Yahoo!ニュース

男子バレー世界選手権、日本は1勝1敗でキューバ戦へ。石川祐希「何が何でもキューバに勝ちます」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
1次リーグを1勝1敗とした日本。次戦のキューバ戦にすべてをぶつける(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

西田のサービスエースで最高のスタートも

 スタートは狙い通り、最高の幕開けだった。

 西田有志のサーブから始まるローテーションで、いきなり西田がノータッチでのサービスエースで日本が1点を先制。2本目もブラジルのミスを誘い、3本目もサービスエース。3対0と最高のスタートを切った。

 ブラジル、イオアンディ・レアルの連続サービスエースで同点とされるも関田誠大のサービスエースで7対5。中盤にも髙橋藍の好守から小野寺太志、山内晶大のブロックポイントで得点を重ねた日本は16対12と4点のリードを奪った。

 26日の開幕戦でカタールにストレート勝ちを収めた日本に対し、ブラジルはキューバにフルセットでの辛勝。セットカウント0対2からのグレートカムバックによる逆転勝利は、さすが絶対王者と呼ばれる強さを発揮するものではあったが、スパイカーが欲する高さとセッターのトスに差が生じ、コンビの精度は今ひとつ。日本との第1セットでも日本のサーブで攻め立てられ、守備の連係に乱れが生じる場面も見られ、実に29年ぶりとなるブラジルからの勝利も決して遠い夢ではないように感じられた。

 だが、ここで底力を発揮するのが絶対王者といわれる所以でもある。

 山内の攻撃をブラジルのミドルブロッカー、ルーカス・サートカンプが1枚で止め17対16と1点差に迫り、リカルド・ソウザのサーブで崩したところを同じアウトサイドヒッターのレアルが決め18対18、日本が要求したタイムアウト明けのラリーで大塚達宣の攻撃がブロックに阻まれ18対19。

 まさにこれがブラジルの強さ。東京五輪を終えた直後のインタビューで、西田はこう語っていた。

「ここ、というポイントをブラジルは絶対に逃さない。決めるべきところを必ず着実に決めてくる。言葉にすると簡単なんですけど、振り返った時に絶対“あの1点”というポイントがあって、そこを逃さず、取り方を知っているのがブラジルの強さなんです」

 大塚に代わり石川祐希を投入したが終盤にもレアルのスパイクで得点を重ねたブラジルが25対21で日本を振り切り、第1セットを逆転で先取。第2セットは18対25、第3セットは16対25で連取したブラジルがストレートで1次リーグ2勝目を挙げた。

西田のサービスエースで最高のスタートを切るもブラジルの組織力を前にストレート負けを喫した
西田のサービスエースで最高のスタートを切るもブラジルの組織力を前にストレート負けを喫した写真:YUTAKA/アフロスポーツ

ブラジルが見せた「個」の力と「組織」力

 試合後、日本バレーボール協会から提供されたコメントで、関田、山本智大といったこの試合でも随所で好守を見せた選手たちが「ブラジルのディフェンスがよかった」と述べていたように、日本の攻撃に対するブラジルのブロック&ディフェンスはセットを重ねるごとに鉄壁さを誇った。

 ミドル、サイドブロックがどこに跳んでどのコースをレシーブする、と明確になっているため、アウトサイドヒッターに比べてレシーブが不得手とされがちなミドルの選手がサーブを打った後も、守るコースにボールが飛んでくる。そしてそのボールを的確、かつ正確にレシーブし、つなげたボールを強靭なパワーと技を持つスパイカーが着実に決める。

 さらに特筆すべきは、日本の攻撃やサーブで1本目のレシーブが崩されたところでも、2本目をセッター以外の選手がセットする際のハイセットの質が素晴らしかった。多少崩れた体制でも決められる高さにトスが来るため、日本のブロックが揃っていてもブラジルのスパイカー陣は時にブロックへ当てて出し、また別の時は空いたコースに落とす。個の力と組織力が見事に融合されていた。

 あわや初戦でストレート負けを喫する危機から逆転勝利を得た底力を、日本戦ではより強固なものとして発揮したブラジル。日本対策もネーションズリーグとは比較にならず、日本バレーボール協会提供のコメントで、石川も「僕たちのデータをしっかり学んでこの試合に臨んできたと感じた」と述べていた。

個の力、組織力、修正力。ネーションズリーグから新たにメンバーが加わり厚みを増し、さすがの強さを発揮したブラジル代表
個の力、組織力、修正力。ネーションズリーグから新たにメンバーが加わり厚みを増し、さすがの強さを発揮したブラジル代表写真:YUTAKA/アフロスポーツ

30日、大一番のキューバ戦へ

 第1セットの入りや、ネーションズリーグでの戦いぶりから、「ブラジルにも勝てる」という自信があっただけに、悔しい1敗ではある。だが、試合は続く。しかも次戦、30日のキューバ戦は勝てば決勝トーナメント進出が大きく近づく大一番だ。

 大会前からフィリップ・ブラン監督や主将の石川が「3戦目のキューバ戦が大事な試合になる」と話していたことが、まさに現実となった。

 来るべきキューバ戦へ向け、石川が、日本代表が掲げる思いは1つ。

「何が何でもキューバに勝ちます」

 30日、日本時間21時からのキューバ戦に、すべてをぶつける覚悟だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事