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【男子バレー世界選手権】キューバ戦で6ブロックの小野寺太志が4年で見せた進化と変化

田中夕子スポーツライター、フリーライター
キューバ戦で6ブロックと活躍したミドルブロッカーの小野寺太志(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

キューバ戦で見せたブロック

 対峙するのは世界最高のミドルブロッカーと呼ばれる、ロベルランディ・シモン。2009年のワールドグランドチャンピオンズカップで対戦した当時の日本代表でミドルブロッカーとして出場した松本慶彦、富松崇彰が大会後の取材で揃って苦笑いを浮かべ「あれは反則」とばかりに称えた選手だ。

「全力でジャンプして、打つぞ、と前を見るとそれこそ壁みたいにドーンといる。まさに“そびえ立つ”ってこういうことか、と。大げさじゃなく、シモンは胸の下までネットの上に出ていた。それぐらいの圧と存在感でした」

 それから13年の月日が流れた2022年8月30日。スロベニア、ポーランドで開催されている世界選手権で日本代表はキューバ代表と対峙した。35歳になったシモンも代表復帰を果たし、やはり変わらぬ存在感を放つ。

 だがそのシモンをブロックして見せたのが日本のミドルブロッカー、小野寺太志だった。

 第1セットを日本が先取して迎えた第2セット序盤、4対4の場面でシモンの速攻を小野寺が1枚でブロック。セッターからのトスが低く、本来の高さを活かしきれず、通過点が低かったことも小野寺にとってはプラスに転じたが、それでもあのシモンを止めた。その後も勝負所で立て続けにブロックポイントを重ね、試合後に日本バレーボール協会から提供された映像コメントでは「拮抗した場面でブロックポイントが出たところはよかった」と満面の笑みを浮かべた。

ブラジル戦では相手の攻撃に屈するも、キューバ戦では日本の壁となる活躍を見せた
ブラジル戦では相手の攻撃に屈するも、キューバ戦では日本の壁となる活躍を見せた写真:REX/アフロ

器用ゆえの悩みと東京五輪後のもどかしさ

 小野寺が初めて代表入りを果たしたのは15年。東京五輪に向け、大学生を始めとする若手選手を積極的に招集される中、202センチの小野寺は日本にとって待望の大型選手だった。

 中学まで野球をしていた運動能力の高さは高校でバレーボールに転向してからも活かされ、宮城の強豪・東北高でミドルブロッカーとして1年時から多くの試合に出場した。中学や高校ではまず勝つためにと大型選手はブロックやスパイクばかりが重視され、レシーブが免除される環境も少なくないが、当時から小野寺の将来を見据え、東北高では後衛でのレシーブ練習も重視。その成果は日本代表に選出された東海大での活動時や、卒業後のVリーグ、JTでも「器用な2m」として重宝された。何しろ思い返せば、シニア代表として初めて試合に出場した17年のワールドグランドチャンピオンズカップではミドルブロッカーからアウトサイドヒッターへの転向も真剣に考えられたこともあるほどだ。

 JTで元オーストラリア代表のトーマス・エドガーや中国代表の劉力賓と共にプレーしただけでなく並んでブロックに入ったことや、2019年のワールドカップ時に現在日本代表監督であるフィリップ・ブランから試合時の映像をどう見るか。データの活かし方などを徹底指導され、それまでは感覚で跳んでいたブロックも事前準備を重ねるだけで効果が飛躍的に得られることを実感した。

 ただ大きいだけではなく、日本を代表するミドルブロッカーの1人として国内外で活躍の場を広げ、昨夏の東京五輪にも出場。同級生でアンダーカテゴリーの頃から日本代表としてプレーしてきた石川祐希と共に、チームをけん引する立場も担った。

 だが、東京五輪を終えて以後、同じミドルブロッカーの山内晶大や髙橋健太郎がVリーグで攻守において進化を示す一方、小野寺はと言えば決して目覚ましい活躍ができたわけではない。高さと打ち分ける技術で次々決めたスパイクもタイミングが合わずに決めきれず、ブロックも移動や手の出し方が中途半端で、せっかくの高さも相手に使われ、ブロックアウトを取られるたびに悔しそうに宙を仰ぐ。そんなシーンを何度も見た。

