Yahoo!ニュース

男子バレー世界選手権、フランス戦へ。守護神山本智大が明かす日本の守備力を向上させた「2つのサイン」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
日本の守護神、レシーブの柱となるリベロの山本智大(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「日本のブロック&ディフェンスは世界一になれる」

 小学生の頃から数えて、バレーボール歴を振り返ればずいぶん長くなった。

 昨夏の東京五輪にも出場し、日本の守護神として世界選手権にも出場する山本智大が大会を前に語ったのは、フィリップ・ブラン監督が徹底する「ブロック&ディフェンス」の緻密さだった。

「こんなにブロックとディフェンスの関係性を指導してくれるのは長いバレーボール経験の中でも初めて。ブランに『日本備型のチームなので、ブロックディフェンスの関係性は世界一になる』と言われた通り、もっと緻密にやっていけばボールが落ちないチームになるんじゃないかと思って練習しています。1本でも2本でも多くつなげば世界の強豪相手にも戦っていけると思うし、ブロックサインも昨年(の東京五輪)に比べて2つぐらい増えました」

 相手のサーブをレシーブし、攻撃を展開する際にアタッカーやセッターがサインを出すように、自チームのサーブ時にもブロッカーが後方のレシーバーにサインを出す。どこから攻撃に入るか。どの位置でブロックに跳ぶか。時間にすれば数秒にも満たない短いサインのやりとりによって事前に互いがどう動くかは明確になり、なおかつ共有されていれば相手の攻撃をつなぐ確率が増える。

 世界の強豪にチャレンジするばかりでなく、世界の強豪となるために。新たに今季から増やされた2つのサインの中身を、山本が説く。

「たとえば相手のトスがレフトに上がるとします。そこでミドルが追いつけない状況だとしたら、今まではサイドブロッカー1枚、ミドルも頑張って追いついて1枚半でできるだけ2人の間を詰めるようにして(ブロックに)跳んでいました。でも今季からはあえて“アケ”というサインをつくって、ミドルは無理に追いついて間を詰めようとするのではなく、インナー側を絶対に抑える。サイドブロッカーとミドルの空いたところにリベロとアウトサイドの選手を2人入れて、空けたコースを拾うようにしました。トスや攻撃が速いチームになればなるほどミドルが追いつけない状況はたくさん出てくるので、無理やり跳びに行かず、わざと空けてディフェンスする。ネーションズリーグでもかなりの本数を拾うことができたので、機能していると思います」

無理にブロックですべてをカバーするのではなく、抜けたコースはリベロとアウトサイドの選手がレシーブする。ブロック&ディフェンスが機能するのも日本の強みだ
無理にブロックですべてをカバーするのではなく、抜けたコースはリベロとアウトサイドの選手がレシーブする。ブロック&ディフェンスが機能するのも日本の強みだ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

役割を明確にするサインとシステム

 昨年までもケースバイケースで同様のパターンは発生した。だがあくまでも個人の判断によるもので曖昧ではあったため、今季からはより徹底すべくサインをつくって明確化した。さらに別の状況では、相手のサーブレシーブがネットから離れ、スパイカーからも離れた位置に返った際も、ミドルブロッカーは相手ミドルの攻撃を選択肢から捨て、打ってくる傾向の高いサイドへ寄る。これまではミドルブロッカーの判断に任せていた状況も、同様にサインとしてチームに定着化させたことで、確実にスパイクボールをタッチする回数も増えた。

 たとえそこで決められたり、裏をかかれてセッターにミドルの速攻を選択されて決まったとしても「なぜそうしたか」という理由は明確で、責任を擦り付け合うことはない。

 レシーブ力や、判断力など個々の力が高まったことに加え、迷いがない。それこそが何より、今の日本代表が持つ最大の強みでもある。

ブロックに当たったボールや拾えるボール、つなぐべきボールは確実につなぐ。明確になった役割と共に意識の向上も日本の強さの源だ
ブロックに当たったボールや拾えるボール、つなぐべきボールは確実につなぐ。明確になった役割と共に意識の向上も日本の強さの源だ写真:REX/アフロ

いざ、フランス戦へ

 試合を重ねるごとに進化を遂げ、期待が高まる。この日本代表ならば大会前から掲げるベスト8、いや1つ上回るベスト4も決して夢ではないのではないか。そんな高揚感の中、今夜、準々決勝進出をかけ、日本代表はフランス代表と対戦する。

 フランスは東京五輪で金メダルを獲得した紛れもない世界王者であるだけでなく、育成年代とされる10代前半から、将来を見据えた国によるタレント発掘、一貫指導のもとで強化されてきたゴールデン世代とも言うべき“個”が集う最強の集団だ。ただすごい、ただ強いだけでなく、選手たちが誰よりバレーボールを楽しんでいると伝わってくる、高い基本技術から織りなす“魅せる”バレーが何より面白い。

 日本が目標達成のために超えるべき「壁」として、これ以上ないほど最強で最高の相手だ。

 そんな相手に対し、どう戦うか。指揮官が緻密に説き、チームとして磨いたディフェンス力、そしてサーブ力。決して曖昧ではない“やるべきバレー”ができれば、日本代表が勝機を見出すチャンスはあるはずだ。

 決戦まであと11時間あまり。どんな戦いが見られるだろう。つながる1本、つながらなかった1本、その理由を少しでも探るべく冷静に。とはいえ「頑張れ」と抑えきれないエールも込めて。その時を、楽しみに待ちたい。

世界選手権で母国と対するブラン監督。緻密な戦術を遂行、体現できるかが勝敗のカギとなる
世界選手権で母国と対するブラン監督。緻密な戦術を遂行、体現できるかが勝敗のカギとなる写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事