の難易度がある。通常、飛込選手は小学生、中学生と年齢が上がるにつれて難易度を上げていき、高校生以上になってようやく世界を目指せる難易度の技が飛べるようになる。

 ところが、玉井は小学生のときからすでに日本トップで戦う大学生や社会人選手たちと同じ難易度の技ができていたという。しかも、その完成度は高かった。だからこそ、中学1年生になったばかりの2019年4月に迎えた全国大会デビュー戦で、いきなり男子高飛込で優勝を果たすことができたのである。そしてこの優勝をきっかけに、玉井は世界への階段を駆け上がっていき、昨年にはついに世界のメダリストの仲間入りを果たしたのである。

強豪中国を倒し

世界水泳金という快挙を狙う

 目標を見事に達成できた2022年シーズンを終え、世界水泳福岡に向けて新たにスタートを切った玉井は課題修正に取り組む。

「207B(後ろ宙返り3回転半えび型)や307C(前逆宙返り3回転半抱え型)といった、後ろ向きに宙返りして入水する技が苦手なので、その精度を高めるために基礎から作り直してきました」

 自身2度目の世界水泳となる今大会では、夢は大きく『金メダル獲得』を目標に掲げる。

「昨年は銀メダルという結果で終わってしまったので、次こそは金メダルを獲るぞ、という気持ちです」

写真:高須力
写真:高須力

 強豪中国を相手にして、銀メダルに“終わってしまった”と言ってのけるところも、玉井の剛毅なところである。

 もちろん、玉井は十分に金メダルを狙える演技構成を持っている。ただし、6回飛ぶ演技全てをノースプラッシュで『ほぼ完璧に決める』ことが条件だ。通常であれば、世界トップクラスのダイバーでも1、2回は入水のミスは起こしてしまうもの。それでも、笑顔でさらっと「金メダルが目標」と言ってしまえる玉井なら、そんな難しい課題すら難なくやってのけてしまうのではないか。そう思えてくる。

 自分が諦めなければ、必ず報われる瞬間が訪れることを玉井は知っている。だから、絶対に最後の一瞬まで諦めない。

 意志の強さを力に変えて、玉井は飛込界初となる世界水泳金メダルという快挙に挑戦する。

世界水泳福岡2023ガイドブックで担当執筆した原稿の抜粋、加筆修正版です。記事の全文、そのほか世界水泳情報は本誌でさらにお楽しみいただけます

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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