故郷への道 ― 帰省に真剣に向き合った夏に ―

シリアのアルホール・キャンプで、水を運ぶ子どもたち。2020年1月(写真:ロイター/アフロ)

世界の多くの場所がいつもと違う8月を迎える中、日本はお盆に入った。

ここ2週間ほど、メディアは「今年の帰省は?」と題して枠を設け、行政や専門家の発信、市民の迷いと選択を伝えていた。結果的に動かないことにした人も、用心しながら帰ろうと決めた人も、いつも以上に故郷の家族と相談したり、故郷に思いを馳せたりする時期になったと思う。

他方、7月9日時点で、災害で自宅を離れ、避難生活を送る人は全国で43187人。うち、自県外への避難者数は、福島県から29706人、宮城県から3841人、岩手県から944人となっている(以上、復興庁発表)。先月の令和2年7月豪雨でも、全国で941棟が全半壊、7916棟が床上浸水の被害を受けた(総務省消防庁8月14日発表)。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行下で復旧にも時間を要しているが、そのような中でも、各自治体では急ピッチで生活支援が進められ、熊本県では7市町村19団地で、683戸の整備が進行中だ(熊本県8月14日発表)。

7950万人が故郷を離れて避難生活

6月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した推計では、内戦や暴力行為、深刻な人権侵害や、自然もしくは人為的災害などによって家を追われている人は、2019年末時点で世界で7950万人となり、再び最多を更新した。うち、2600万人が難民として他国に、4570万人が国内の別の場所に避難している。母国別の内訳では、

  • シリア 660万人
  • ベネズエラ 370万人
  • アフガニスタン 270万人
  • 南スーダン 220万人
  • ミャンマー 110万人

と続き、これら5ヵ国で全体の68%を占める。シリアで内戦が始まる前の2010年の人口は2108万人(世界銀行発表)で、国民の約3人に1人が家を追われている状況だ。

シリア北東部、イラクとの国境に近いアルホール・キャンプには、約65000人が身を寄せている。シリアの国内避難民や、イラクはじめ60ヵ国あまりから逃れてきた人やキャンプで生まれた人が暮らし、その65%は12歳以下の子どもだ(国連人道問題調整事務所(OCHA)発表)。今週、国連児童基金(UNICEF)とセーブ・ザ・チルドレンは、8月6~10日の5日間で5歳未満の子ども8人が栄養失調に起因する合併症や心不全などで亡くなり、今年前半との比較で死亡率が3倍に跳ね上がっていると伝えた。今年前半は週平均2.5人が亡くなっており、それでさえ事態は十分に深刻だ。

キャンプでは、安全な水・食料・衛生的な環境などの不足、暴力や避難の中で受けた外傷、猛暑などにより、多くの人が命の危険に脅かされている。新型コロナ対策に伴う移動制限や検疫強化が、人材や医療・非医療物資などの支援活動の継続をいっそう困難にもしている。さらに、7月10日に国境を越えてシリアに人道支援を行うための国連決議2504号が期限切れを迎えるのに先立ち、国連安全保障理事会では7月8日、2つの決議案が採決されたが、いずれも否決される結果となった。セーブ・ザ・チルドレンによると、キャンプに24ヵ所ある医療施設のうち、現在稼働しているのは15ヵ所。3つの病院のうち2つは閉鎖となり、残る1つも活動の規模を縮小せざるをえない状況にある。

「こうしたキャンプで生まれた子どもたちであっても、法の下で保護される権利がある」と、UNICEFのヘンリエッタ・フォア事務局長は強調する。こうした権利には、家族との再会や、両親があとにした国への帰還も含まれる。彼らの命と暮らしを守り、将来の帰還を実現するためにも、人道支援のルートの確保と継続は喫緊の課題だ。

故郷への道がだれにも開かれるように

今年2月に数週間来日して大学院の研究室で机を並べた疫学専門家は、シリア出身の女性だった。首都のダマスカスで大学を卒業したあと、イギリスのリバプール大学の大学院に進み、現在もそこで研究者として勤務している。彼女が働き始めたころからシリアの内戦は激化。両親はダマスカスにいるが、親戚は激しい戦闘の舞台となったアレッポにもいて、心配は募るものの、もう何年もシリアには戻っていないという。彼女は進学・就職と自らの道を選び、私はラッキーなのよと明るく微笑んでいたが、故郷への道は容易には開かれない。

私たちがこの夏、家族を守るために帰省の選択を真剣に悩み考えたように、避難先で暮らす人びとの、故郷とそこに留まる家族への思いは同じだ。