 何よりもどかしさを感じていたのは小野寺自身でもあった。

「しっくりこないんです。技術面もそうですけど、気持ちの部分でもぶわーっと燃えるものがなかったり、なかなかついてこない。世界の高さと勝負するにはもっとやらないといけないことがあるとわかってはいても、目先のことしか目がいかない。ずーっとモヤモヤしていました」

アウトサイドヒッターとして出場した2017年のグラチャンバレー
アウトサイドヒッターとして出場した2017年のグラチャンバレー写真:西村尚己/アフロスポーツ

「ミドルブロッカーがカギになる」

 とはいえ現役選手である限り、東京五輪が終われば次の五輪を目指して始動する。6月から7月にかけて行われたネーションズリーグで試合を重ね、取り組んできた成果や課題が露わになり、ミドルブロッカーとして自身が果たすべき役割も明確になるうち、少しずつ靄も晴れていく。

 特にブラン監督が重視するフロアディフェンス、ブロック&レシーブの強化において、小野寺の存在は不可欠であり、だからこそ、日々の指導は細かく求められる内容、質も高くなる。コーチ時代から通して5年目となる指揮官とのやり取りを、小野寺はこう明かす。

「僕はJTでも外国人監督と一緒にプレーしてきて、その方々からもブロック、ディフェンスの指導は細かくされてきましたが、基本的には1個1個を切り分けて考えていた。1つのプレーの中で同時に言うのではなく、ブロックはここを抑えるべきで、ディフェンスはここに入る、と。でもブランの場合は1プレーの中でブロックとレシーブの位置取りを決めたうえで、相手選手の特徴も伝える。たとえばこの選手はブロックの上から来るとか、(ブロックの)間が開いていたらこう来るからこう守る、と型にはめていく。チームとして取り組むべき形をブランが持っていて、それを僕たちがやる。だからブランが思い描く海外選手のプレーを僕らもイメージしながら実際に練習して、試合でも当てはめていく。他の監督と比べても、すごく緻密で、ネーションズリーグではその成果が出ていたと思います」

 攻撃面も同様だ。これまでも、ミドルの決定本数が少ない、ミドルが決まれば、と飽きるほど聞いた。改善すべく、昨季までやネーションズリーグでの課題を活かし、世界選手権ではより積極的にセッターの関田誠大がミドルの攻撃を多用し、多少パスが離れた位置に返っても当然ミドルの選択肢が含まれていると考え、小野寺や山内も攻撃に入ることを意識した。

 そして、最もミドルの攻撃を通すのが困難だろうと思われたキューバ戦で、関田のゲームメイクは序盤から冴え渡る。第1セットから積極的に小野寺、山内の攻撃を使い、決めさせただけでなく、「ミドルがある」とキューバに意識づけたことで相手のミドルブロッカーもサイドへの移動が遅れる。

 世界最高と名高いシモンをもってしても、最後までミドルへの警戒を外さずにいたため、両サイドへのブロックが手薄になり、西田有志、石川祐希、髙橋藍の攻撃が1枚から1.5枚のブロックに対して気持ちよく決まる場面が何度も見られた。

 大一番の試合を3対1で勝利し、決勝トーナメント進出。試合後、日本協会からの提供コメントで「この試合が最もミドルブロッカーの存在感を発揮したことについて」と尋ねられると、小野寺は嬉しそうな顔を浮かべながらも、目標のベスト8をかけた決戦へ、表情を引き締めた。

「ネーションズリーグではミドルブロッカーの存在感があったからこそよかった、と自信を持ってプレーしていたので、(世界選手権で)勝つためにも僕たちが大きなカギになると思っていた。負けたら終わりの一発勝負、いい準備をして1つ1つ勝っていきたいです」

 対戦相手は今夜行われる1次リーグ、他国の試合結果を持って決まる。どこが相手になろうと変わらない。ミドルブロッカーとして、果たすべき役割を成し遂げるだけだ。

ミドルブロッカーの柱として主将の石川と共にチームをけん引する
ミドルブロッカーの柱として主将の石川と共にチームをけん引する写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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